第七章 これが噂の超展開
「号外!号外!この国の王子が婚約決定だ!」
「おお!そいつはめでてぇ!相手は誰でぇ?あの公爵令嬢け?それとも今噂の女神の使いの…」
「あのプレイボーイが遂に腰をすえたかあ。さぞや別嬪さんなんだろうなぁ」
「お相手は…乳母のキュレア様だぁ!」
「「えっ!?ダレソレ??」」
◇◆◇◆◇◆◇◆
今学園は王子の婚約話で持ち切りだ。
「ちょっとフィーネ!これはどういうこと!」
ティア嬢が目を吊り上げてオレに食って掛かる。
「いやぁ、どういうことなんでしょうねえ…いやほんとマジで」
王子の婚約相手、なんと!王子の乳母だった人で20も年上のおばさ・・げふん。
「キュレア様は皇帝の親友の奥方で、ちょうど王子が生まれた頃に旦那と子供を亡くしてね。乳の出が悪かった皇后の変わりに王子を育てていた人なんだよ」
「んで、王子の初恋の相手だったんだが…」
ビッツとリンが説明してくれる。そんな設定は知りませんよ?
「ダーリンはきっと、開けてはならない扉を開いてしまったのにゃ」
どんな扉だよ?
「しかし、そんな年の離れた相手なんて…よく皇帝が許可したよね」
「ああ、なんでも女神のお告げだとかなんとか言ってごり押ししたらしいぜ」
その女神ダレよ?オレのことじゃねえだろうな?あの王子、人の話を聞いてなかったのだろうか。
あっ、あの王子もしかして、女神をダシに使ったのか!?
「なんでも、この婚約を行えば、この国が幸せになれるというお告げだとか」
「フィーネ…」
ティア嬢がオレをジト目で睨んで来る。
オレのせいかな?オレのせいなんだろうか?
いやだって、こんな結果になるなんて誰も予想できないよね。これが噂の超展開というやつでしょうか。
確かに、王子の好きな人を后に選べばいいと言ったよ?だからといって初恋にまで遡るとは…
「王子が婚約…王子がこんにゃく…王子が…」
ティア嬢がだんだん壊れてきている。
キッと睨んでいた目がだんだん焦点が合わなくなってきて、目にハイライトがなくなってきた。
スクッと立ち上がると、ふらふらした足取りで教室から出て行こうとする。
「そらショックだろうなあ…よりによってまったく関係のなかった人とだしねえ」
「一応、ティアとは面識があったはずだが?」
「そうなの?」
「ああ、幼い頃は王子と一緒によく遊んでくれてたそうだぞ」
だんだんどす黒いオーラが漏れてきている。
そういやティア嬢の魔法の素質、実は闇魔法が一番相性良かったんだっけか。
「闇魔法は危険だにゃ。気づかないうちに人格が破壊されるにゃ」
「そうなのか?ゲーム中のティア様の態度、もしかして闇魔法が関係してたのか」
オレが転生して来てからは、ティア嬢が闇魔法を使った記憶は無い。
ゲーム中では何度か目にしたが…
「私はティア様を追いかけます。クルーカ、あなたは王子が来たら状況を聞いといてください」
「ハッ、了解しました」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「くっ、なんだこれ、ティア嬢の後を追えない?」
すぐにティア嬢を追いかけたオレなのだが、目の前に居るはずなのにいくら追いかけても辿り着かない。
そして校門を出て、暫くしたら急に姿が掻き消えた。
これが闇魔法の力か…
「確か神聖魔法で…闇魔法の効果を打ち消すのが…」
えーとなんだったか、めったに使うことのなかった魔法だったからなあ…そうだ思い出した!
『エンシェントフィールド!』
◇◆◇◆◇◆◇◆
―――ドガッ!
「グッ、ゲホッ!」
「おやめなさい!」
いでぇ、なんかお腹に衝撃が。あれ、オレどうしたんだっけ、確か闇魔法を打ち消す魔法を使ったはずだが…その後の記憶が無いぞ。
「フィーネ、大丈夫ですか!?」
目を開けたそこには…ごとごと揺れる薄暗い部屋に、縄でぐるぐる巻きにされたティア嬢が横たわっていた。
ここは…馬車の中?
