ドアの向こう側
毎朝、通学時の楽しみは朝の電車である。毎朝決まった時間に通学する俺は
神戸、JR三宮駅で下りの電車に乗っている。そして、上りの電車には、
いつも彼女が乗っているのだ。
彼女は、いつも小説を読んでいた。カバーが掛っていて、何を読んでいるか
は、分からなかったけども、読みながら、ちらちらと目が合ったりしたりもした。
電車のドア越しに、いつも彼女がこちらを見てる。俺も彼女を見てる。
彼女の名前、もちろん知らない。長い髪に、猫のようにやや釣りあがった瞳。
肌は白く、神戸にある有名ミッションスクールの白い制服をいつも着ている。
ミッションスクール、そうだ、うちの高校もミッションスクールだった。
そして、有名高校でもあった、ただし悪評しかなかったのだけども。
とても可憐な彼女に比べて俺は、髪はリーゼント、制服はというと、
中ラン、おまけにダボダボのボンタンときている。どこから見ても、
ヤンキーだ。それにペチャンコの鞄。
誰かが言ったっけ、鞄の薄さが知能の薄さだって・・・
まぁ、とにかく彼女とは何から何まで正反対ってやつだ。
彼女を初めて見たのは、高校1年の時だ、この世にこんなに綺麗な子がいるのかと、
初めて思った。まさに高嶺の花ってやつだ。
そして、笑える話だけども、今俺は高校3年になっている。
俺は決して内気ではない。付き合った女の子も3年で5人程いる。ただ続かない。
いつもドアの向こうの彼女が気にかかっていたからだ。
何度も、向こう側に行こう、行って声をかけようと思ったことか・・・。
だけども、この3年間、毎朝、彼女の顔を見るのが楽しみだっただけだ。
いつも通りの退屈な授業中、俺は彼女の清楚な制服姿を思い描いていた。
その時、ふと国語の担任のハゲの言葉が耳をついた
「えーーー、○○女子学院とは姉妹高なんや。」シマイコウ?俺。
シマイコウ?シマイコ?俺は隣の奴に聞いた。
「シマイコってなんや?」そして、隣の奴がでかい声で
「知るか、おんどれっ!」と返してきた。
そして俺は。「ありがとな、ダボっ!」と返した。
これが日常のごくありふれた会話だから俺自身、嫌になる・・・。
担任のハゲが苦笑しながら、姉妹校について説明した。
説明されて兄弟みたいなもんかと思っただけだ。
「まぁ、同じカソリック系で統合の話もないこともないんやけどな」
と担任、「せやけど、偏差値が違いすぎるしやな」「女子高と男子高が一緒に
なるわけやし、うちの高校が悪過ぎて、統合はないわな」と担任は言った。
「なんや、おもんないのぉ」とクラスメイト達が、どっと笑った。
そして、俺はまた彼女の事を考えていた。
最後に担任が言ったのは、「同じなんは、卒業式の日取りくらいやのぉ」と・・。
そう俺は、この○○学院を、もうすぐ卒業するのだ。
帰宅の電車の中、考えていたのは、卒業の事だ。卒業がどうこうでは無い。
卒業すると、もう彼女の顔が見れへんなぁと思っていたのだ。
考えてると胸が締め付けられる気がしてきた。恋ってやつか・・・。
卒業式かぁ・・・。あと一カ月もあらへん・・・。
それから、俺はため息を一つついて、考えないようにした。
だが、考えないようになんて出来ず、俺は彼女に告白することを決意した。
もちろん卒業式の日だ。
冬の寒さが、和らいできた頃、とうとう卒業式の日がきた。最後のチャンスだ。
この朝しか、もう彼女と会えないと何故かそういう予感がしていた。
そう、勇気を振り絞って彼女に告白するんだ、ただ一言、「好きだ」と。
あとは野となれ山となれだ。
俺は三宮駅を降り、上りの電車のホームへ息を弾ませながら走っていった。
日頃の運動不足のせいか、肩で息をする始末だ。だが今は、そうも言ってられない。
そして、俺は階段を3段開けで走り上り、ホームの廊下を走り、そしてそして、
彼女のいる電車に走っていった。ラストチャンス!
ドアが開いている。俺は走り寄った。そして下りの見える電車のドアにいる彼女を
探した・・・。いなかった・・・。
俺は、いつも俺が乗っている電車のほうを見た。見た。見た。
ドアの向こう側、下りの電車のドア。俺がいつも乗っている所。
そこに彼女はいた。彼女がいたのだ!
彼女は俺を見て、やや俯き加減にして、切なそうに俺を見ていた。
たぶん、俺も同じ顔をしているだろうと思った・・・。
だが、彼女は顔をおもむろに上げ、弾けるように声もなく笑った。まるで声がこちらに聞こえる
かのような笑顔だった。俺も釣られて笑った。なんだか悲しいような楽しいような
とても不思議な感じだった。ふと思い、俺は彼女の手元を見た。
彼女は今日も小説を手に持っていた。だが今日はカバーが
なかった。俺は、何を読んでるのだろう?とその小説のタイトルを見た。
タイトルは、「パラレルワールド」だった・・・。
そう、まるで俺と彼女との関係のようだ。そして俺は、でっかい声で、
向こう側に聞こえるように、
「名前なに?---っと」声をかけたのだった!「香織っ」と
彼女の・・・・。香織の大きな声が聞こえた。
そして、香織も大きな声で聞いてきた。俺は「健吾!」と答えた。
この後、どうなったかは、また別の物語・・・・・・・・。




