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宿街へ行くのを諦め、別の場所を目指し出発してからどれ位経っただろう。僕たちはどこまでも続く広い広い草原を歩いていた。
サアッと全身に吹いてくる風が心地いい。
「あ、見てよ。あれ・・・」
だんだん、大きな街が見えてきた。行こう、と掛け声を出して、僕たちは駆け出した。
「何だか、自然と街が一体化してるみたいだね。」
「風も、さっきの草原と変わらないな。」
「この世のものじゃないみたい・・・凄く綺麗。」
僕たちは着いた街の美しさに感嘆の声を漏らしていた。
「ようこそ、旅のお方。」
街の人が優しく話しかけてくる。
「この村は初めて訪れましたか?」
「は、はい・・・」
「ならば、彼処の教会に行ってみることをお勧めしますよ。」
その人の話によると、この街の教会には、絵から出てきたような美しいシスターが居るらしい。僕たちは勧められるまま、その教会に行ってみることにした。
「え・・・それ、本当なんですか?」
神父さんは困り顔で頷いた。何でも、例のシスターは、魔物に攫われてしまったという。
「我々の力では彼女を助けられないのです。一体どうすればいいのか・・・」
僕たちは顔を見合わせた。どうするかは、決まっている。
「僕たちが、そのシスターを助けに行きます!」
神父さんは少し驚いたが、すぐに微笑んで、シスター救出を依頼した。
「それじゃあまず、ジノヴィの武器をどうにかしないとね。」
「うん。」
武器屋に行くと、ジノヴィの力でも扱えそうな一つの武器があった。ジノヴィも気に入ったらしい。
「いいね、この鎖鎌。僕これにするよ。」
「毎度ありがとうございます。」
店員さんがそう言って微笑んだ。
何でも、この街の近くにある塔は、かつては祈りの場として使われていたらしい。だが、今は魔物の住処になってしまっている。
「手強いね、ここの魔物。」
「ああ、それに次々と出てきやがる。」
僕たちは沢山の魔物に足止めされ、中々最上階に行けずにいた。それでも諦めず、どんどん進んで行く。手持ちの薬草がつきそうになった頃、やっと最上階に着いた。
そこでは、なんと一匹の魔物が女性を十字架に張り付けて、呪文を唱えていたのだった。
「あの人が、シスターだよね。」
「多分・・・」
気配に気付いた魔物がこちらを向いた。僕たちは各々の武器を構える。
「ほほう、ここまで来る人間がいるとは驚きだ・・・」
魔物は不気味に笑った。
「シスターをどうするつもりだ!」
「この娘の魂を糧に、我々魔族の力を増強させるのだ。これはそのための儀式である。」
空気がビリビリっと張り詰めた。あの魔物・・・来る!
「貴様らに儀式の邪魔はさせんぞ!」
魔物の鋭い爪が僕たちを襲う。かろうじでかわしたが、服を少し裂かれてしまった。弓で反撃し、2人をサッと見る。カルルは見事にかわしていたが・・・
「ジノヴィ!」
「・・・っ」
「ふっ、まずは1人!」
ジノヴィはかわしきれず攻撃を受けてしまった。慌てて少し近づく。どうやら首元をやられたらしい。
「お前たちもすぐに仲間の元に送ってやろう!」
言って魔物が再び襲いかかってくる。今度は僕の横腹を掠めた。少し血が滲む。
「くっ・・・」
「隙あり!」
カルルが叫ぶ声。その次に、魔物の悲鳴。後ろから噴き出る血。
どうやら背中を斬りつけたらしい。
「殺ったか?」
少し相手の様子を見る。魔物は不気味に笑っていた。
すると、魔物の体が光に包まれる。それが消えると・・・
「え!?」
「嘘だろ!?」
魔物の傷が塞がっていたのだ。
もう一度魔物に矢を放ち、カルルが斬りつける。すると魔物は再び傷を治してしまう。これじゃあ、こちらが死んでしまう・・・!