「おとなしくしとかねえとこのガキがどうなっても知らねえぜぇ」
「ひっひっひ、なかなかの上玉じゃねえか」
そしてオレにナイフを突きつけてくるゴロツキのようなお方たちが。
「これはいったい?」
「まさか護衛も付けずひょこひょこと出てくるとはな。ずっと見張っていた甲斐があったぜぇ」
「ひっひっひ、俺たちゃ運がいいぜぇ。もう少しで雇い主に首を刎ねられるとこだっし」
なんでもこいつらの言うことには、ずっとティア嬢を誘拐する為に見張っていたらしい。
そこへひょこひょこと一人で出て来たティア嬢。
しかし、その後をつけるように出てきたオレを警戒していたのだが、突然倒れこんで動かなくなった。
それに気づいたティア嬢がオレを介抱している状況に、これはチャンスと襲い掛かったらしい。
あっ、こいつらの顔見たことあるぞ。ゲームで。
確か、ヒロインが王子と婚約発表をした後で、悪役令嬢であったティア嬢が、失意の内に町へ出かけ誘拐され売り飛ばされるエンド。
そのときの誘拐犯の奴らだ。
あのイベントこの状況でも進行するのか。
つーかあの魔法一発気絶かー、まずいな、オレじゃティア嬢を止められないぞ。
―――ガスッ!
「いでえぇえ!」
「フィーネ!?」
ゴロツキがオレの顔を殴って来る。
「おっと、手が滑っちったな。お嬢様、あんま魔力を集めない方がいいぜ?御付の方がぼろぼろになるぜぇ」
「ひっひっひ、お嬢様にはあんま傷を付けるなって言われてるからな。こりゃ好都合だぜぇ」
ティア嬢が反撃のためか魔力を練ったらしい。
それに反応したゴロツキが牽制の為にオレを殴ったようだ。
「フィーネ、ごめんなさい、あなたを巻き込んで…」
「ティア様、謝ることは何も無いですよ。そもそもこの状況は…起こるべくして起こったもの、ここからが私の腕の見せ所ですから」
オレは涙を溜めたティア嬢に向かって笑顔を向ける。
ティア嬢はそんなオレを見てあっけにとられた顔をする。
「私は…オレは、このときの為に…こういったときの為に…ティア様、あなたを救う為にこの世界に来たのだから!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「何言ってんだこいつ?頭がおかしいのか?」
「ひっひっひ、あんちゃんサイコはこえーよぉ、こいつどっかに放り出そうぜぇ」
ダレがサイコだこら。
「フィーネ、それはいったいどういうこと…?」
「私は、この世界の存在ではありません。こことは違った魔法も魔物も存在しない世界、そんな世界の存在だったのです」
「え、ええまあ、アフローティア様にあらましはお聞きしましたが…」
突然始まったオレのカミングアウトにゴロツキ連中は目を白黒している。
オレはその隙にそっとホーリーバインドの魔法で、見えない糸をゴロツキ連中に絡ませる。
「そこで私は女神によって、この世界の行く末を、あなたの未来を、いくつも見せてもらったのです」
「いくつも?」
「世界の行く末は一つではありません、人のほんの少しの行動でいくつもに分岐します。しかし…あなたの未来はどれも暗いものでした」
それを聞いてティア嬢は絶望的な顔をする。
ゴロツキ連中もそんなティア嬢を見て憐れみの視線を向ける。
「まあ、あそこにいきゃ、碌な未来は待ってはないわなぁ」
「ひっひっひ、悪く思うなよぉ、俺達も生活がかかってんだよぉ」
「だからこそ私は、ここへ来ることを決心したのです。そう、あなたを救うために!」
実際は強制的でしたが。
「フィーネ…あなたは…」
「おいおい、この状況が分かってねえのか姉ちゃん」
「ひっひっひ、グルグル巻きの状態で勇ましいこと言っても様にならねえぜぇ」
フッ、そんなことを言っていられるのもここまでだ。
オレは窓の外へ糸を投げる。
その糸は外の木に引っかかり…
「ウギャッー!なんだこれ引っ張られる!」
「ひっ、ひぅッ、ひぃいい!」
ゴロツキは走ってる馬車の窓から飛び出し、糸を引っ掛けた木に向けて一直線。
「ハッハッハァ、どうだ見たか。お前達は油断しすぎたのだ。って、あれ?」
オレも一緒に馬車から引っ張り出される。
あっ、このバインド魔法、オレも繋がってんだった!
