第六章 オレは女神系女子。えっ!?
「フィーネ、確か使えば使うほど魔法のランクが伸びるのですよね?」
「はいそうです。しかし、回復魔法はなかなかドナーがですね」
「ドナーならそこら中に居るでしょ?」
そう言うとティア嬢は窓際に行き、そこから見える人達に無差別に回復魔法を掛けまくる。
なんと!その手が!だよな、回復魔法なら相手の了解は別に必要ないか。
特にスモールヒールは、肩こり・すり傷ぐらいにしか効果が無いから、人によっては掛かったことすら気づかないだろうし。
…フェン介、お前の尊い犠牲は忘れはしない。迷わず成仏してくれ。
『スモールヒール!』『スモールヒール!』―――『ヒール!』
「えっ!?」
今スモールじゃないヒール唱えなかったか?
「この娘のあちき対する信仰心は半端じゃないにゃ。神聖魔法はすぐに上達するにゃ」
マジでカー、信仰…信仰…どうしてこんなアホ猫が信仰されるんだ?ダメだ、今まで散々やらかされて来たせいか、どんなに凝視しても神様には見えない。
「なあお前、金色になるとかできないの?」
「にゃ!なんであちきが金色になるにゃ?」
「いやほら、そうしたら多少は神々しくなるんじゃね?」
「あちきは今のままでも十分神々しいにゃあ!」
せめて白猫だったらなあ。黒猫の神様って居たっけ?
「アフローティア様は猫の神様でもあったのですね。このティアラース、幼少より猫好きであったのはこの日の為だったのですね」
「まあ、そうでもあるかにゃ?」
ティア嬢が猫耳娘の手を取ってそう言う。それは違うと思うなあ。つーかお前、猫になったのほんの数年前だろ?
「フィーネ、それでは王子のことは頼みましたわよ」
おっと、まだこっちの話がついてなかったな。
「ティア様、王家が欲しがっていたのは神徒でしょ。そして今、ティア様も…」
「そう言われれば…でも猫アレルギーは?」
「今この女神猫は人です…おいお前、その耳と尻尾も隠せよ」
「にゃにゃ!これはあちきのとれーどまーくにゃ!これだけは譲れないにゃ!」
変なこだわりを持つなよ。
「と、とりあえず問題は全部片付きました。後は…王子のティア様に対する好感度アップ大作戦です!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「リン、ビッツ、今日集まってもらったのは他でもない、フィーネの件でだ」
あれ?前にも同じセリフを聞いたような気が?
「ビッツ、ずばり聞こう、君はフィーネのことをどう思っている」
ほんと前にも聞いたよね?今日の王子はどこかおかしい。
「王子、らしくないな。前と同じことを聞くなんて」
リンが調子のおかしい王子に問いかける。
「ハハハ、実はだね…皇帝より何が何でもフィーネを落とせと通知がね…」
「「それはまた…」」
「ティアが神徒となったのは二人とも知っているよね」
うん、あれはほんと驚いた。
何かこそこそとしてると思ってたら、突然僕達に回復魔法を掛けてくるんだもの。
王子なんて開いた口が塞がらなかったほどだ。
「別に神徒なら、ティアでもいいんじゃないのか?」
「そうだよ王子。むしろフィーネよりティア嬢の方が、回復魔法は優れているんじゃないのかな?」
ティア嬢の回復魔法はすでにフィーネのそれを抜いている。
フィーネが使えない、複数人を一気に回復できるラウンドヒーリングまで覚えていた。
「確かに神聖魔法の才能はティアの方が抜群に上だろうな。問題は…」
王子は一泊置き、こう続ける。
「フィーネのおかげで神徒になれたということだ」
「そいつは初耳だな」
ティア嬢が神徒になれたのが、フィーネのおかげ…?
それじゃあもしかして…フィーネに頼み込めば僕も…!?
神聖魔法、ぜひ使ってみたい!
「顔色が変わったなビッツ。それだよ、皇帝がフィーネを一押ししてくる理由は」
「確かに、とても魅力的だよね。フィーネが居れば、もしかしたら自分が神聖魔法が使えるようになるかもしれないなんて」
「それどころか…ティアは女神に会ったらしい」
「「ええっ!?」」
それは、とんでもない!
