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魔法というものは、本当に凄いと思う。呪文を唱えれば火や氷が現れ、敵に飛んでいく。霧を出現させたり消したりすることまでできる。
ソフィアが仲間に加わってから、そんなことを思った。
彼女は明るい性格のようで、よく話し、よく笑う。今まで静かだった旅が、一気に賑やかになった。
・・・だけど、気になることがある。
「・・・。」
カルルだ。
元々口数が多い方ではなかったが、ソフィアが仲間になってから、口数がさらに減った気がする。
それに、若干僕たちと距離をとっているような・・・
「ねぇカルル、そんな離れてないで、みんなでお話ししましょうよ。」
気付いたソフィアが、カルルをこちらに引き寄せようと手を伸ばした、その時だった。
「っ!」
彼は思い切り、彼女の手を振り払ったのだ。突然のことに呆然とするソフィアに、カルルは震えた声で怒鳴る。
「来んじゃねえ!」
そこで彼はハッとする。そして、彼女から離れると、更に言った。
「っ俺に、近づくな。」
カルルは駆け足でソフィアを、ジノヴィを、僕を通り過ぎ、前へ前へと進んで行ってしまう。
僕たちはただそれを見ていた。
ジノヴィがふと気付いて、ソフィアの手を治癒する。だがその後、誰もカルルを追おうとしなかった。
最悪だ。
反射的とはいえ、ソフィアを拒否する態度をとってしまった。
あの時のことを未だ引きずっている自分が嫌に女々しくて、腹がたつ。
思わず3人を置いて来てしまった。見渡すと小屋がポツポツとある。小さな村に来てしまったらしい。
「旅のお人や、お困りだね?」
いつの間にか、老婆が目の前にいた。それに驚くと、老婆は笑った。
「私は此処じゃちっと有名な占い師さ。どうだい。お前さんのことを占ってやろう。」
俺が怪訝な顔をしていたのだろう。老婆は言う。
「信じるも信じないもお前さん次第さ。お代はいいから、試してみるかい?」
少々胡散臭い気もするが、試す位なら・・・
俺は老婆の言葉に頷き、妙な装飾の施された小屋まで着いて行った。
「さて、早速お前さんのことを占おうかね。」
老婆はルーペで俺の目を覗き込んだ。そいつはふむふむと頷くと、口を開いた。
「あんた、若い女が苦手だね?」
思わず息をのむ。
・・・当たっているからだ。
「カルルー!」
「どこに行ったんだろう・・・カルル!」
名前を呼びつつ、カルルを探すが中々見つからない。一体何処へ行ってしまったんだろう。
「・・・」
ソフィアはあれから黙り込んだままだ。拒絶されて、かなり傷ついたのだろう。
「ソフィア、大丈夫?」
問いかけると、ソフィアの目からボロボロと涙が溢れた。
「ごめん。私のせいで、カルルが・・・」
しゃくり上げる彼女に、戸惑いを隠せない。何て声をかければいいんだろう。おろおろしていると、ジノヴィがソフィアの顔に思い切りタオルを押し付けた。
「泣いてないで、ソフィアもカルルを探してよ。」
「でも」
「でもじゃない。」
ジノヴィは手を腰に当てて、少しキツめの声で続ける。
「僕たちの中の誰かが1人でも居なかったら、僕たちのパーティは成立しないんだよ。・・・だって、皆がかけがえのない、大切な仲間なんだから。」
彼のその発言に、僕もソフィアも返す言葉がなかった。ジノヴィはプイとそっぽを向いて、頬をかく。
「何か、らしくないこと言った気がするんだけど。とにかく、早くカルルを探すよ!」
僕とソフィアは力強く頷いた。
「その反応は、大当たりだね?」
老婆は笑いながら言った。
何も言い返せず、老婆をジッと見る。老婆は変わらず笑顔だった。
「それは、過去の出来事が関係しているんだろう?」
「なぜそこまで分かる。」
「私が占い師だからさ。」
・・・何て単純な答えだろう。思わず気が抜けた。
「確かに、過去のトラウマで若い女が苦手になった・・・あんたの言う通りだ。」
「そうかいそうかい。」
「だが、そのせいで共に旅をしている女に酷い態度をとってしまった。」
老婆は話をじっくり聞こうとしているのだろう。これまでの笑みは消え、真剣な面持ちになっている。
「そいつは最近俺たちの旅に加わったんだ。俺はこの通りだから、自分から近づこうとはしなかった。だが、向こうは共に旅する者として、俺に近づいて来たんだ。・・・俺は、女だというだけで、そいつを・・・」
話していて自分がだんだん馬鹿馬鹿しく思えてきた。
すると、それまで黙って聞いていた老婆が口を開く。
「お前さんがこれまで生きてきた中で、普通に接していた女はいないのかい?」
それなら、思い当たる。俺のたった1人の、大切な大切な
「妹が」
「妹は特別だったのかい?」
「たった1人の家族だったから」
険しい顔をしていた老婆が、急に穏やかな表情になる。
「・・・解決策が見つかったよ。」
「何だ」
「そいつを、女である以前に、1人の仲間だと思えばいい。」
「仲間・・・」
「女だと強く意識しなければいいんだよ。」
その手があったか。老婆の言葉に衝撃を受け、立ち尽くす。
暫くすると、聞きなれた声がした。
僕たちは小さな村に辿り着いた。村人達にカルルのことを尋ねて回ると、1人の人が答える。
「青い髪で背が高い男なら、あそこの占いの館に入って行ったよ。」
何故彼がそんな所に、という疑問があるが、言われるままにそこに向かって行った。
館の中に入ると、確かに見慣れた姿があった。
「カルル!」
彼は僕の声に反応して振り返った。そして真っ先にソフィアの前に来て、バッと頭を下げる。
「すまなかった。」
「えっ」
「あんな態度をとって、あんなことを言ってしまって、本当に悪かった。」
「そんな」
「あんたも大切な仲間の1人だから、もう二度とあんな言動はしない。」
「・・・カルル。」
「改めて、よろしく。ソフィア。」
カルルがソフィアに手を差し出す。ソフィアはおずおずとそれを握った。
カルルとソフィアは少しぎこちない笑顔を交わして、手を離す。
隣で、ジノヴィがやれやれとため息を吐いた。
「これで一件落着かな。」
「そうだね。」
完全に一つにまとまるのはまだ先かもしれないが。一先ず、2人が打ち解けてくれて、僕も内心とてもホッとした。
「婆さん、どうもありがとう。」
「気にしないでおくれ、大したことはしてないからね。」
お婆さんはそう言って笑うと、ヒラヒラと手を振った。
「それじゃあ、出発しようか!」
僕たちは軽快な足取りで村を出た。