そのまま木に向かって一直線。
「ヒィイイ!こええぇ!」
「フィーネ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「フィーネ、フィーネ!大丈夫ですか!?」
あの後、魔法で縄を切ったティア嬢が駆けつけて回復魔法を掛けてくれた。
めちゃくちゃ痛かったです。
このホーリーバインド、解除するまで自分と繋がってんだな。
「こんな…自分を犠牲にしてまで…」
良かった、ティア嬢にはバレていないようだ。
このままわざと繋がっていたことにしておこう。
「どうして、どうしてなのです…こんな、なんの魅力無い女…誰からも見向きもされない、かわいげの無い…」
「ティア様、いったいいつの話をしているのですか?あなたは好かれているじゃないですか。ネイリスに、フェン介の子供達に、そして私に」
「フィーネ…」
オレはティア嬢をそっと抱きしめる。
「それに、王子だってあなたのことを好きですよ」
「えっ、何を言って…」
「確かに、一番にはなれませんでした。ですが、好きだという気持ちはあるのだと、私はそう思っていますよ」
ティア嬢はオレの腕の中で涙を流し始める。
「お、王子は…わたくしの世界を変えてくれたのです。茨で溢れていたわたくしの世界を『茨があるなら共に傷ついて行こう、私だって同じ世界の住人なのだから』そう言ってくれたのです」
しゃくりあげながらそう言う。
「そのときわたくしは救われたような気がしました。どんな茨の道でも共に歩める人が居るならと…」
あの王子、そんなプロポーズみたいなことをしていたのか。
王子にとっては何気ない言葉かも知れない。だけど、ティア嬢にとってはかけがえのない言葉だったのだろう。
茨の世界、茨の道か…ならば!
「あなたの茨の道、私が薔薇の道にして見せましょう。花咲く街道、そこに茨はあっても咲き誇る美しき花のある道へ」
「フィーネ…!?」
ティア嬢が涙まみれの顔を上げる。
「あなたの傍に居るのが私じゃ駄目ですか?あなたの傍に居るのが王子以外じゃ駄目ですか?もっと目を向けてください、あなたと共に歩める人は王子だけではないのですよ」
オレはそっとティア嬢の涙を指で拭う。
「フィーネ、あなたはわたくしと共に歩んでくれるのですか?」
「もちろんですよティア様。私だけでなくネイリスも、フェン介の子供達も、王子だって距離は離れても歩む道は一緒ですよ」
「フィーネ、ありがとう…」
ティア嬢は両手でオレの頬を挟みこむと―――オレの唇に口付けをするのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
えっ!?今キスされた?えっ、マジで!?なぜ?なんで!?
落ち着けオレ。確かキスシーンはゲームじゃほぼ攻略目前ではなかったか?
いやいや、そもそも攻略してないよね?
ティア嬢は真っ赤な顔になって俯くと、
「あなたの気持ち…受け入れますわ」
そう言ってくる。
なにを受ける入れるのぉ!?
おかしい、なにか誤解がある。
「ちょっ、ちょっとティア様、なにか誤解があるのでは?」
「なにが誤解ですか?プロポーズしてくれたのでしょう?」
「は?いやいやいや、私達、女同士ですよね?」
「同姓婚は珍しくないでしょ?」
珍しいよ!いや、この世界じゃ普通にあるのか?いや、こっちに来ても聞いたことないぞ!
と、ティア嬢はくすっと笑い、
「冗談ですわ。あまりにもあなたが真剣に口説いてくるのでついからかったのですわ」
そう言って笑ったティア嬢の顔はもう、王子のことを引き摺った様子は見られなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「さてと、それではこっちの始末をつけませんとね」
そう言って、隣に転がっているゴロツキを酷薄そうな目で見つめる。
「こんなとき、回復魔法って便利ですよねぇ、いくら痛めつけても大丈夫ですし」
そんな恐ろしげなセリフをおっしゃっておられる。
その回復魔法の使い方は間違っていると思いますよ?
『ウォーター!』
ゴロツキに向かって大きな水の塊をぶつける。
「ガッ!ゲボッ!?ここは…?」
「ひぃっひぃっひ」
『ライトニング!』
そして全身ずぶぬれのゴロツキに電撃魔法。
「「アバガババァバア!!!」」
「誰がババァですって!?」
「「そ、そんなことは言ってな・アババババ!」」
もうそれぐらいで許してあげたらどうでしょうか?なんか焦げ臭いですよ?
