05 分裂機兵
無数に分裂したムカデたち、その数7体。
それはもう既にムカデの形を止めている。
一つのブロックに4本の脚。
その見た目はどちらかと言えば黄金虫に近い。
ムカデ改めコガネムシは、脚の無い所は剣を生やして足代わりに蠢き、私を中心とした円を描いて、周りを取り囲むように移動した。
動き回りつつ、彼らは足腰を屈めて攻撃準備の態勢を始める。
私は全方位に目を向けながら、冷静にそれらを認識した。
コガネムシ達はバッタの如く、弾かれる様にして弾となる。
先程の【投擲技術】を使った、応用攻撃だ。
一斉にこちらへ飛び込んで来る彼らは、そうやって自らを質量兵器と化している。
さらに弾かれることを封じる為か、滑空しながらの【部分剣化】によって、ハリネズミ化までこなし始めた。
もはやなんの生き物なのか、滅裂な物体へと昇華を果たしている。
けれど、問題ない。
【対象参照】で観測した事により、ムカデの行ったこのコガネムシ化に存在する弱点は、既に判明していた。
ガンガンガンガンガン――、
と、刹那の間に5回の攻撃を全て、1体のコガネムシに叩き込む。
剣と剣の針玉の隙間を縫うように、しかし確実に的確に、その1体を、……仕留めていた。
その後危な気も無く他全ての攻撃を掻い潜る。
集中的に攻撃を受けた損壊がひどい1体は、導線やら何やらが剥き出しになり、燃料である魔素が抜けて、バチバチと所々がショートしてしまっている。
もうこの1体の機構は使い物にならないだろう。
私は、最初から左手に握っていたナイフの先に、奥まで突き刺されたそれを見ながら、そう結論をだす。
振り向くと、他のコガネムシ達は私を見失ったかのように、うろうろとしている。
否、実際彼らにはもう、私の姿が見えていない。
作戦は明快。
この攻撃で、他全てのコガネムシ達の視覚情報を奪ったのだ。
頭の部分だった1体の眼を、見えないように全て破壊する事によって。
本来の昆虫のちぎれた部分が動くのは、身体に点在する神経の塊から信号を送っているからだとか、そんな構造を持っているのだとかいうのを、テレビか何かで見た事があった。
それと同じ、という訳では無いだろうけれど、このコガネムシもそれぞれの身体にそれぞれの動力があり、それによって独自に動けるのだろう。
違うのは、元々の頭だった1体が持つ視覚情報を、この他の身体も共有している所だった。
その分高精度で動けたり、こちらを取り囲むように行動が出来たりなど連携した行動や、より多くの情報を持っての細かな活動が可能となる。
だが、本体からの映像を全て潰した今、彼らに受信されるはずの視覚的情報は、送られる前から存在しないことになる。
映像を得る事を前提とした機械が、その映像を得られ無くなれば、行動が不安定になるのは当然だ。
最初に振動によって存在が知覚されたが、それも、知覚されただけに過ぎない。
あの時ある程度の猶予があった様に、振動だけで私の動きを捉えられるほどのスペックを誇る訳では無いのだから。
さらに言えば彼らは分離してしまった故に、お互いがお互いの音にすら反応してしまうという状況にまで落とされている。
送受信の要を破壊した時点で、既に勝負は決したのだ。
目を失っておろおろしている1体に忍び寄り、素早くナイフを突き付ける。
ガリガリと内部まで無理やりに削り、突き入れ、【対象参照】に表示された損壊率が上昇する。
そうして呆気なく、中の機構を粉砕出来た。
仕上げに中枢となるらしき動力、魔石をパキリと破壊すると、ようやくその1体は動かなくなる。
五月蠅い駆動音もやがて途切れると、表示の損壊率が100%になっていた。
後は今度こそ、これを5回繰り返すだけ。
作業は、ものの数分で終了した。
誤字・矛盾点などあったら教えて下さい。
3/1 加筆・誤字の修正をしました。
3/30 熱暴走させる部分を数話見送りする為に一部削除と加筆をして書き換えました。違和感があったら教えて下さい。