空振り
20:15 アースに到着した。
ピーンポーン。
アースにある開発研究所の夜間用出入り口のインターホンを押す。
「母船番号6060。キーはスピカです。」
「お待ちしてました。中へどうぞ。」
「では、5分間隔で振動検知器が反応しているということですので、控え室に案内しますね。」
所員に建物内へ導かれた。
玄関から受付窓口を通り過ぎて、エレベーターで二階に向かう。
控え室に到着する。
全体の色は淡いピンク。
殺風景であるが、必要な機材やらベットに囲まれた空間だった。
「この部屋のベッドに寝てください。」
母船は人型モードになり、ベットに横たわる。
「これから、定期的に震度・体温・圧値の3点を20分計ります。」
「分かりました。ちなみに、ここで振動の反応がない場合もありますか?」
「稀ですが、あります。NSTBGで母体のエンジンに反応がなければ、まだ出陣するタイミングの振動ではないと断定されますね。」
「今の所、偽物の振動だと何回も判定されているので、今回そうならないことを祈りたいですね。」
そう。
アースにすぐ向かわなかったのには訳がある。
実は、1ヶ月前から母船内では振動が検知されているが、2週間前にNSTBGを計測した時、母船で感知していたのは、偽物の振動だと発覚したからだ。
NSTBGで感知されない振動は、通称:偽物の振動と呼ばれている。
その偽物の振動は、1時間、10分から5分と次第に振動の間隔が不規則に縮まる。
そしてある一定の時間で感知しなくなる時間帯があるのだ。
この母船の場合は、
夕方から夜にかけては活発に振動があるが、朝になると振動が感知しなくなるので、慎重になっていたのだ。
NSTBG計測して20分後、
「残念ながら、まだ偽物の振動だと判断されました。」
「まさか、計測中に5分間隔の振動が消えるなんて!」
計測中に一度も振動が計れなかった。
計測前は5分間隔があったが、朝を迎えて落ち着いてしまった。
母船の操縦士は落ち込み、息を呑む。
「この後どうしますか?このままだと...。」
開発研究所所員Bが思わず首を傾げる。
一旦、奥の部屋に向かい、1分程してまた戻ってきた。
「選択肢は3つあります。」
開発研究所所員Bは、腕を組んで右手の指を一本立てながら話す。
「一つ目は、この後すぐに人工的な振動を起こさせる。」
右手の指を二本立てる。
「二つ目は、一旦マーズに帰宅し、再度5分間隔の振動があったらまた来て頂くか。」
右手の指を三本立てる。
「三つ目は、このまま施設に留まって、一か八か自然に強い振動を待ってみるか。もし今夜から朝方までに5分間隔の振動が来なければ、強制的に人工的な振動を起こさせます。」
「せっかくここまできたのに。施設内に入ったのだから、また、マーズに戻るのも勿体無いような。少し考えさせてください。」
操縦士は、設備スタッフに相談することにした。
ー 1時間後。
ベットに備え付けられたインターホンで開発研究所所員を呼び、
「三つ目の一か八か、今晩だけ自然に振動が一定になるのを待ちます。」
こうして、スタッフ達は自然に完成するのを待つことにした。
「分かりました。では、別の部屋で待機してもらいます。ご案内しますね。」
「この部屋で今晩過ごしてください。ベビーホーガンが完成した後も、母船が暫く休む場所ですよ。
この施設にご滞在中は、この部屋を使用して頂きます。母船で振動が検知されましたら、この呼び出しボタンでお呼び下さい。」
「分かりました。」
操縦士は、ベッドの頭上に合った黄色いボタンスイッチを確認した。
こうして母船と母船の設備スタッフ達は、振動が再度検知するまで、ゆっくりと過ごすことにした。