第四章
焼け跡での暮らしは、思ったより早く日常を取り戻した。後に安元の大火と呼ばれた火災は、万を越す住居を焼き、畏れ多くも内裏すら灰燼に帰したものの、人々は驚くほどたくましく、数月が経つ頃には粗末な小屋が建ち並び、粥を炊く煙や子供の泣く声がそこかしこで立ち登り始めた。
貴族の大邸宅も広い庭や鑓水のお陰か、何割かは無事で、扇を広げた公卿たちがまたしても格式高い挨拶を交わす姿は、火事など夢幻であったかのようだ。
とある大邸宅では、貴族や僧侶を招いて数日間夜通しの酒宴が繰り広げられ、琵琶の音が絶えず聴こえたと聞く。遠く大陸の珍味や酒が惜しげもなく供され、美しい舞いや絢爛で勇壮な馬術の催しに、招かれた者は「この世の極楽か」と述べたそうだ。
もっとも、大火の再発や、繊細な雅風の失われつつある街を惓んで山奥深くに隠棲する者もあるようだ。俺もそのような暮らしに憧れはあるが、誇りで腹は膨れない。食って行くために仕方なく元の仕事を再開したのだった。
新たな藁葺き小屋に机を据え、例年になく乾燥し暑い気温にウンザリしながらも、地方からの「税」──実数はさらに減っているはずのそれを──額面通りに記す。今年に入ってから、直轄領でも税収が僅かながら減っているようだ。大方、地方役人共の懐に消えているのだろう。少し脅せば、このぐらい直ぐに回収出来る量であった。また、遠く東で反乱が起こっているようであり、流石にそれは帳簿から除外し、帳簿の該当する箇所に黒く墨を引いて潰した。国の版図は広大であり、せいぜいごく僅かな染みを一時帳簿に残す程度のものであろう。
軍人たちの様子は、以前より荒っぽくなってきたようだ。もしかしたら反乱の鎮圧に手間取ってでもいるのかも知れない。田舎者特有の手際の悪さ故であろう。あるいは褒賞を吊り上げるための浅知恵かも知れぬ。上級貴族たちの様子は普段通り余裕たっぷりであるし、以前より豪奢な雰囲気すら感じさせるから、いずれ鎮圧されることは間違いない。反乱が起こることはたまにあるし、今回の騒乱もこれ以上は俺の仕事に関わりがあるとは思えなかった。
地方からの税は減り続け、反乱は遠くで燻るが、それでも腹は減るし世の中は回るのだ。何百年と続くこの世の中が、そう変わるはずないのだった。
国原は煙立ち立つ 海原はかまめ立ち立つ うまし国そ 蜻蛉島 大和の国は