今までの神徒はいわば紛い物、神聖魔法が使えることはあっても、神と交信できるなんて話は聞いたことがない。
お告げみたいのはあったようだけど…それも一方的なものと聞く。
「本物なのか…フィーネはいったい何者なんだ?もしかして…女神そのものとか?」
「そこまではティアも教えてくれなかったよ。ただ、いつでも女神と話はできると」
「それはますます、フィーネが女神の可能性が高いよね。どうりで僕達の知らないことをいっぱい知ってる訳だ」
これからのフィーネとの応対を考えなくちゃね。
「下手に暴いて雲隠れされても困る。対応は今まで通りで頼む」
「いやでも王子、仮にフィーネが女神だったとして、嫁に来てくれって言って来てくれるものなのか?」
「私が悩んでいるのはそこなのだよ…まったく父上もムリを言う」
女神を伴侶になんてそんな大それたことを…さすが皇帝の考えることは偉大だ。
「何はともあれ、アクションは起こさなければならない。二人ともフォローを頼む」
◇◆◇◆◇◆◇◆
最近は何事も順調に進んでいる。
ダンジョンの瘴気の穴も結構塞がった。
アッコ・フェン介のコンビで大概の敵はノックアウトだ。
王子達の腕も上がり、結構深い階層まで行けるようになって来た。
ティア嬢と王子の間も進展している。
あの王子がティア嬢を冒険やデートに誘ったりしている。
「王子…アクションは起こさないので?」
「いやだって…両脇をネイリスとクルーカにがっちりと守られていてね」
「だからと言ってティア嬢をだしに使うのはどうかと思うけど」
「何をこそこそと話をしてますの?」
「い、いや、なんでもないよ」
この調子でいけばハッピーエンドももうすぐだな。
――そんなある日、
「王子、わたくしこの度、正式に従者を雇いましたの、紹介したいので今度学園に連れて来ても宜しいでしょうか」
ティア嬢が王子にそう言い出した。
こないだ、フェン介の子供達を見習いから正式に従者に任命したらしい。
仕事はまだまだなのだが…ティア嬢は子供達に甘いからなあ。
「へえ、ティアが従者を…それはぜひ見てみたいね」
「公爵家の従者か興味あるな。大層な武者に違いない」
「それでは、明日連れて来ますわ」
しかして翌日。
「キャー!かわいい!犬耳なんて付けて…ってこれ生えてる!?」
「ほ、ほんとですわ。ティア様この子達…」
「この子達はめずらしい魔族の子供なのですよ」
フェン介の子供達は女性陣に大人気であった。
「こ、こっちは猫耳か。プリティーだなぁ」
対して女神猫(人間バージョン)は一部の男子に大人気だ。
こっちはオレの従者と言うことにした。
平民でも従者オッケーなんだってこの学校。なんでも平民でも裕福な者は居るらしくて、大商人とか。
「ふっふっふ、あちきのぷりちーさに世の男共は虜なのにゃ!猫耳はすてーたすなのにゃ!」
そんなステータスは無い。
あとオレの肩の上に立つな。重い、そしてパンツ丸見えだぞ。
「あちきは高いとこが大好きなのにゃ!」
「だったら、天界とか逝ってみるか?」
「にゃにゃ!あちきはまだまだ生きるにゃ!ざっと1万年ほど」
生きすぎだろ?
「ゴホッ、クシュッ、ティア、その子達が昨日言ってた?」
王子はくしゃみをしながらティア嬢に問いかける。
やはり耳と尻尾だけでもアレルギーは出るのか?
「はい、そうですわ。王子、もしかしてアレルギーが…?」
「うむ、そうなのだよ。私は動物の毛にアレルギーがあってね」
猫以外もダメなのカー。どうしたものか。
ティア嬢がフェン介の子供達を手放すことはないだろうしなあ。
「しかし、角の無い魔族なんて…」
「王子には本当のことをお話します。実はこの子達は…犬と人間のハーフなのです」
「ええっ!?」
ティア嬢が小声で王子に本当のことを説明する。
「ふむふむ、フェン介のか…いや、犬と人間では子供は…もしかして女神が関わっているのか!?」
「いえ、女神は関係有りませんわ」
「そ、そうか、それは良かった」
何が良かったのかは知らないが、女神はものっそ関わってるぞ。
ある意味女神が作り出したと言っても過言はない。
「シュルク、ミーシア、ご挨拶なさい」
「はいっ!シュルクです!ティアねえの従者をしてます!よろしくです!」
「ミーシアなの、よろしくなのー」
「良くできましたわねー」
ティア嬢が二人をなでまくる。
シュルクは兎も角、ミーシアはダメだと思うのだがー。
「あちきはかの女神の名!アフローティアなのにゃ!」
「アフロと呼んでやってください」
「にゃ!だれがアフロなのにゃ!」
猫耳娘はオレの肩の上で地団駄を踏む。イテーよこのヤロウ!
