初出陣
操縦桿の左右のレバーを息を吐きながら押して、全力で踏ん張りながら引く。
〈スゥ・・・スゥ・・・ァアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー〉
最後にレバーを引く強さは、今まで以上に気合いを入れた。
その甲斐があってか、ベビーホーガンは勢いよく大砲から飛び出す。
ベルトに付いた黒い管はゴムの様に伸びる。
伸び切ったところで、開発研究副委員長がスイッチを押す。
「黒の配管切りますね。」
(ガッチャン!)
大砲の入り口に沿って備えてあった六枚刃が起動する。
黒い配管は伸縮自在で、柔らかい性質であった。
ベルトから母体の天井に向かって繋がっていた黒の配管は、真っ二つに分断された。
切り方が上手い。
至急発射GATEが遮断された。
完成した後、いつの間にか現れた開発研究委員長は、母船の配管から漏洩したオイルや亀裂の入った鉄板の接合を始めた。
母船に付いていた黒の配管は、バネの様にベビーホーガンの部屋に吸い込まれていく。
ベビーホーガンに付いてた黒い配管の先端は、
ベルトに吸収され、白ブチの枠の黒いエンブレムに変化。
先端以外の黒の配管は、1㎝単位で輪切りに分断。
ベビーホーガンは人型に変化。
眉間の皺が寄り、眉が赤く染まる。
ベビーホーガンの周りに、黒い輪が円形の水滴の波を描くように配置される。
大量の黒い輪から電子力が生成される。
操縦士が母船に込めた圧力が電圧にエネルギー転換されているのだ。
初出陣だ。
早速、技を繰り出そう。
その名も『啼球』。
108回の鳴き声が地球に向けて放たれた。
泣き声はまるで長夜の鐘。
108という数は、煩悩の数とも言われており、
寺では悪魔を追い出す効果があるという。
鳴き声に対抗する者をロックオンした。
アースには、定期的に我が国を陥れるロボットが現れる。
一つ目は、真正面から攻撃してくるロボット。
攻撃方法は様々で、傷やダメージを負わせる。
二つ目は、違法や不法を駆使して侵入するロボット。内側から乗っ取り、文化を崩壊させる。
三つ目は、検索ロボットに内臓されるAIが乗っ取られ、自立的に攻撃対象を選んで殺戮するロボット。
ターゲットの人間を無作為に攻撃する。
我が国にとって、これは全て犯罪である。
二つ目はとても厄介で、他のロボットに変な入れ知恵を与えて自爆させる誘惑の技を持っている。
その魅惑でロボットが無作為に攻撃する個体になってしまった場合、その後の修復が不可能。
修復に割り当てる時間の合間に次々と感染が広まってしまうからだ。
見た目の格好だけでは見分けがつかなくなる。
このロボット達を撃退するために開発されたのがこのベビーホーガンだ。
電気の球が花火のように放たれた。
電気の球がロックオンされたロボットに触れ、
壊れて黒屑となって散った。
1月1日のAM0:00に誕生するとは、なんと縁起の良い。
撃退した数は約10万体だろうか。
一億体のロボットに対し、結構な数である。
この撃退方法は、対象以外は何のダメージも受けないのが凄い所。
アースに住む人々は、
ベビーホーガンの鳴き声と花火を新年の祝いのつまみとして楽しく過ごす。
「今年も撃退ありがとうよ!」
「生まれてきてくれてありがとう。」
「最高のパフォーマンスだ!」
「おめでとうございます。」
「盛大な宴だー!」
ベビーホーガンは、人々から拍手喝采を受けた。
ベビーホーガンは初仕事を終えると、人型の母船の腕に抱かれに戻る。
このベビーホーガンは、新たな伝説を作った。
そして、これからも活躍するのであった。
〈おわり〉