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吾輩はねこである。えっ、マジで!?  作者: ぬこぬっくぬこ
第三部 なんだかカオスな感じになってきました。あ、最初からか。
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第二章 ほんとあの時期の泣き声はひどいんです

 今日は久々の縄張りマーキングである。

 雪も溶け、辺りは春の兆しがちらほらと芽吹いている。

 えっ、冬の間は何してたかだって?

 そんなの冬眠してたに決まってるじゃないですか。


 まあ、冬眠は言いすぎだけど、暖炉の前でずっと丸くなっておりました。

 冬の寒さは猫には堪えるのですよぉ。


 人間になって過ごそうにも、王子の婚約発表の場でやらかしたからフィーネに化けることもできない。

 かと言ってジョフィは未だ迷宮で行方不明の状態。

 ならば別の誰かにと思ったが、今のオレにはその2種類にしか化けれない。


 ゲームの中でのジョセフィーヌは冬場でもティア嬢の腕に抱かれていたが、オレには真似できそうにない。

 それにもう、環境は変わって来ている。今のティア嬢にはバットエンドのフラグは無いだろう。

 オレが付いていなくても、ティア嬢はきっと、もう大丈夫なんだ。


 という訳でここのとこはずっと猫のままでお留守番であった。

 ダンジョンの瘴気についてはティア嬢にお任せである。

 女神猫もオレと一緒に学院にも行かず猫の状態でくるまっていたし。


 しかしコイツ、ぴったりくっついて来るのはいいが、温もって来ると熱いのか、オレをソファーから蹴り落とすんだよな。

 何度暖炉に向かって転がって燃えそうになったことか。

 オレの最大の敵はコイツなんじゃなかろうか?すでに一度やられてるしな。


「あっ、ねこちゃんみっけ」


 と、オレを抱き上げる人物が。


「ずいぶんぶさいくなねこちゃんでちゅねー。あなたも女神様に癒してもらえるといいでしゅねー。あれ?でもこの猫どこかで見かけたような…」


 赤ちゃん言葉で俺に話しかけてくる。その人物は…透き通るような肌をした、とても美しい女性だった。


「おっ、ジョフィじゃねえか。珍しいなこんな朝早くから」


 そこにフェン介が音も立てずに現れる。


「あ、あなた様は…」

「ん?不審人物かと思えばいつぞやの包帯女か。今日はティア様は屋敷に居るぞ」

「え…私が分かるのですか!?誰も以前の私とは判別できないのに?」

「ああ、みりゃわかんだろ?」


 そう言ったフェン介を女の子はきらきらした目で見つめる。

 包帯?包帯か、もしかしてあのときの夜会の?そういや言葉遣いがそっくりだな。

 しかし怪我が治って見違えるように綺麗になったな…


「フェン介、お前知り合いなのか?」

「ああ、前に一度ここらをちょろちょろしててな。なんでもティア様を訪ねて来たとか言ってたが当時は留守でな」


 ふむ、治療して欲しくて夜会の前にこちらに立ち寄ってたのか?


「あ、あの、あの、ねこちゃんは何と言ってるのですか?」

「ああ、お前と俺が知り合いなのか聞かれたんだ」


 オレとフェン介が会話しているの見てさらにキラキラした目を向ける。


「凄いです!羨ましいです!さすが犬に対して俺の嫁とか言ってるお方です!」


 犬が嫁なのは本当のことだしな。


「私にも動物の言葉を教えてください!」

「ああ、いや、それは…どうなんだ?」


 フェン介がオレに問いかけてくる。ムリに決まってんだろ?


「ねこちゃん、ねこちゃんはどうしてそんなに不細工なんでしゅの」


 喧嘩売ってんだろうか?


「ああ、可愛い!そうだ、今日は犬のお嫁さんは居ないのですか?」

「まだ寝てるぞ、うちのかみさんは朝が弱いんでな」


 犬の癖に朝が弱いとは何事なんだか。


「ジョセフィーヌ!」


 と、屋敷の門の方からティア嬢が駆けて来る。


「もう、急に居なくならないで下さいまし。去年を思い出して思わず動転してしまいましたわ」


 そう言えば、あれからちょうど一年ぐらい経つのか。


「あ、あ…ティアラース様!?」


 突然硬直したかと思ったら急に膝を突いて頭を下げる女の子。


「お、お久しぶりでございます!私、以前の王宮の夜会にて女神様の癒しによって救われた、ホフラ・メリシュー・デュークハルトでございます!」

「あら、あなたは確か…随分様変わりいたしましたね」


 ティア嬢は女の子の胸を見ながらそう言う。どこで判別してるのぉ?

