第八話 閉ざした心届かぬ光 〜彼方より想いは還る〜
アランディルが出ていった後、残された人たちは、ぐったりしていた。
唐突にセリーヌがキッとした目で、
「リオネル。先程のはどういうことなの?」
背もたれに身を預け、かったるそうにリオネルが言う。
「居るよ、エルミージュは。生きてるよ……といっても、生きてるとも死んでるともいえない曖昧な状態なんだけどな」
「セリー姉様に話すと顔にでるでしょ。隠し事できないからね、セリー姉様は」
「馬鹿にしないで。わたくしだってできるわ」
「そういうところ、セリー姉様は、エルミー姉上と似てるよな……
よく考えてみろよ、エルミー姉上がこの世から消えて、父上が普通でいられるか?
普通にできてる時点で、気づけよ」
「では、父上は知ってたのね?」
「あぁ、俺は父上から聞かされた。まだ予断を許さない状況だし、時間がかかるだろうと」
「あの時、五年前に何が起きたの?」
「そこは話すと長くなる……複雑だからな」
リオネルは眉間にシワを寄せ、天を仰いだ。
「何故、私だけ姿を視せてくれないの?」
「セリー姉様は、いま心が疲れてるんだよ」
リオネルはセリーヌを優しく見つめ、ゆっくりと話しだした。
「ある時を境に、急速にセリー姉様は回復してきている。
でも、自分で気づいてないけど、まだ無意識に心を閉ざしてる部分がある。
それがエルミージュを視れない原因なんだ。気づいけてないだけで、エルミージュは僕たちの周りにいるよ。あの頃と変わらず。
そして、セリー姉様には、同じ言葉をずっと伝えているよ」
「同じ言葉?」
「俺からは言えない。早く気づけたらいいね」
私に伝えたいエルミージュ? 気になったが、リオネルの性格上聞いても教えてもらえないのは分かっているセリーヌは話を変えた。
「殿下がエルミージュと会ってたのは本当なの?」
「くくっ……ああ、会ってたよ。本当のことだよ」
リオネルはお腹を抱えて笑いながら話す。
「でも、それはセリー姉様を助けたかったからだよ。自分と同じ思いをさせたくなかったんだ。そのために、どんな奴か見てやろうと……ついでに、幽霊ぶって脅そうとしたら、お付きの精霊が暴走して、巻き込まれたらしい」
リオネルは耐えきれなくなって涙まで流している。
一体どんな出会い方をしたのかとセリーヌは想像がつかなかった。
「それで、殿下と会った?」
「ああ、会ったというか、転がりでたというか……」
ますますわからないと、セリーヌは肩をすぼめた。
「それだけで、こんな事が起きるの? 喜劇かと思ったわ。いきなり求婚するなんて——まさか、色仕掛け? 籠絡したの?」
リオネルは、もう耐えきれなくなって本格的に笑い転げている。
セリーヌは置いてけぼりだ。
「色仕掛け……考えてたみたい……が、何もせずに偵察がてらに普通に話してただけ」
「それだけ? それだけで? さすがエルミージュとしか言えないわね。
エルミージュへの求婚でわかったけど、殿下は、ルクレ家の五年前の事件を知らないのね」
「わかってないみたいだな。新聞にも出たのにな……王家の一部で秘匿してるみたいだ。国王陛下には、精霊王さまが苦言を呈したらしい。『まだ懲りないのか?』って……」
ここで、リオネルは居住まいを正した。
「あと……もうしばらくしたら、エルミージュは戻るってさ。予断は許さないから気は抜けないけど」
セリーヌの目がキラキラと輝き、大きくなった。
「それでも嬉しいわ。待ち遠しいわ」
セリーヌは嬉しくて、崩れ落ちそうになる自分を表面には出さず喜んだ。
目尻には涙が滲んでいた。
詳しい事は、また教えなさいとセリーヌはリオネルに言い、
アランディルの嵐の片付けに二人とも動き始めた。




