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【第一部完結】翡翠色の風に乗せて〜私はダメなんかじゃない〜  作者: 碧風瑠華


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 番外編 剥がれぬ鎧 〜終章アランディル〜 ※パワハラ・モラハラあり


※この番外編には、一部パワハラ・モラハラ描写があります。

 苦手な方は閲覧をお控えください。中間あたりに少しあります。




 追放処分となったアランディルは、生家であるヴァルモ家へ舞い戻ってからの一か月は、


 「俺は悪いことなんて何もしていないんだ!」


 と、会う人会う人に噛みついて回っていた。


 


 やがて叫ぶことに疲れたのか、今は大人しくなり、たまに懐かしむように、


 「エルデリアの令嬢たちが悲しがってるよね」


 「エルミージュ? 僕の最愛の天使だよ。僕たちは悲恋なんだよ」


 と、正気なのか狂気なのか判別できないことを口走っていた。


 


 そんなアランディルを見かねたヴァルモ家の義兄たちによって、縁組が何度も検討された。


 エルデリア王国内では、表向き「第三王子は急な病でお隠れになった」と発表されているが、元々アランディルが育った国では通用しない。

 素性を見知っているからだ。


 ただ、アランディルについて声高に言うものはいなかった。

 誰も好き好んで面倒ごとに巻き込まれたくなどない。


 


 それでも、王籍を剥奪され、エルデリア王国を永久追放された庶子の元第三王子という風評は、年頃の娘を持つ親たちから蛇蝎のごとく嫌われた。


 敏腕商人が集う国では、正確な情報を掴むことに長けている。

 魔導具開発院だけでなく、婚約者候補の令嬢たちに対する彼の振る舞いも当然知られていた。


 


 このため、想像以上に縁組は困難を極めたが、

 「そこそこ見目がよく、金さえ運べばいい」という、ある商家の長女に婿入りすることとなった。


 


 「エルミージュじゃない……エルミージュは素晴らしく綺麗なんだ」


 と、婿入りまではかなり駄々をこねていたアランディルだったが、婚姻後の妻は、


 「あなたは素敵ね。美しいわ」


 と、常に甘い言葉をくれる。


 


 その言葉にアランディルは満たされ、縋り付いていた。


 妻は夫を上手く操るために、ありとあらゆる手練手管を駆使していると気付いていたが、そんな事はどうでも良かった。

 自分に心地良い言葉をくれる。その甘い夢にいつまでも浸っていたかった。


 


 人生で初めての拒絶として、エルミージュのことはアランディルの心から離れない。

 が、自分を認めなかった者など知るものか――と、次第に思うようになっていった。


 


 結局、エルデリアでの経験は、彼の糧にはならなかった。


 しばらくの間、鳴りを潜めていた傍若無人な言動は、

 婿入り先の商人や職人に対して次々と露呈していった。


 


 「こんな簡単なことすらできないのか!」

 「君がいるから今月も赤字だよ」


 挙げればきりがない。情けない話である。


 


 アランディルは、エルデリア王国とおなじで、自分の好き勝手に出来ると、また思い違いをしていた。

 行いの度が過ぎると、自分が離縁される側になるとは思ってもいない。


 ここには自分が必要だ。婚姻さえしてしまえば、簡単に離縁などありえないと、王族だった時に叩き込まれた考えが抜けてはいなかった。


 


 ここは自由な商人の国ノヴェラである。

 女性も強く生き生きとしている国。

 アランディルの婚姻は、王族と違い政略が絡んでいない。

 簡単に縁を切られてしまう。


 


 ある日、妻がいつもの甘い言葉を囁き、最後にやんわりと告げた。


 「ねぇ、あなた……もしも私がこの婚姻は失敗だったと思えば、離縁という選択肢があるのよ」


 


 にこやかに軽く言われた言葉だったが、その瞬間アランディルは冷水を頭から浴びせられたと感じ、一瞬固まった。


 


 ――この俺が離縁される側だと?


 


 ふざけるなと怒りたかった。

 俺は捨てる側であって捨てられる側ではないと……

 が、同時に自分の置かれている立場も理解してしまった。


 


 その後は、妻の目が光る場所では無口になり、周囲への暴言は少なくなった。


 アランディルは、他者からの、自分への肯定がなければ生きていけない。


 


 「魔導調理器が壊れたから、帰りに買ってきて」


 と、妻から連絡が入っても、


 「買って帰らないと機嫌悪くなるんだ。今日は早めに帰るね」


 と、周囲に言い、いそいそと従うようになった。


 


 自分を褒め称える言葉を受けるためなら、なんでも良かった。


 だが、いつか見てろよ!と虎視眈々と狙ってはいたが、生涯、妻に頭が上がることはなかった。

 無論、自分の世界を変えることも、出来なかった。


 自分で気付くことができ、受け入れる事が出来れば、すべてが大きく変わるのに……

 光はそばにあったのに。








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