 夜会の後、そのまま王宮にほっとく訳にもいかないので、公爵家に招待したのだった。

 その際、やけに二人は意気投合していた。

 この子、ティア嬢より胸が残念…コホン、同世代で自分よりアレな子を見てティア嬢が随分気にいったらしい。


「あなたも公爵家でしょ、そんなに畏まらなくても良くてよ」

「そんな恐れ多い!私の国など、この国の辺境の一つにも勝らぬ小さな国です。ティアラース様とは同じ公爵といえども月とすっぽん以上に違います故!」

「まあ、いいですわ。それよりなぜ今日はここへ?」


 女の子は恐縮したまま答える。


「以前ティアラース様よりお貸し頂いた慈愛のペンダント、それのおかげで妹も一命を取り留めることができました。そのお礼に上がろうと先ほど帝都に付いたばかりで」


 慈愛のペンダント、あの例の自動回復を付与した公爵家家紋入りのペンダントだがそう呼ばれるようになっていた。

 どこに愛があるのかは勿論不明だ。


「少し散歩がてら屋敷の周りを散策していたところ、とってもかわいいねこちゃんが!」


 そう言ってオレを抱え上げる。


「あなたも猫好きですの?」

「はいっ!私は動物が大好きなんです!」

「あなたはほんと見所がありますわね」


 そう言ってティア嬢は指を女の子のあごに当て上を向かせる。


「ティアラース様…」


 女の子はティア嬢を見て恍惚の表情をする。


「さあここはまだ冷たいでしょ、屋敷に来るといいですわ」

「ああ、ありがとうございます!」


 と、女の子がフェン介に語りかける。


「あの、宜しければ門番さんのお名前をお聞きいたしても宜しいでしょうか?」

「ん、俺か?俺はフェン介だ」

「え?えーと…フェン様ですね。また色々お話をさせて下さいね」


 そう言ってティア嬢と一緒に屋敷に向かう。

 この娘、介の部分を意図的に無かったことにしてなかったか?気持ちは分からないこともないが…



◇◆◇◆◇◆◇◆


 ―――にゃあ、ニィヤアア、ニィアアアアア!


「うるさいぞアホ猫!」

「にゃ!あちきじゃないにゃ!」

「いいからアレ、なんとかしてこい!」


 公爵家の裏庭、そこにはびっしりと…オスの野良猫が集合して居た。

 時は春半ば、そう発情期の季節である。


「ふっ、あちきは罪な女なのにゃ。ちょっと辺りを歩けばこんなもんにゃ。あちきから溢れる女神の神々しさが、世界中のオスの心を掴んで離さないにゃ」


 …オレはジョフィに化け、アホ猫を摘み上げる。


「にゃ?ギニャー!犯されるニャー!酷いのニャー!」


 そのままひょいっと猫の集団に放り投げた。

 アホ猫は命からがら逃げてくる。


「なんてことするにゃ!それが運命の恋人にすることかにゃ!」

「なにが運命の恋人なんだか。お前、今まで恋人らしいことしたことあるか?むしろオレは女神と言うより死神でないのかと最近思うようになって来た」

「にゃにゃ!そんなこと言っていいのかにゃ!ダーリンのことを分かってあげられるのはあちきだけにゃ!」


 お前はヤンデレでも目指しているのか。

 思考回路がヤバイ方に向いて来ているぞ。


「あちきは身を犠牲にしてダーリンの魂を救おうしたにゃ。これ以上の献身的な行動はないはずにゃ!」

「…猫に転生しただけだろ?そして猫に転生したお前はオレなんかほったらかしで自由に生きてんじゃね?」

「にゃにゃ!何を言ってるにゃ!ちゃんとあちきは…時々見守ってたにゃ、ちゃんとダンジョンでも蘇生させたにゃ」


 時々やったんかい!


「時々ってどんくらい?」

「…ワンコロに追いかけられたときと、ダンジョンに入って来たとき?」

「………………」


 アホ猫は横を向いてオレと目を合わそうとしない。

 それどっちも主体的にじゃないよね?


