母船の雄叫び
控え室に入り、母船はベットに横たわる。
すると、1人の操縦士補佐官が到着した。
操縦士が開発研究所所員Cの許可を得てから、通信機でマーズから呼んだのだ。
操縦士補佐官は、開発研究所所員Cから操縦士の状況を簡易的に説明を聞くためか、母船のベットから若干聞こえない距離で話し込む。
数分後、母船から圧力要望のマークが表示されたので、
操縦士は圧力をかけ始める。
小太鼓の様な振動に合わせて、操縦士は母船の圧力を調整する。まるで腹式呼吸をするように操作するようだ。
〈スゥ・・・プシューーー、スゥ・・・プシューーー〉
「圧力の掛け方上手いですね。
これからそれが一番重要になってきますからね。」
「そうですか?ありがとうございます。
このまま続けます、はい。」
作業しながら開発研究所所員と話をする。
暫くして、5分間隔の振動が3分間隔になる。
間隔が短くなり、小太鼓が次第に大太鼓並になってくる。
操縦士は圧力操作のレバーを上下に振る。
操縦士補佐官は、操縦士に麦茶の用意や母船の状態を様子見する。
母船の表面がまた冷え出したので、
首辺りに温かい蒸気を充てる。
暖かい蒸気の機械は、開発研究所員Cが手元の携帯画面を操作する。壁の一部をルービックキューブの様に操り、母船の首近辺に設置した。
「頑張れー。」
と、操縦士補佐官に声を掛けてもらったが、
言葉を返答する余裕が無くなり、圧力操作の手元が狂いそうになってしまう。
そこで、片手をタイミングよく一瞬だけ外し、お口チャックのジェスチャーや唇に人差し指を立てたジェスチャーなどで『静かに!』と表現した。
操縦士補佐官に無事伝わったようで、暫くは静かにしてもらった。
応援してくれるのは大変ありがたいが、
手元を集中しないといけない。
申し訳ない。
後で操縦士補佐官にはご褒美を与えよう、
操縦士はそう誓った。
母船は、圧力と振動の負荷で、段々と配管から音が出るようになる。
〈アー------------------〉
母船の雄叫びだ。
音階としては"ド"の音。
音を出して振動を紛らわせる。
母船内の設備が少しずつ歪む。
設備スタッフも緊張な面持ちで、震源地であるベビーホーガンのいる部屋の周囲をパトロールする。
操縦士は麦茶を時折飲みながら、
手も休むことなく腹式呼吸のように圧力を掛け続ける。
- 2時間後
〈ハッハッアー--------------〉
音階の音が少し上がる。"ファ"の音を鳴らす。
ただ言葉を発するくらいの程度だった音量も、叫び声の音量なってきた。
開発研究所所員Cが定期計測に入る。
すると、そのタイミングで設備スタッフから連絡が入る。
「ベビーホーガンが後少しで破水しそうです!」
開発研究所所員Cが話す。
「丁度いいわね。
では、深く圧力をかけてー。
そうそう、もう一度深く。」
〈スゥ・・・プシューーーーーーーーーーーーーーー、
スゥ・・・プシューーーーーーーーーーーーーーー〉
「おーその調子、その調子。」
〈スゥ・・・プシューーーーーーーーーーーーーーー、
スゥ・・・プシューーーーーーーーーーーーーツーッ〉
卵カプセルに小さな穴が空く。
音は無音だが、その隙間からベビーホーガンを保護していた液体が、至急発射GATEの先へ全て抜けた。
「ベビーホーガンの破水、成功したで!」
その瞬間、設備スタッフが声を出しながら歓喜した。
「無事、破水できたわ。良かったわね。
後は至急発射GATEが最大まで開けば砲座室に行けるわ。
部屋を準備してくるわね。」
開発研究所所員Cは定期測定を終えた後、部屋を退出した。