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04 機兵百足

 咄嗟に走り出し、向かいの扉へぶつかる様にして腕を押し付ける。


「…………」


 しかし扉は、開かなかった。

 ムカデの覚醒によってか、はたまた先の魔力回路の熱暴走(オーバーヒート)が原因か、魔力の流れは手を当てても変化せず、扉は微動だにしそうにない。


 【対象参照(リファレンス)】を使えば原因を調べられるはずだが、戦闘態勢に移行しているムカデをいつまでも無視できず、止む無くナイフを構えてムカデに向き直った。


 瞳のレンズが視界の端で確認するも、入って来た方の扉も既に閉じてしまっている。

 おそらく、今は彼方(あちら)も開かないだろう。

 こうなると解っていれば、扉の所につっかえる為の何かを置いておけば良かったのだが、今更そんなことを言っても仕方がない。


 何が原因で気付かれたのか。

 ムカデの感覚器官、機構は、【対象参照(リファレンス)】で見た限りでは視覚と聴覚、それと振動感知の3つだった。

 となると原因は振動だろうか。

 十分注意しているつもりだったが、全く足りなかったのだと反省する。


 当初の予定通り、取りあえず倒してしまうしかない状況になった現状。

 それでも、防御・速度性能から見るに攻撃は十分通る。

 速度も1割は劣る上、相手の特筆すべき機能は網羅し、理解しているのだから、それに注意すればまず簡単には負けないだろうと楽観した。


 ムカデは身体を持ち上げ、脚をギシギシと軋ませながらこちらに向かって動作を始めた。

 そして背中の一部が反り返る様にしてじわじわと、金属が盛り上がって剣の形を形成していく。

 【部分剣化(ソードライズ)】の機能。

 機構は観測して理解はしていたが、実際に見てみると魔法的な物には、自然と興味の視線が向いた。

 自分の感情が完全に無くなっている訳では無い事を、こんな事で実感する。


 数にして13本の剣が、ムカデの身体から生えたように生成された。

 すべて同じ形の、幅の広いブロードソード。

 鈍く光るそれらは、所々に変色した血液が付着している事からその機能通り、身体の一部を剣に変えているのが解る。

 そこから【部分分裂(ディビジョン)】によってか取り外された剣を、身体を支えるための物以外の13本の脚をそれぞれ使い、普通のムカデでは有り得ない関節の動きを見せ、背中からその剣を取りこちらに向ける。

 【投擲技術(スロウ)】で投げて来るつもりだろうと、そこまで推測出来た。


 ムカデによる投擲行動。

 ムカデの動きを観察してみると、その予兆を感知する。

 それは関節がピッチングマシーンの様に、キリキリと回転を始める動きだった。

 それがこちらから見て右側8本、左側5本で構えている。

 時間差で撃って来るつもりなのか、若干回転にばらつきがある所から、それを窺い鑑みる。


 そして、弾かれたように剣が発射された――、


 直後。

 目前の剣の弾丸を右手の甲で捉え、射線軌道を筋力に任せて無理やりに逸らす。


 半秒開けずにその場その態勢から飛び退り、

 壁を掴むように走り、跳ね、

 天井を蹴り、剣を一つ踏みしめ、着地する。

 首を傾け、避けて、避けて、躱して潰す。


 機械である反応速度は人間のそれとはそもそも比べるまでもなく、その敏捷に加えて常軌を逸した立体機動は、人外である事実を如実に示す。

 常時【対象参照(リファレンス)】からの弾道の予測(シミュレート)を経て、剣のそれぞれを目視し、射出前には避けて見切る。


 機械である利は学習能力も同じの様で、

 最初は多少の無駄があったりした回避も、少数回を熟す頃には熟練し洗練されていく。


 そうしている間に、さらに次々と背中に新しい剣の弾丸が生成されていくのを見て取る。

 このままこの場で避け続ける訳にもいかないので、今度はムカデに向って走り始めた。


 再度射出される剣。

 当たったら相当なダメージが発生するだろう重く鋭い一撃が、雨あられと降り注ぐ。

 それらをひとつひとつ、身体を捻りながら紙一重で躱す。

 チリっと髪の端が切れてしまったのか、数本が舞うが気にもせず接近。


 ムカデは剣を次々と投げては、また別の脚が投げている間に新しい剣を装填していく。

 測定すると、剣の投げられる速度はなんと、初速で秒速250メートル程も出ていた。

 野球の球を投げるのとは訳が違うというのに、銃弾並の凄まじい速度で放ってきている。

 だが、避けて進む間に、ムカデの側面までの移動が成った。


 とは言え、ここまでに掛けた時間はほんの数秒。

 体感時間が引き伸ばされ、霞んだように動き回りながらムカデの横っ腹に渾身の力を込めて蹴りを入れる。

 ガツンと小気味よい音を響かせ、横からの衝撃に耐え切れなかったムカデの巨体は、面白い様に吹き飛ばされる。

 ガシャンガシャンと音を立てながら床の上を何度も転がり、腹を上にして無様にも、ムカデは仰向けにひっくり返った。


 普通の亀とかならこれで後は煮るなり焼くなりやりたい放題に攻撃できるだろう。

 しかし、ムカデは腕の関節を回転させ、腹を上にしたまま動き始めた。


 丁度ブリッジをしたまま動いている様な様子だが、ムカデの体の構造上、あまり不便な様子はない。

 それでも脚の2,3本は破壊できたようで、徐々にバランスが取れなくなってきている。


 これを繰り返せば、勝つのは時間の問題だった。

 ナイフを上段に構え、次のムカデの動きを見る。


 ここでムカデは勝負に出たようだ。

 まるでゲームのボスモンスターがヒットポイントの残量で戦闘の動きを変える様に。

 行動パターンの変化を、敏感に感じ取る。


 バキリ――、と。


 音を立て、身体を節ごとに分断させていた。

 ムカデは【部分分裂(ディビジョン)】の機能を行使した。

誤字・矛盾な点などあったら教えて下さい。


友人と大洗に行って来ました。

丸山さんはかわいい。


3/13 投擲技術のルビをスロウイングからスロウに変更しました。

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