「まあ、いいや、実際お前に助けられているのも事実だ。だけどまあ、恋人って言うのはやめにしないか?」

「にゃ?」

「お前、愛の女神だろ?恋人って愛があるものだろ?今のオレとお前にはそれが無い」

「そんなことないにゃ!あちきは生きとし生きるもの全てを愛しているにゃ!」


「その愛は恋愛じゃない、博愛って言うんだ。全てを平等に愛する愛は、恋とはならない」


 コイツは今までずっと一人だったのではなかろうか。そういややけに種族に拘っているな。

 神と人は別種族…コイツの愛は常に別の種族に向けられていたから?


「なあ、フェン介とその嫁さんは種族がまったく違う、モンスターと犬だ。それでも愛もあり恋もある。変に拘りすぎているんじゃないのか?」

「そうかにゃ?別にダーリンじゃなくてもいいのかにゃ?」

「お前にとってオレは特別か?そうじゃないだろ?まずは、そんな特別な誰かを見つけるべきなんじゃないか」


 女神猫はじっと裏庭で鳴いている猫達を見やる。


「よし!分かったにゃ!あちきはあちきを中心とするハーレムを作るにゃ!あのオス猫共を束ね、猫の王国を作るのにゃ!」


 いきなりハーレムはどうかと思うぞー。お前オレの言ったこと理解できてないだろ?


「そうなるとダーリンはあぶれるにゃ…仕方ないにゃ、ダーリンをいけめんに変身させてやるにゃ!泣いて喜ぶといいにゃ!」


 だからなんでオレはあぶれんだよ?

 アホ猫はオレに魔法を掛けた後、裏庭に走って行く。


「お前達良く聞くにゃ!お前達の愛の囁きは十分伝わったにゃ!これからあちきを女王様と呼ぶのにゃ!気が向けば匂いぐらいは嗅がせてやっても良いのにゃ!」


 ああ、ありゃダメだな。

 まあ、発情期が終わるまでの辛抱だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「うっ、ぐすっ…」

「どうした、何かあったのか?」


 女神猫の女王様発言から暫くした頃、部屋の隅で泣いている女神猫を見つけた。


「あいつらひどいのにゃ!さんざんあちきを女王様と担いでおきながら、周りの雌猫とぱこぱこしてたにゃ!」


 まあ、発情期の猫なんだから仕方ないだろ。


「それでもあちきは我慢したにゃ。浮気は男の甲斐性なのにゃ。なのに!」

「なのに?」

「あいつらこないだあちきが近寄ると引っ掻いてきたにゃ!どいつもこいつも、こないだまでさんざん愛を囁いておきながら、縄張りに入ってくるなって威嚇するにゃ!」


 ああ、発情期が終わったかあ。猫には基本、夫婦て概念がないからなあ。


「あちきはもう人間不信に陥ったにゃ!もう誰も信じないにゃ!」


 そこでなぜ人間不信なんだか。どこにも人間は関わっていないと思うんだが。

 オレは女神猫の頭をなでる。


「まあ、こないだはオレも言いすぎたな。うん、いいじゃないか博愛。愛は平等に。例え特別な存在で無くても、それは愛には変わりはない」

「ダーリン…!」

「恋ってものはしようと思ってするものじゃない、気づけば恋をしているんだ。今はただ、そのときが来るまで待ってればいいさ」


 女神猫は目に涙を湛えたままオレの胸に飛び込んでくる。


「ダーリン!あちきが間違ってたにゃ!あちきの恋人はやっぱりダーリンだけにゃ!」

「ハハハ、そうか、まあこの世に二人っきりの猫人間。一番心から分かり合える存在には違いない」


 オレはキラッと歯を光らせながら笑顔を向ける。

 女神猫はそんなオレを見て、目をうるうるさせる。

 イケメン効果ってぱねえよな。実際やってみてこれだけで好感度がうなぎ上りだった。うん、女神猫には感謝しなくてはな。


 もう好感度アップ大作戦なんて要らない!