ふと、離れた所で少し音がした。気のせいかもしれないが、今はそれどころでは・・・
「ぬあっ!?」
「え?」
「何だ?」
魔物の動きが封じられた。よく見ると、鎖を巻きつけられたらしい。
「・・・僕が、死んだとでも思ったか!」
「ジノヴィ!」
「アリョーシャ!カルル!僕がこいつの動きを止めているうちに!」
「分かった!」
僕が矢を放ち、カルルが思い切り斬りつける。魔物に致命傷を負わせた。
魔物は傷を治そうとしたが、動きを封じられてできないらしい。
・・・チャンスだ
「とどめだ!」
僕は思い切り力を込めて矢を放つ。それは物凄い速さで魔物を突き刺した。魔物はそのまま、絶命したようだ。
「やった・・・」
魔物に巻きついていた鎖が緩む。ジノヴィが倒れてしまったようだ。
「ジノヴィ!」
カルルが即座にジノヴィに駆け寄った。
「・・・大丈夫。気を失っているだけだ。」
カルルはジノヴィを背負い、彼の鎖鎌を回収した。
「アリョーシャ、シスターを助けろ。」
ハッとする。十字架に駆け寄り、シスターを解放した。近くで見ると、街の人が言っていたとおりの人だな、と思う。
シスターは中々目を開けない。どうやら彼女も気を失っているらしい。僕はシスターを抱きかかえた。
「帰ろう。」
「あぁ。」
ふわふわした意識の中、重たい足取りで、僕たちは街に戻った。
目を覚ますと、視界に綺麗な天井が映った。
「大丈夫ですか?」
街の神父さんだ。どうやら、街に入ってすぐ倒れた僕たちを運んでくれたらしい。
「娘を・・・マリアを助けて頂いて、何と感謝すればいいのか。」
あのシスターは神父さんの娘だったんだ。そんなことを考える。ふと、意識がハッキリする。
「し、シスターは!?僕の仲間はどうなってるんですか!?」
「私はここにいますわ。」
女性が姿を現した。シスター・・・マリアさんだ。
「あなたのお友達は別室で休まれています。傷は塞いだので大丈夫です。」
マリアさんは微笑んだ。やっぱり綺麗だなぁ、と思う。
「お部屋に行きますか?」
僕は頷いた。
カルルとジノヴィはそれぞれベッドでぐっすり眠っていた。
そういえば、2人に傷跡が見られない。
「回復魔法?」
「はい、マリアが。」
神父さんが言うと、マリアさんは照れ臭そうに微笑んだ。
暫くすると、2人が目を覚ます。驚き、キョロキョロしている2人に、状況を説明した。2人は納得し、安堵のため息を吐く。2人はベッドから降りて少し衣服を整えた。
「怪我を治して下さったんですよね。ありがとう。」
「いいえ・・・こちらこそ、助けて頂きありがとうございます。」
そう言ってマリアさんが微笑むと、ジノヴィは微笑み返し、カルルは顔を背けた。
「もう少し休んでいって下さい。」
神父さんの言葉に、僕たちは頷いた。
そして翌朝。
「では、僕たちはそろそろ・・・」
「お待ち下さい。」
立ち去ろうとした僕たちを、マリアさんが呼び止めた。
「そちらのお方、こちらへ・・・」
「僕?」
マリアさんはジノヴィを呼び寄せた。
「あなたには、回復魔法を唱える力が備わっています。」
「え?」
「その力を解放致しましょう。」
するとマリアさんは、聖水を取り出して、ジノヴィにふりかけた。
ジノヴィが柔らかい光に包まれる。その光はすうっと消えた。
「これで、あなたも次第に回復魔法が唱えられるようになります。」
「わぁ、心強いね!」
「うん。これで2人の役に立てるよ。」
ジノヴィは笑った。明るい光の下で改めて見ると、彼もとても綺麗な顔で笑うんだと分かった。
「それじゃあ、今度こそ行くぞ。」
「うん。マリアさん、本当にありがとうございます。」
僕たちは教会を後にした。
「・・・ジノヴィさん。」
「何ですか?」
「あなたから、人ならざる気配を感じるのです・・・何か、心当たりは?」
「・・・特に、何も。」
マリアさんとジノヴィがそんなやり取りをしていたことを、僕とカルルは知らなかった。