『ヒールエクステンド!』
ティア嬢がゴロツキに回復魔法を掛ける。
「か、回復魔法…!?」
「ひっひっひ、お、俺達を許してくれるので?」
ゴロツキ共がティア嬢を女神を見るような目で見つめる。
ティア嬢はそんなゴロツキを優しげな目で見つめて、
「もう一周いきますか?」
そう言うのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「なんでも聞いてくだせえ!」
「もう靴でも何でも舐めます!」
すっかり怯えたゴロツキ連中は土下座で地面に頭を擦り付ける。
「良い心がけですわ。それではまず、黒幕をおっしゃってくださらない?」
「俺達の雇い主は…」
ティア嬢はゴロツキの言葉をじっと聴いている。
その間にオレはもう一人のゴロツキに話しかける。
「ねえ、ティア様を狙ってる方って多いのですか?」
「そりゃもう大人気でさあ。胸の方はあれですが、顔は抜群にいけてるでしょ?貴族連中で狙ってない輩はいないでさあ」
「それにしては告白なんてされてるとこ見たことないですか?」
ティア嬢は女性には勿論、男性にも話しかけられることはない。
「そりゃああれでさあ。どいつもこいつも公爵家を気にしてんでさあ」
「意気地の無い奴等ばかりですね」
「まったくでさあ」
オレはゴロツキから情報を聞き出す。
今回の奴以外にも色々狙ってる奴は居るとか。
その動機は様々だ。
公爵家の身代金だったり、人質にとか、単にティア嬢目当てというのも結構あるらしい。今回はそんな一人。
大人気だなティア嬢。
「…分かりましたわ。あなた達もう行っていいですわよ」
「「えっ!?」」
あらかた情報を聞き出したのかティア嬢がそう言い出す。
「衛兵さんに突き出さないので?」
「どうせ一人や二人突き出したとこで意味は無いでしょう。見せしめに門に吊るすなら別ですが」
その言葉を聞いたゴロツキは互いに抱き合って震える。
ふむ、へたに突き出して別の腕のたつ奴に変わるよりましかもしれないな。
「報復は?」
「今回は相手が不味いですわ…よりによって武闘派の最大手…今のわたくしでは手を出せません」
ティア嬢の話では、今回の黒幕はこの帝都の防衛長、騎士団を束ねているトップに居るお方だとか。
なんでも美しいものを切り刻むのが趣味らしい。
「屋敷には100を超える護衛がひしめいています。中には剣帝レベルもちらほらと」
ふうむ、しかし、これを利用すれば…100人か…たしかゲームのイベントでクルーカは30人斬りとかしてたな。
クルーカを超えるフェン介・アッコも居るし…いざとなったら女神猫で…
「ティア様、一つお聞きします」
「なんでしょう」
「もし攫われたのがフェン介の子供達だったら?」
「ブッコロス!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
アーハッハッハ、我が軍は圧倒的だな!…やべえこれ、みんなやりすぎですよ!
『ヒール!』『ヒール!』―――
オレは必死で回復魔法を唱える。――敵の兵隊さん達に向かって。
あれからネイリスさん達を呼んで、ティア嬢が攫われそうになったことを説明した。
そんで、いったん攫われた振りして敵にもぐりこみ、敵の御大将をこらしめてやろうと思ったんだが、
「許せん!ティア様、号令を!今すぐ奴の屋敷へ向かいましょう!」
暴走したネイリスさんが正面から突っ込んで行った。
ティア様も怒り心頭で、
「シュルクを、ミーシアを、私の従者を傷つける者は何人たりとも生かしておきません!」
話を聞いてくれない。
あんなこと言うんじゃなかった。
「あら、私を傷つけられると?まったくそんな貧相な武器では血風刃を出すまでもありませんわね」
「アッコさん!手加減を!手加減をお願いします!」
アッコさんが本気出したらみんな胴体真っ二つだ。さすがに回復できない。
戦力を見誤った。
普通にフェン介だけでも100人いけんじゃね、これ?
フェン介がフルプレートのアーマーさんごと吹っ飛ばしている。ふっとんだアーマーさんは周りを巻き込んで大惨事。
ネイリスさんが目にも留まらないスピードで戦場を駆け抜ける。後には折られた剣を呆然と見つめる雑兵ばかり。
敵にも多少は腕に覚えのある奴も居るようで、多少の被害を受けているが…
『グランドヒーリング!』
ティア嬢の全体回復魔法で無傷の状態に。
これもう俺達だけで国が落とせんじゃないかなあ。
まあ今回の敵は脳筋連中ばかりで魔術師が居ないってのはあるだろうが。
「何事だぁ!」
そこへ一際立派な黄金の鎧を着ている人が登場。
あれかな?あれやれば今回の騒ぎは収まるかな?
「クルーカ」
「ハッ!」
「やれますよね?」
「お任せを!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「我はクルーカ・リベンシュタイン!提督が一人、フィガック殿へ一騎打ちを申し込む!」
誰が一騎打ちを申し込めと?いいから背中からばっさりいけや。
「クルーカだと?この騒ぎはお前が起こしたのか?お前は我が騎士団に入団希望ではなかったのか」
えっ、クルーカってここの騎士団を希望してたの?
