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魔物を武器で倒していきながら、僕達は先へ先へと進んで行った。だけど、おじさんの言っていた町は中々見えてこない。だんだん疲れて、弓矢の命中率が下がってきた。
「・・・見えねぇ」
カルルが低い声で呟く。僕は何も答えられない。答える気力がない。
「今夜は野宿か・・・アリョーシャ、平気か?」
首を縦に振って肯定する。
カルルがキョロキョロし始めた。恐らく、今日の寝所を探しているのだろう。合わせて僕も探す。
「?」
・・・あれは、
「光」
「何?」
「あれ・・・」
遠くにぼんやりと見える、淡い光。あれは、町の明かりだろうか。
いや、そうであって欲しい。
「行こう。」
「あぁ。」
疲れた身体に鞭を打って、駆け出した。
その場所は確かに町だった。
道を歩いているのは男の人達のみ。ここが、おじさんが話していた町だろうか。
「いいからそいつを引き渡せっつってんだよ!」
向こうで怒鳴り声がする。カルルも気になったらしい。
「行くか」
「うん」
声の方へ行くと、柄の悪い男達が2人の人物を囲んでいた。おじさんと、頭からすっぽりとマントを被った人。
「そいつがお前の店の花魁だってのは分かってんだ!」
「た、頼む!こいつだけは、こいつだけは・・・」
連中の一人がおじさんを蹴り飛ばす。勢いでその人は体制を崩しうずくまった。
「花魁、俺たちと来てもらうぜ。」
「・・・っ」
これ以上、見ていられない!
「やめろ。」
「乱暴は良くないよ。」
「ぁあ?」
「何だテメェら!」
「殺っちまえ!!」
男達がまとまってかかってくるが、魔物達との戦闘で戦い慣れた僕達には、大したことはなかった。一気にそいつらを倒していく。
残りの男達は怯えて、倒れた男達を引きずり、捨て台詞を吐いて去って行った。
「・・・ちっ、何だ。つまんねぇ。」
「おじさん・・・君も、大丈夫?」
おじさんはゆらっと立ち上がった。何とか大丈夫らしい。もう一人も小さく頷く。
「有難うございます・・・旅のお方ですか?」
「あぁ、まぁ。」
「なら、お礼と言ってはなんですが、うちの店で泊まっていって下さい。勿論お代は頂きません。」
「・・・だとよ。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうか。」
「左様ですか・・・お前も文句はないだろう?」
もう一人は、コクンと頷いた。
通された部屋はやけに殺風景だったが、妙な雰囲気が漂っていた。
「ここ、宿屋にしてはちょっと変じゃない?」
「あぁ・・・というか、ただの宿屋じゃねぇ気もする。」
そういえば、先ほどの人が何故か一緒にいるのも気になる。その人は頭まで被っていたマントを脱ぎ捨てた。
「なっ・・・!」
「オ・ン・ナ・・・?」
金色に輝くサラサラの髪、衣服の上からでも分かる細っそりとした体型、ふさふさの睫毛に、透き通った青い目。まるで童話から出てきたようだ。
「・・・僕は男です。」
その人は渋い表情で言い、続ける。
「ここは宿屋ではなく男娼館です。そして、僕はこの店の花魁に値する男娼、ジノヴィと申します。」
その人ージノヴィーは丁寧にお辞儀した。
それから、どれ位の時間が過ぎただろう。出された食事を食べ終え、僕たちは何を話せばいいか分からず、ずっと沈黙していた。何か話そう。何か・・・
「あのさ、君はどうしてこの仕事をしてるの?」
ジノヴィは無表情のまま答える。
「・・・僕は、物心ついた時にはすでにここで働いていました。」
そこまで言って、彼は首を傾げる。
「でも、どうして僕はここにいるのか、昔の記憶があまりにも曖昧で、思い出せないんです。」
淡々とした声で、たどたどしく続ける。
「ただ、訪れる客に微笑みかけて、その身に沈んでいって・・・それが、ただただ繰り返されて・・・」
彼は、辛いのだろうか。ここにいるのが。
「ねぇ」
「何ですか?」
「ここを出てさ、僕達と一緒に旅をしようよ。」
ジノヴィはこっちを見て、ため息を吐いた。
「何を言うかと思えば・・・僕はここにいないといけないんです。僕はこの店の花魁、つまり一番の稼ぎ頭。僕はこの店のために、僕を求める客のために、ここにいないと・・・」
ジノヴィがそこまで言うと、今まで黙っていたカルルが思い切り壁を殴った。衝撃で、そこに小さなひびが入る。
「『商品』の意見なんか訊いてねぇ」
「え?」
「あなた何を・・・」
「俺たちは、ジノヴィという『人間』に訊いてるんだ。」
カルルに圧され、ジノヴィは目を瞠る。ほんの少し、怯えているように見える。
「・・・」
ジノヴィが何か呟いたが、聞こえない。それは、声が小さい上に、震えているからだろうか。
「『お前』はどう思ってんだ、ジノヴィ!」
「・・・い」
彼はまた小さな震え声で、何か言った。それから、一呼吸して、再び口を開く。
「外に出たい・・・ずっとここになんていたくない!僕は、外で自由に・・・あなた達みたいに自由に旅をしたい!!」
ジノヴィは叫んだ。自分でも大きな声を出し過ぎた事に驚いたのだろう。動揺しているのが見てとれる。でも、外に出たい。彼の本音を聞いて、僕は微笑んで彼に手を差し出す。
「だったら、ここから出ようよ。僕たちと一緒に。」
彼は僕の手を取ろうとしたが、少し躊躇った。
「・・・僕は、この店の一番の『商品』です。その僕が外に出て行くなんて・・・そんなの、絶対許されません。」
すると、カルルがジノヴィの脱ぎ捨てたマントを彼に被せ、言った。
「バレないように抜け出せばいい。」
それから、ジノヴィを抱えて窓に近づいてから言ってきた。
「うわっ・・・!」
「こっから飛び降りる。できるか。」
僕が小さく頷くと、カルルは外に人がいないのを確認し、ジノヴィを抱えたまま窓から静かに飛び降りる。僕もそれに続いた。




