番外編 傲慢の代償 〜アランディル〜
荘厳な玉座の間。
天井には天を、床には地上を現す絵画が施されている。
誰一人私語を交わさない、張り詰めた静寂の中。
国王エドリックの、低く冷ややかで無機質な声が響いた。
「アランディル・エル・クロワ。お前はもう王族ではない」
第三王子、庶子の身でありながら魔導具開発院・第二開発部長官の座に就いた。
多くの者の心を虐げ、蔑ろにし、己の欲求と自尊心を満たすためだけに行動してきた男。
騎士たちに両腕を押さえられ、床に膝をついたアランディルの顔からは、血の気が失せていた。
「魔導具第二開発部長官としての立場も、王族としての地位も、すべて剥奪とする。王族としての記録からも完全に抹消される。そなたの身柄は、生家のヴァルモ家が引き取りを申し出てきた。今日この時より、アランディル・ヴァルモに戻る」
「なっ!?」
アランディルは眼を大きく見開き、真っ赤な顔をして口を歪めた。
立ち上がろうとしたため、さらに力強く抑え込まれる。
「俺が、俺の何が悪い!? 俺は何もしていない!」
国王は視線を逸らすことなく、静かに告げた。
「そうだな……何もしていないな。“何もしなかった“事が最大の罪だ」
「は?」
「わからぬか? お前が己の手柄としていた事柄は、すべて他人の成果だ。部下の不始末も、すべて他人に尻拭いをさせた。王族としての責任も覚悟もなく。成果は他者から奪うことが当然と思っている」
アランディルは、きょとんとした。
「それの何が悪いのですか? 俺のために動くのが彼らの役目でしょう」
「言葉の暴力ということを、知っているか? お前は我が国の大切な技術者たちにどんな態度を取っていた? 彼らは皆、お前のために存在するわけではないぞ」
国王は、大きく溜息をつき、わずかに眼差しを伏せ、静かに続けた。
「周囲に迷惑をかけ続けたが、改心してくれることを、人の上に立つ者として、考えを改めてくれることを願って、黙して見ていたのだ。一度も叱責されなかったのは、許されていたわけではないのだよ」
「なら、まだ見守っていてくれればいいだろう! 俺は……」
アランディルが、まだ言い募ろうとしていた。
「まだ甘えるか!!」
国王の一喝が、玉座の間をビリビリと震わせた。
平素、温厚な顔しか見せない国王を、アランディルは舐めきっていた。愚か者である。
一国を統べる者は、温厚なだけでも、強権だけでも務まるはずがないのに。
「もうこれ以上、機会を与えることはできない。お前ひとりのために、どれだけ貴重で優秀な臣下を失ったと思う? それがどれだけの損失かわかるか? お前はそれが理解できないから、いま、この場にいるのだ」
アランディルは周囲を見回した。
どの廷臣も感情のない眼で自分を見ている。
だが、ほとんどの者は見てすらいない。
その場にいても、いない者として扱われている。
そのことに気づいたとき、いままで自負してきたものが、すべて崩れ去った。
アランディルはその場に力なくへたりこんだ。
「アランディル・ヴァルモ。エルデリア王国より永久追放を命ずる。残念だよ……」
その言葉に、近衛騎士たちが無言でアランディルを引き立てた。
「なんで俺が……エルミージュが手に入らなかったからか?」
と、ブツブツと繰り返していたが、彼は抵抗することなく、引きずられるように玉座の間をあとにした。
国民への周知は、第三王子は急な病によりお隠れになったとされた。
表向きは、優しく美形の第三王子様として通っていたため、国民はお可哀想にと悼んだ。