オレは足を持って逆さまに宙吊りにする。
「にゃにゃ!世界が真っ黒にゃ!なにが起こったにゃ!」
ワンピースがひっくり返っててるてる坊主のように。
パンツどころかちっさなお胸まで丸見えに。
「ちょっ、ちょっとフィーネ。さすがにそれはどうかと」
ティア嬢が急いで猫耳娘を奪い地面に降ろす。
「ダーリンはひどいのにゃ!もっとあちきを大切にするのにゃ!さもないと」
「さもないと?」
「今度はミジンコに変え・アガガガ、いだいのにゃ!やらないのにゃ!許してにゃあ!」
変身魔法、オレも覚えた方がいいのかもしれない。
今後はそっちを重点的に成長させよう。
「王子、あの猫耳娘、アフローティアと言っていましたよ?」
「愛の女神の名か…」
「まさかあの猫耳娘が!?」
「いやそれは無いんじゃないかな。あれだけ雑に扱われる女神は居ないだろう」
◇◆◇◆◇◆◇◆
やはり王子にアレルギーが出ましたか…
フィーネ、わたくしはやはり王子とは共に過ごせない運命のようです。
幼い頃はわたくしには王子しか居ない、そう思って日々を過ごして来ました。
ですが今は…
ジョセフィーヌが、ネイリスが、シュルクとミーシアが…多くの、本当に多くの方たちが共に居てくれます。
わたくしの為にいろいろ尽くしてくれるあなたが、尽くしてくれたあなたなら、王子を…王子をお任せすることができます。
わたくしの初恋…あなたに託します。
王子を、この国を、わたくしはあなたの友人として支えて行こうと思います。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ねえフィーネ」
「はい、なんでしょう?」
「あなたの言う好感度アップ大作戦ですけど、あまり効果が見られてないようですの」
えっ!?そんなはずは…
「王子から冒険やデートに誘われてるんじゃないです?」
「皆と一緒にですよね?」
そういやいつもオレ達も呼ばれているな。
例の好感度アップ大作戦、現地の人達にはあまり効果が無いのか?
「今度二人きりの冒険に誘ってみてはどうです?」
「王子が護衛も無しになど無理でしょう」
ふうむ、ゲーム中ではどうだったか?
普通に二人っきりで冒険に出かけていたが。
あっ、クルーカ(ストーカー)が居たな。なるほど、こいつ護衛にもなってたのか。
「クルーカをお付けしましょう。それならば護衛は問題ないはずです」
「クルーカはあなたの護衛でしょう?そうですわ、フィーネ、あなたが王子と二人で試しに中級ダンジョンに行ってみてもらえませんか?」
「えっ、なんで?」
男に囲まれてダンジョンなんてゾッとしないです。
「誘って断られたら立ち直れませんわ。まずは二人っきりで誘えるかどうかを試してもらいたいんです」
まあ、そう言う理由なら…
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ムリムリムリ!ギャー!とんだぁああ!」
「ちょっ、ちょっとフィーネ、そんなにしがみ付くと前が見えな・」
「クルーカ!クルーカコマンドはどこだ!ヒィィイイ!」
しかして王子と一緒に中級ダンジョンに向かったのだが、
「ご、ゴキ!きめえぇえ!」
向かった先のダンジョン、虫エリアであった。
ゲーム中のグラフィックは、まあ虫だなって感じでなんとも思わなかったのだが、現物はとんでもなかった。
ねとっとした液をたらしながら這い寄る1メートルはあろうかと言う巨大なG!
羽がテカッておる。
いやまだそれだけなら良かった。
このくそ王子ひっくり返しやがった。そして見てしまったゴキの内側…そこには無数の子ゴキが蠢いて…
そいつらが一斉に飛び立った。
「もう帰るぅうう!」
これはダメだ。人が踏み入れていいエリアではない。
「こいつは特に弱いんだけどなあ」
そう言ってぷちぷちつぶしていく王子。
やめろ!汁が飛ぶだろ!くそっ、せめてオレに焼却魔法でもありゃあ…
あと、クルーカは置いてきた。
王子が二人きりでも問題ないって言うもんで。
クルーカは女神猫と一緒にお留守番だ。
「ハハハ、意外だなフィーネが虫が苦手なんて」
もうそれ、虫ってレベルじゃねえだろぉ!オレの世界じゃクリーチャーって言う得体の知れない生物なんだよ!