「お兄ちゃんいますかー?」

「おお、フィリちゃん、なんだい?」

「えへへ、顔見に来ただけー」


 そう言って中学生ぐらいの女の子が入ってくる。

 この子は例の包帯少女の妹さん。

 この姉妹、火事に巻き込まれて全身に火傷を負ったとのこと。

 姉の方はなんとか歩けるまで回復したが、妹は寝たきりでもう助からないと言われていたそうな。


 そこで姉と両親がなんとか、神徒の噂を聞きつけてこの国まで来たようなのだ。

 持って帰った自動回復のペンダントである程度は回復していたのだが、未だ起き上がることもできない状態であった。

 そこへこのイケメン神徒が颯爽と現れ神聖魔法で一発回復。すっかり懐かれてしまったのだった。


「お兄ちゃんだっこー」

「ああ、いいよー」


 オレは女神猫をポイッとベットに放り投げ、女の子を抱き上げる。

 抱き上げられた女の子は顔をすりすりと摺り寄せてくる。


「ななな、なんなのにゃ!?」


「あのージョフィ様、実はおやつを作りすぎてー」

「今日のお世話は私ですわよ!」

「まあまあ、いいじゃないですかー、世の中博愛主義ですよねー」


 メイドさん達も寄って来た。

 いやー、イケメン馬鹿にしてましたよー。最高だなイケメン!


「ダ、ダーリン、もしかしてあちきが居ないのをいいことに…許せないにゃ!」


 ん?なんか魔法の発動があったような…


「ヒッ!」

「キャア!?」


 メイドさんが悲鳴を上げて後ずさる。そしてそのままダッシュで逃げていった。

 一体何が?


「お兄ちゃん…私達を騙してたのね!」

「えっ!?」


 抱えていた女の子が飛び降りる。

 えっ、何?何がどうなったの?

 女の子はオレを見て、ペッと地面に唾を吐きかけ足早に去って行った。


「………………」


「フッフッフ、ダーリンを世界一のブサメンにしてやったにゃ!浮気は神に対する反逆にゃ!」


 えっ、なんてことしてくれてんのぉ!つーかお前さっき、浮気は男の甲斐性とか言ってなかったか?


「ダーリンは特別なのにゃ!ゼッタイに許さないのにゃ!」


 そんな特別は要らない!


◇◆◇◆◇◆◇◆


「お嬢様、ティア様、こっちに居ますぜ」

「フェン介てめえ!」

「何かくれんぼしてんだよお前」


 かくれんぼじゃねーよ!ガチ隠れてんだよ!

 あれから散々女神猫に土下座したのだが元に戻してくれない。

 そのうち女神猫は女神空間に雲隠れ。

 なんとか自力で元に戻れないか試してみたがさっぱりうまくいかない。

 そうこうしている内に夕食時期になってしまった。


「ジョフィ、いったいどうしたのだ。夕食に顔を出さないとは」

「そうですわ。あまり心配をかけないでと言ってるでしょ?」


 ネイリスさんとティア嬢が押入れに隠れているオレを引っ張り出そうとする。


「ま、待って、ちょっとオレを見ないで!見ちゃダメだ!」


 二人にもあの女の子のように無碍にされたら…心が折れちゃう!


「まったく何をそん…」

「…その顔は!?」


 二人がオレの顔を見て絶句する。

 ああ、とうとう見られてしまった。あのアホ猫め覚えていろよ!


「実は…」


 オレは二人に女神猫にブサメンに変えられた経緯を説明する。


「はあ、なるほど、女神の嫉妬を買ったと言う訳か」

「まあ、それはあなたも悪いですわ。あちこち口説いていたのは確かでしょ。わたくし達もちょっとイラッとしてましたのよ」


 なぜかお二人の説教が始まる。

 人間、調子に乗るのは程ほどにしておきましょう。


「今度からは気をつけなさい。愛の女神は、嫉妬の女神とも言われていますのよ。アフローティア様にはわたくしからもお願いしておきますわ」


 ティア嬢がそう言ってくれる。愛と嫉妬は紙一重なんだろうか?


