子だくさんの街
長男を妊娠 出産したとき 私達夫婦は千葉のとある街に住んでいた。ここはほんとに整備された街だった。CMにもよく使われるほど、街並みはきれいだ。新しいマンションが立ち並ぶ道は美しく舗装され風紀を乱すような店は一軒もない。
公園はそこかしこにあり、電線は地中に埋まり空は広く 目障りなごみ置き場などはない。各マンションに ごみシューターがあり 集積所に直接吸い込まれるのだ。つまりゴミの収集車は街を走らない。ついでにいうと住人たちも皆小綺麗にお行儀よくしている。
子育てには最適な街だった。もちろん私たちは当初はそんなつもりもなく羽田や成田にいくのにアクセスがよかったから引っ越しただけだった。
確かに環境はよく 長男が産まれてからもお散歩には不自由しなかった。
それにしてもこの街はやたらに子連れが多い。誰もがだっこやバギーで小さい子を連れてる。とにかく小学生や赤ちゃんがやたらにいる。でもそんなのここに限らずよそだって同じようなはず。でも何か普通の街とは違う。なんでだろう?考えてみた。そうだ。お年寄りがいないのだ。ついでに大学生くらいの人もあまりみかけない。街そのものがまだ若いからか?
みんなが同じようなマンションに住み、世代もほとんど一緒で、同じような生活レベルなのだ。
ある時 この街のコミュニティセンターに子供を連れていった。ここで親子で体操するクラスがあったのだ。お教室そのものは楽しかった。息子もまだ5ヶ月だったがよろこんでいた。
ただ、そこに来ていたママたちが あまりに雰囲気が同じで …なんだか気持悪かった。独特の空気だった。うまくいえないが 「みんなと一緒が一番」と思っていてそこから少しでも秀でることも、逆に、はみだすことも許さない空気だった。排他的なのだ。
私も妊娠するまで客室乗務員だったので 女性の世界にどっぷりつかっていた。派手な世界ではあったが、排他的ではなかった。そもそも人数が多いため知らない人もたくさんいる。、初めて会う人たちばかりで乗務することもある。一応グループ制で主要なフライトは同じグループ員と原則はフライトするが他のよそのグループフライトにポツンと自分だけジョインしたりする。いちいち排他的になっていられないのが 現実なのだ。だから入社当時よくいわれた。一人で行動できて、一人で食事ができなければ…つまり一人を楽しめなければ この仕事は孤独すぎてキツイだろう、と。もちろんみんなと食事にいったり一緒に買い物だってするが、いつもベッタリではない。基本は個人行動だ。むしろ誰かと一緒にいなきゃいやだというタイプはウザイと思われる。みんな 独りでいることも、楽しめる。無理にあわせたりしない。あっ、だからいつまでも独身でいる人が多いのかしらん??
とにかくこの街のママ集団にすごく違和感を感じた。そして年寄りが極端に少ないことも、あまりにきれいすぎる街も、どうなのかと思っていた。息子にはいろんな物を見て知ってほしかった。おじいさんもおばあさんも子供も、いろんな人がいることをふつうに見て育ってほしいと思った。 ところで、夫は 世田谷に実家がある。生まれも育ちも東京だ。彼は中学から私立に通ったのだが 電車通学とはいえ近いし 部活も夜までできた。時にはさぼって 遊んだりもしたらしい。夫はここにいると幼稚園くらいまでならいいが それ以降になると、学校の選択肢はかなり厳しいと懸念していた。都内の私立に通うとなると 片道かなりの時間をゆうすることになり、部活も寄り道もできない。他の友人ができることを彼ができないのはかわいそうだという。
群れる習性が私にはなかった。無理して子供に友達を作りたいとは思わなかった。そんなのは公園で日々遊んでいるうちに自然にできるはずだ。しかし群れたがるママたちは「子供に友達」といいつつ 「私にママ友達」という感じだ。それも必要だろう。否定しない。ママ友から得られる情報も大切だ。めんどくさいのは 「みんな同じがいい、仲間といつも一緒」と思っていて 仲間以外には排他的であったりする人達だ。
この街にはその人種が多い。私の直感はそう言っている。
加えて、夫の意見である進学の問題。そしてこの街のあまりに整いすぎた環境。もろもろ考えて私達は引っ越しを決めた。買い換えだ。いわゆる普通の住宅街―中流以上が集まる環境のよい―もし公立にいくとしてもレベルの高い学区。
渋谷になるべく近いところ。これは主人の実家との兼ね合いだ。
見つかるまで探すつもりだった。物件探しの話はまたいつか。これも結構おもしろかった。
あの街は今、紅葉が美しいだろう。懐かしいと思うがそれ以上に今の街に引っ越してよかったと思う。
子供は今、街を走るゴミの収集車に夢中だ。外に飛び出して彼等の仕事を見ている。そしてずっと手を降っている。ご近所のお年寄りにはかわいがっていただいてる。お友達もできた。
いろんな人達とふれあって豊かに育ってほしい。