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ヨリコとみちよの非日常的日常

ヨリコとみちよの非日常的日常2 「優しき解放者」

作者: 野々村竈猫

ヨリコとみちよの非日常的日常2 「優しき解放者」



 「ヨリちゃん、あのな・・・」


 きた。


 きました。


 みちよがおかしなことを思いついたときの枕詞。


 みちよはあたしの小学校からの親友。小中高のエスカレーター女子校なので、

ずっと一緒。ずっと親友。


 彼女があたしに話しかけたのは、通学途中にある住宅街の通り。

その中で唯一家の建っていない区画の前。

 あまり管理されていないのだろう。背の高い草がぼうぼうと生えている。


 「ど、どうしたの?」面白半分、冷や汗半分。


 「ウチらが小学校のときはこの辺一帯、ぜーんぶ草むらだったやんか?」

 「うんー、そうだねえ」

 「草むらにいろんな生き物ががおったやろ。あれから家が建ち始めて、

  とうとう空き地はここくらいになってもうたやんか。草むらにいた

  生き物たちが行き場をなくして、ここに集まってきてる気がしてん。」


 言われてみれば、そうだ。


 あたしたちが小学校の頃は、このへんはほんとに広い草むらで、男の子たちと

よく虫取りをしていたのをおぼえている。蛇が出てきて逃げ出したりして。

ホントに自然がいっぱいだった。


 それが、あれよあれよと言う間に開発が進み、家が建ち始め、草むらはどんどん

なくなっていった。


 みちよは続けた。


 「もしかしたら、まだ発見されていない生き物が行き場をなくして

 ここに集まっているかもしれへんなーて思たんよ。」


 まあ、そうかもしれない。図鑑に載っている生き物なんで、ほんの一部に

過ぎないと言うのはよく知っている、その、載っている昆虫や生き物さえ

どんどん生活圏を奪われているのが現実。


 みちよは、あの綺麗な瞳でじっと、草むらをしばし眺めていた。


                 *


 次の日の朝。


 登校途中、みちよはあの草むらの前で立ち止まると、手提げ袋をごそごそやり始めた。


 「何してるの?」

 「うん。この草むらに閉じ込められた生き物に、お弁当作ってきたんよ。」


 そういいながら、草むらを少しかき分けると、ハンカチを広げ、その上に超ミニサイズの

おにぎりと、お水の入った小さな器を置いた。


 「みっち、何これ。」

 「ここに逃げ集まってきた生き物に差し入れ。ホントはお酒もあると良いんだけど、

 ウチら、未成年やし」


 お米、お酒、お水って神様のお供えだろーって突っ込みたかったけど、みちよの

大真面目の真面目には突っ込むことが出来ない。彼女の真面目は本気なのだ。

 ガサガサと、掻き分けた草をもどす彼女。


 「さ、ガッコ行こ。」

 「う、うん」


                  *


 みちよは思い込んだらとことんやるタイプ。

 「お弁当」は数週間続いた。学校帰りにお供えを覗いてみると、きれいに無くなって

いた。みちよはこの草むらに追い込まれた生き物が食べてくれてるんだと上機嫌。

 あたしは野良猫か何かに食べられちゃっているんじゃないかなーと思っていた。


 ところが。

 事はとある夕方に起こった。


 クラブが遅くなり、夕日が建物の間に落ち、空に星がチカチカし始めた頃だった。

 「お弁当」のハンカチを回収するため、みちよが草むらをかき分けた時。


 「え、えっ?」


 草むらの、あちこちに青白い淡い光が、ぽつり、ぽつりと灯り始めたのだ。

光は明滅しながら見る見るうちに数を増し、ふわりふわりと空中に浮き始めた。

 突然目の前に広がる幻想的な風景にあっけにとられるあたしたち。


 少しの間たゆたっていた青白い光は、いっせいに上空に舞い上がった。そして

そのうちのいくつかが、みちよの頬の周りを漂ったあと、すうっと舞い上がる。

 それを合図に光の群れは、東の山の方向へ向かって一直線に飛んでいった。

淡い虹がその群れの後にかかった。


 しばらくの間、あたしたちはボーっとその光の行方を見つけていた。


 「『ありがとう』だって」

 最初に口を開いたのはみちよだった。

 「やっぱり居たんやわ。ここに閉じ込められてた生き物。」

 「う、うん。居たねえ・・・」

 わたしは、夢を見てるみたいな気持ちで群青色の東の空に光の群れが瞬きながら

薄れていくのを眺めていた。


                 *


 それから後、朝にお供えした「お弁当」は夕方までそのままだった。どうやら、

お弁当を食べていたのは「彼ら」だけだったらしい。


 そして、その数日後、その区画には看板が立ち、草が刈られ、新築工事が始まった。


 「んー」

 「どしたの?みっち」

 「あの草むらに取り残されていたの、あの子達だけだったのかな。他の子達は

  脱出できたのかなって思って。」


 わたしは、みちよの頭をくりくり撫で回した。

 「な、なしたん?」

 「みっちは出来ることをやったんだからいいの。『出来ないこと』は出来ないんだから

  深く考えないこと!」

 「そ、そやね」


 世の中には出来ないことがいっぱいある。出来てもやりそびれることもいっぱいある。

普通の人なら馬鹿馬鹿しく思えることでも、彼女は気づいたことをすぐ実行する。

あたしはそんな彼女を尊敬してるし、友達でいることを誇りに思っている。


 「それでな、ヨリちゃん、あのな・・・」


 彼女の思いつきの頻度がもうちょっと低くてもいいかなーとは思うが。

 「はいはい、今度はどうしたの?」


       お し ま い

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