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mission5-水島容疑者に制裁を加えよ

「……ってことなんだけど……宮木、いいか? 嫌ならいいぞ」

 遠慮がちに訊いたのだが、宮木は「いいですよ」と二つ返事で引き受けてくれた。やっぱり人間、大事なのは性格だなとふと思った。

「そうか、やってくれるのか。じゃあ準備ができ次第始めてくれ」

 すると、二人は返事をして向こう側の道へ走っていった。

 程なくして、二人は体育館裏の道を談笑しながら戻ってきた。恐らく、宮木が長月に仕込んだのだろう。すると長月は思い出したように、

「あ、やっべ俺上履き体育館に忘れてきたわ。取ってくるから先教室行ってて」

 と言って、来た道をUターンして戻っていった。うん、自然な流れだ。遠くで小さく赤い光が見えた。多分長月がビデオカメラを起動させたのだろう。

 そして、宮木は小走りで体育館裏へ来て――

「痛ッ、あっ、す、すみませんっ。ちょっと急いでて……」

 水島の足にぶつかり転倒。いい調子だ。

「あ゛ぁ? おいてめェ、何ぶつかってんだよ。ふざけんな」

 水島が立ち上がり、宮木の胸ぐらをつかんだ。

「あっ、ご、ごめんなさいっ。ぼく、あの、きっ、気付かなくて。本当にすみませんでしたっ」

 宮木の顔が泣きそうになっている。が、よく見ると、手でピースサインを出していた。流石演劇部だ。一人称まで「ぼく」に変えるとは。俺は舌を巻いた。

「てめェ、今俺にぶつかったよなぁ?」

「は、はいっ」

「なぁ? 俺にぶつかってただで済むと思うなよ」

「ごめんなさい、ゆ、許して……、許してくださいっ。痛ぁ!」

 水島が宮木の頬を盛大な効果音とともに殴り、宮木が地面に崩れ落ちたのを確認してから、俺は行動を起こした。出会い頭にボディーブローを一発、右ストレートを一発、最後にありったけの力を込めて背負い投げ。水島は、地面に転がって少し大人しくなった。

「な、何なんだてめェッ」

「動くな。宮木、大丈夫か?」

 水島の動きを封じながら、俺は宮木に問いかけた。

「いや、そりゃ痛かったですよ。あとで絆創膏貼ってくださいね」

 滲みかけた涙を拭いて立ち上がった顔は、もういつもの宮木だった。ここまでくると、演劇部というよりは最早俳優だ。意外と大物かもしれない。

「さぁてと」

 俺は動きを封じている水島を上から見下ろした。物影から長月も顔を出す。

「水島功太、朝山高二年。そうだな?」

「……だから何だっつーんだ」

 俺は長月からビデオカメラを受け取って話を続けた。

「お前はこの間、この学園に無断で侵入し、ここの一年生数人に暴行を加えた。殴られた後の一年見かけたけど、すげー痛そうだったぞ。

 まあそれは別として、体育館裏で張り込んどいて良かった。で、お前はまんまと俺達の寸劇に引っ掛かって、俺に地面に押し付けられて今に至るわけだ。更にこっちには証言用のビデオも残ってんだ。つー事だ、大人しく観念しやがれ」

 ああ、噛まずに言えてよかった。

「おいてめェ、一体何者だ。それに、言い忘れてたけどよ、俺は柔道と空手をかじってるんだぜ。大人しくすんのはてめェの方だ」

 最後の悪あがきと言わんばかりに一息でその台詞を言いきった水島を、俺は冷笑した。

「俺が何者か、なんてのは今はどうでも良い話だ。それに言い忘れてたが、俺は柔道、空手の他にも、剣道、ボクシング、合気道……と、あと何だったかなテコンドーだっけ。とにかくお前を遥かに上回る数の道術・格闘技をやってんだ。今も毎日欠かさずトレーニングしてる。態度を改めるなら今だぜ」

 俺の場合ある意味間違っちゃいないが、もちろん嘘である。こちらも同じく一息で言い切り、水島を押さえつける圧力を二倍位に増やした。水島は何か考え込んでいる風だったが、十数秒程経ってからやっとその口を開いた。

「チッ、分かった、俺はもうここに来ねーしここの一般生徒殴ったりもしねーよ。分かったらさっさと離せ」

「話せば分かるじゃんか」

 俺は水島から手を離した。何かしてくる素振りもしていないから、どうやら本当に観念したようだ。自分のエナメルバッグを持って校門の方へ向かっていく。

「今に見てろ」

 水島はそう呟いて、学園から去っていった。

「先輩」

 ふいに長月に呼ばれた。

「ん? 何だ?」

「水島の態度、ちょっと変じゃありませんでした?」

「どの辺がだ?」

「いや、どの辺って言われると……なんか、物分かりが良すぎるかなって」

 何言ってんだ?

「物分かりが良い方が良いだろ」

「そうじゃなくって。普通、足にちょっとぶつかっただけで人殴り倒すような奴が、こんなにあっさりと引き下がったりしますか? おかしいと思いません?」

「そういう状況の時もあんだろ、きっと。取り敢えずお前ら、本部戻るぞ」

「……はい」

 不満げな返事を返した長月を含む俺達三人は、体育館裏の通りを抜けて、校舎を目指した。

 そして、俺は数日後、あのとき長月の話をちゃんと聴いておけば良かった、と強く後悔することになる。


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