「それにしても、隠れていたのはなぜだ?」

「いやだってほら、こんな顔してたら、ねえ、嫌われたり?」


 とたん、ネイリスさんがガシッとオレの両肩を掴んでくる。


「そんなもので私がお前のことを嫌うと思っているのか!?そういえば言い忘れていたか」


 オレの顔に自分の顔を触れるか触れないかという位置まで近づけて来て、


「ジョフィ!お前が何であろうとも、猫でも、人でも、どんな形でも!私の思いは、決して変わらない!」


 そう叫ぶ。その間近に見える顔は、どんな女神より輝いて見えた。


「お嬢様!」


 オレは思わずネイリスさんに抱きついてしまう。

 ネイリスさんもギュッときつく抱擁してくる。


 と、オレの服の裾がひっぱられる感じが。

 そこには赤い顔で服の裾をひっぱりながらティア嬢が、


「わたくしもですわ。たとえどんな姿であろうとも、あなたは…わたくしのジョセフィーヌですわ」


 そっぽを向きながらそう言って来た。その照れた顔は、世界のどんな萌えより強力であった。


「ティア様!」


 オレは思わずティア嬢も抱き寄せる。

 3人でしばらく抱き合っていたら、


「もう俺、飯に行っていいか?」


 フェン介が呆れたように問いかけて来た。

 オレ達3人ははじかれたように離れる。


「ええ、そうね、そろそろ食事に行きましょうか?」

「そうですね。ほらジョフィ…フルフェイスでも被っておくか?」

「いや、フルフェイスだと食べれないんじゃね?」


◇◆◇◆◇◆◇◆



 ふう、こんな感じかしら。

 わたくしはテーブルに豪華なお菓子を並べて天に問いかける。


「アフローティア様、甘いあまーいお菓子を用意致しました。昨日も食べていないでしょう。どうでしょうか」


 すると庭の植木の隙間から猫耳の女の子が顔を見せます。


「ダーリンは居ないのにゃ?」

「はい、ここにはわたくししかおりませんわ」


 それを聞いて安心したのかとことことテーブルに走りよりお菓子に食らいつきます。


「はぐはぐ、うまいのにゃ!ここは天国なのにゃ!」

「お口にあったようで何よりですわ」


 女神様は食べながらぶつぶつと文句を言い始めます。


「ほんとダーリンはひどいのにゃ。あちきが苦労してるときにナンパしてたのにゃ」

「そうですわね」

「まったく、こんな美少女が傍に居ながら浮気とはけしからんにゃ」

「まったくですわ」


 わたくしはおいしそうに食べる女神様を優しく見やります。

 猫耳…触ってはダメでしょうか?


「…ティアはあちきにダーリンを戻せとは言わないのかにゃ?」


 ふと手を止めるとそう聞いてきます。


「言いたいことを言ってからではないと、根本的な解決にはなりませんわ」


 押さえつけられて、ダメだ、戻せ、と言ってもわだかまりが大きくなるだけ。

 わたくしは小さいときから癇癪を爆発させていました。

 だからこそ分かる、思いは口に出し、そうして世界に溶け込ませて始めて消えるのだと。


「だいたいあのオス猫どももさんざん愛を合唱しておきにゃがら、発情期が終わればはいサヨナラとか。愛をなんと心得えるにゃ!」

「きっとその愛は偽者だったのでしょう」

「愛に本物も偽者もにゃいにゃ」


「…確かに、愛そのものには偽者なんてないですわね。でも…愛し続ける心、続ける、繋がる想い、それには本物と偽者があるのではないでしょうか?」


 わたくしがそう言った後、女神様は真剣な顔を向けて来て、


「ティアと…あの脳筋娘の愛し続ける心は本物だと言いたいのかにゃ」


 そう問いかけて来ます。

 わたくしは…そっと頷き…


「でもダーリンの愛は二人に向いてないにゃ」

「え…?」

「もちろんあちきにも。今の所は…あの脳筋娘が少しリードと言うとこかにゃ。しかしその想いも、未だ愛と言うには程遠いにゃ」


 ジョセフィーヌの…ジョフィの想い?

 そう言えばジョフィからは何も…まあ、わたくしもはっきりと伝えた訳じゃありませんし…


「そうだにゃ!あちきは間違っていたにゃ!愛してるから愛されて当然だと、そんなことはないのにゃ!」


 女神様はわたくしにびしっと人差し指を突きつけ、


「勝負だにゃ!誰がダーリンの愛を真っ先に受け取るかの!まあ、あちきは愛の女神にゃ!あちきの勝利は決まってるにゃがにゃ!」


 そう言って、高笑いをします。

 大丈夫でしょうか、なぜかジョフィの身に不幸が降りかかる予感しかしません。

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