「って、どうしてそのゴキ子供が居るの?モンスターじゃないの?」
「ああ、これは最初からこんな感じで、攻撃手段の一種なんだよ」
「知っててやったんかい!」
今度ひっくり返したらテメーをゴキの子供にブン投げるぞ!
「いや、これが一番手っ取り早いんだよ。背中はぬるっとしてて剣が滑ってだね」
「もうたおさなくていいから!早く出よう!」
この様子じゃ、ゴキ以外でも出会ったら失神しそうな敵がいっぱい居ると見た。
あのアホ女神ももっときちっとグラフィック作っとけよ。リアリティが足らん!まあ乙女ゲーでそこまでやったら売れないか。
「でも来たばかりだよ?」
「もうミッションは達成しましたから!」
そう、二人っきりでも誘えば行けるってことを!
ティア嬢なら焼却魔法も持ってるだろうし、後はおまかせします!
「今度はティア様と二人で来てください。私はもうこりごりです!」
「…ティアとか」
王子が戸惑ったような顔をする。
むっ、ティア嬢に対する好感度は結構上がってると思ってたんだがそうでもないのか?
「王子はティア嬢のことを好きじゃないんですか?」
「フィーネ…私は一国の皇帝に成らなければならない。好きかどうかで后を選ぶことはできないのだよ」
そして片膝を突きオレの前に頭を垂れる。
「フィーネ、いや女神よ、分相応な願いと分かってる。だが、私の后となってくれないだろうか」
そしてそう言って来た。ダレガ女神よ?
「なんで私が女神になってるの?」
「ティアから聞いたよ。君が女神としてティアに力を授けたと」
「…どこでどうなってそういう話になったのか知らないけど、違いますよ」
王子がオレの手を取る。
「君からは魔力の波動が感じられない。そしてこの肌、人ではないだろう。まるで生まれたばかりの皮膚だ」
「…確かに、私は人ではありません。しかし女神でもないですよ。この体は女神によって作り出されたもの、そしてその中身は女神によって別の世界より引き寄せられた魂が入っているのです」
後で女神猫を紹介してみるか。しかし信じるかなあ…あれだしなあ。
「それと王子、好きかどうかで后を選ぶことはできないと言っていましたね、どういうことですか?」
「当然だろう。私の后となる人物は国を半分任せるも同じこと。それなりの人物でなくては勤まらない」
「王子、それは違いますよ。后に国を任せてどうするんですか。あなたが1人で国を作るのです」
「1人で国を抱えるのはとても危険なことだよ?」
そうだね。だけど、ここは帝国。
「皇帝は1人しかなれない。そして国を作るのは皇帝のお仕事です」
「ハハハ、フィーネはとても手厳しいね」
「皇帝って大変ですよね。とても孤独で、とても…不幸せな立場だと思います」
王子が泣きそうな顔をする。
「だから、…幸せになりましょう。あなたの后も、あなたの部下も、決して皇帝にはなれません。しかし、皇帝を支える幸せの一部になることはできるのです」
「えっ…」
「国を作るのは皇帝のお仕事、そして、后のお仕事はその皇帝を幸せにすることなのですよ」
王子の顔がまるで変な動物でも見たかのような、気の抜けた顔になる。
「皇帝が幸せを知らないのに、国民の幸せを理解できますか?自分の幸せを願えない者が、他人を幸せにできるとお思いですか?」
「私は…私の好きな人を愛していいのだろうか…」
「いいんですよ。私はあなたに人に愛される王様になって欲しい。『人に愛されたいなら、まずは自分が人を愛することだ』王子、あなたは、好きな人を好きなだけ愛していいのですよ」
「だが、万一私の選んだ人物が国を傾けるような者だったなら…」
「王子、忘れていませんか?あなたの周りにいる人達を。私を、リンを、ビッツを、あなたが誤りそうなときは、あなたの周りの人達がきっと諫めてくれますわ」
王子はオレの手を額に当て涙を流す。
オレはそんな王子にこう答えた。
「あなたを幸せにしてくれる、そんな人物を后に選びましょう」
「フィーネ…やはり君は私の女神だよ…」