そいつは悪いことをしたか?
「某はすでに道を見つけました。このような邪道なものではない真の道を」
「ほう、言うようになったな。所詮は平民出か、残念だぞクルーカ」
「残念なのはこちらの方ですわフィガック様」
そこにティア嬢が前に出る。
その瞬間、黄金の騎士の目が怪しく光る。
「これはこれは、ティアラース様。我が屋敷に一体どのような御用で?」
「招待されたから参っただけですわ」
「それは異なことを。私は招待した覚えがありませんがな」
あくまでシラを切るようだ。
「クルーカ、招待したと言うまで痛めつけてあげなさい」
「ハッ、お望みのままに」
「ハッハッハ、お前ごときが私に敵うと思うてか!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
オレは今残業中だ。異世界でも残業、オレって勤勉だよな。
「うう…ここは…」
「おや、お気づきになられましたか?」
「君は…」
「じっとしてください、今回復していますので」
そう、オレはティア嬢たちが過ぎ去った後のお片づけをしているのであった。
戦闘が終わった後、すでに立っている者は存在しなかった。
死人はいないようだが…ほっとくと死にそうなのはちらほらと。
気絶しそうになりながらもヒールを連発して回復していってる。
オレはそもそもえむぺーが無いから気力で魔法を使わなければならない。
「め、女神か…」
「傷が治っている、彼女が…おお、輝いておられる」
それにしてもこいつ、偉そうな口叩いたわりにはあっさりとやられたな。
それだけクルーカが強くなっているってことか?
これならダンジョンの攻略ももっと進めても大丈夫そうだな。
「ふう、これでもう大丈夫ですわ。これに懲りて、悪いことはおよしなさい。天はあなたを見ていますよ」
「…美しい、私は今、猛烈にあなたを切り刻みたい!」
「悪いことはすんなって言ってるだろ!?」
オレは落ちてた剣で頭をどつき気絶させる。
こいつ死んでも直りそうにないな。
オレは辺りを見回す。
ハァ…今晩中に終わるかなこれ?
◇◆◇◆◇◆◇◆
「フィーネ様、私をあなたの騎士にしてください!」
「私もお願いします!」
「ぜひに!ぜひにぃい!」
あれから数日後、学院の門を出るとむさい男連中がびっしり並んでいた。
先頭に居るのはあのときの黄金騎士。
おまえら何考えているのぉ?
「おやぁダーリンいつの間にこましたにゃ。なかなかやるのにゃ!」
こました覚えはない。
「フィーネ…困るよ、私の国の騎士を引き抜かないでくれないかな?」
「困ってるのはこっちの方ですわ。そもそも元凶は王子のせいじゃないですか?」
「えっ、私が?身に覚えはないけど?」
そっちに覚えがなくとも、これが因果と言うものなのですよ。
「私には騎士は要りません。お引取り願います」
「クルーカはあなたの騎士でありましょう!」
そう言われてオレはクルーカを見る。
どことなく誇らしげな顔をしているような気が。
なんとなくイラッと来たオレは、
「私の騎士は一人で十分です。どうしてもと言うのならこのクルーカをたおしてみなさい」
ついそう言ってしまった。
だと言うのに、
「姫、某をそんなに信用してくれて…」
なぜかクルーカは感動している。こいつマの属性なのだろうか。
◇◆◇◆◇◆◇◆
近頃の私はどうかしています。
女同士だと言うのに、なぜか…フィーネのことを目で追ってしまっている。
「あなたの茨の道、私が薔薇の道にして見せましょう」
そう言われたとき、なぜだか茨しか無いと思っていた世界に花が咲いた気がした。
「あなたの傍に居るのが私じゃ駄目ですか?」
そう言われたとき、王子への黒い感情が洗われた、そんな気がした。
そして打って変わって、フィーネが突然愛しく思えて来たのでした。
こんなにも一途にわたくしのことを思ってくれるフィーネが愛しくて…
思わず口付けまで…
あのときのことを思い出した私は思わず赤くなってしまいます。
「ティア様…?」
「ん、どうしたのですかネイリスさん」
「いえ、なんかずっとフィーネを凝視されているので…」
「フフフ、なぜかしらね。もしかしたら私は、フィーネのことを好きなってしまったのかもしれないわ」
わたくしが冗談めかしてそう言った瞬間、ネイリスさんの表情が固まります。
「え、そ、そんな…ティア様がフィーネを…フィーネはジョフィで…」
ん?フィーネがジョフィ?




