mission7-犯罪捜査本部二年瀬良、至急本部へ帰還せよ
奴――瀬良尚が本部に現れたのは、俺が三巻目、宮木が十七巻目のマンガを読んでいた時だった。
まず、軽いノックが二回。
そして「失礼します」と一言。
静かにドアノブを回して、ドアを開閉する。
最後に一礼。上履きを脱いで一段高い絨毯敷きの床に足を踏み入れた。
「すみません、次の依頼の下調べが難航してましてね」
……几帳面すぎる。一つ一つの動作に全く文句のつけようがない。多分、このまま面接に突き出せると思う。
事務局でコピーしてきたらしい資料が入ったファイルをドンと自分のワークデスクの上に置くと、瀬良は俺達をそこに手招きした。
「校長の話によりますと、最近災害時のために校内に設置されている貯水タンクに人為的な破損の形跡があったのだそうです。最初に発見されたのが、五日前の五月二十四日。ここに、その時撮影した写真と、この貯水タンクの設置日及び五回前までのメンテナンス日、並べて一年ごとの水質調査の結果、更に、これが一番大変だったんですがね、ここ一ヶ月間の貯水タンクが画面に映っている学校内外の防犯カメラの映像をSDカードに保存したもの、を集めてきました」
「ごめんセラ、何言ってんのかぜんっぜんわかんないんだけど、とりあえずすごいってことで良いの」
淀みなく語り終えた瀬良に、空影先輩がやや引き気味に口を開く。概ね同意、と、その他もめいめいに頷く。
「ああ、そうでしたか、すみません。
――要は、下調べは一通り終わりました、ということが言いたかっただけです」
そして、隙のない微笑。なんとなく、俺はこいつが苦手だ。
「自分の基本的な仕事はこれで完了しましたので、何かありましたらまた声をかけてください。それでは、これで失礼します」
そして、また初めと同じ動作をほぼ正確に逆再生して本部から出ていく。
「ブレないな、あいつも」
霧島先輩が呟く。同意見である。
「瀬良先輩が所属してる活動の数、知ってます? ここと生徒会副会長、アナウンス委員会書記、文芸部、科学部、ESS部、茶道部を兼部、それに加えて地学同好会とドイツ語クラブと現代社会研究会で計十個ですよ。異常ですって」
宮木がまくしたてたその時、
『全校生徒の皆様、連絡です。只今、六時を回りました。校内に残っている生徒は、速やかに下校してください。尚、教職員の了解を得ている生徒は、下校の必要はありません。――それでは皆様、本日はこの辺で。本日のDJは、最近オムライスの作り方を覚えた、二年瀬良尚がお送りいたしました。改めまして、さようなら。よい夜を』
スピーカーから、ひねりをつけたわざとらしい声が流れてきた。いつもと違うが、言うまでもなく瀬良の声である。アナウンス委員会の活動だろう。
「……じゃ、はじめよっかー」
空影先輩の一言で、俺達は我に返り、作戦会議のために床の上で車座になった。
俺達の活動は、日々こんな感じで行われているのである。