七変化
母船の雄叫びが発動する度に、母船の人型モードの腹部辺りに、およそ4G程の負荷がかかる。
コックピット内も2Gの負荷がかかるが、何とか圧力のレバーは動かせている。
母船も操縦士も顔が黄色っぽくなってきたところで、
次の部屋を準備しに行った開発研究所所員Cが帰ってきた。
「それでは今後の予定をお話ししますね。」
今後の予定を計画するには、様々な状況を見極めなければならない。
ベビーホーガンを開発する際に使用した、素材の影響。
引き継いだ素材による性質に異常が発生しやすい部品があるかどうか。
ベビーホーガンの開発時に、外界に触れている母船が、感染・怪我・劣化などによる異常が起きていないか。
ベビーホーガンの開発時に、母船の外界の影響でベビーホーガンに異常が起きてないか。
母船の感染・怪我・劣化による異常が起きてしまった場合、ベビーホーガンも黒い配管から栄養を貰っているので、悪影響がないかも見極める必要がある。
この3つは、1週間前に様々な検査で『異常なし』と診断を受けており、予定日には影響なさそうだ。
他には、母船に体力があるか否か。
普段蓄えているエンジンを圧力に変換するため、必然的にエネルギーが必要となる。
ベビーホーガンが活発に活動しているのか否か。
ベビーホーガン自身の意思やタイミングの問題もある。
この2つは、完成するまでに読めない。
特にベビーホーガンの活動するか否かは、
後半になるにつれて個体差が現れる箇所があるので、
それに合わせた母船とベビーホーガンの微調整もある。
その微調整でも油断しすぎると、ベビーホーガンが機能停止にする恐れがある。
この繊細な開発作業は、完了するまで油断できない。
その差は、予定日より3週間前から予定日後の1週間後程度。
予定通りに完成する機体は、意外とあまりないのだそうだ。
今の所、このベビーホーガンは予定通りに進んでいる。そして、母船の体力を考えると...。
開発研究員達は、NSTGBの振動の間隔が定期的に来てること、後は至急発射GATEが開くなどの条件を確認しながら、平均的な計算を割り出し、答えた。
「この様子だと、本日の日没までには完成すると思います。」
「分かりました。」
操縦士はジェスチャーで頭を上下に頷いた後、操縦士補佐官が応答して頷く。
「至急発射GATEを最大に開くためにも、様々な形で促してみましょう。」
操縦士が頭を上下に頷く。
こうしてまた気合を入れ直し、操縦士は作業に集中する。
「猫モードになって圧力を掛けて見ましょう。」
(アーーーーーーーーー)
母船の雄叫びが鳴り響く。
操縦士補佐官が、猫モードのボタンを押す。
(ガキンッガキンッ)
金属音が鳴り響く。
母船の外にいる設備スタッフが、音と目視で確認しながら、操縦士と操縦士補佐官のいるコックピットに向けて話す。
「ベビーホーガンの降下、始まりました!」
ベビーホーガンも、圧力に合わせて徐々に至急発射GATEに向けて降下していく。
大体1回の圧力につき、1㎝程度だろうか。
裏で母船の管理をしている設備スタッフが、猫モードに異常が無いか、楽しげに解説しながら点検を行う。
「さぁ、やって参りました!変形のお時間です。」
と独自の気合いを入れ、指差し確認をし始める。
「猫耳装着ヨシ!猫足変形ヨシ!猫の尻尾装備ヨシ!
背骨の動き正常ヨシ!圧力状態ヨシ!
猫モード異常なし!」
母船が、猫の耳・足・尻尾をつける。
四つんばいになり、手は肩幅に開き、肩の真下に手のひらをつく。
脚は腰幅に開き、猫の足に変化し、つま先を寝かせる。
息を吸って、吐きながら尻尾、腰、胸、首の順に背骨を丸める。
背骨が丸まったところで、吸いながら尻尾、腰、胸、首の順に背骨を反らせる。
反りきったら、また呼吸に合わせて丸めて、反らせて大太鼓の様な振動が止むまで続けるまでが猫モードだ。
振動はずっとではない。
定期的に3分間隔で休みがある。
その都度開発研究所所員Cに、
「タイミングを見計らって、人型になり、ベッドで横になりましょう。」
と言われる。
設備スタッフは指差し確認をする。
「猫耳解除ヨシ!人足変形ヨシ!猫の尻尾解除ヨシ!
背骨の動き正常ヨシ!圧力状態ヨシ!
人型モード異常なし!」
これを3セット行う。
(プシュー、アーーーーーーーー)
このセットを終えると、また母船の表面冷え出した。人型モードの状態でベット横に備え付けられた熱風の蒸気をガンダムの足と首に充てる。
「ベットから降りれますか?降りたらバイクモードになりましょう。」
操縦士は上下に頷き、操縦士補佐官がバイクモードのスイッチを押す。
バイクの形になり、ハンドルを上下に動かしてエンジンを蒸してみる。
が、設備スタッフからバイクモードの目視確認の点呼が来ない。
開発研究所所員Cがバイクのマフラー部分を見て分析する。
「うーん、エネルギーが無くなってきたわね。
エネルギーチャージが必要だわ。
操縦士補佐官さん、
そこの自販機から電気缶を買ってきてくれるかしら。」
「分かりました。」
操縦士補佐官は、自販機で電気缶を買い、母船の人型モードの口から電気缶を補充した。
「人型解除ヨシ!バイクの変形ヨシ!電装ヨシ!
エンジンヨシ!ハンドルヨシ!マフラーヨシ!
タイヤヨシ!ミラー角度ヨシ!圧力状態ヨシ!
バイクモード異常なし!」
電装のヘッドライトが光り、エンジンが正常に掛かる。
無事に補充されたそうだ。
まだ変形は続く。
「この低めの椅子に座れるように、カエルモードをお願いしますね。」
低めの補助椅子は、開発研究所員Cが手元の携帯画面を操作で壁の一部をルービックキューブの様に操り、母船のベッド横に椅子が設置されていた。
操縦士補佐官がカエルモードのスイッチを押す。
設備スタッフの指差し確認が続く。
「バイク型解除ヨシ!カエルの変形ヨシ!背骨の動きヨシ!圧力状態ヨシ!カエルモード異常なし!」
カエルモードになった瞬間、母船の圧力が腹部にさらに掛かる。
「馬モードになりましょう。」
操縦士補佐官が馬モードのスイッチを押す。
設備スタッフの指差し確認。
「カエル型解除ヨシ!馬の耳装着ヨシ!馬の足ヨシ!馬の尻尾装着ヨシ!圧力状態ヨシ!
馬モード異常なし!」
後は至急発射GATEが開くだけ。
操縦士にとって、後もう少しだと思っていたが、
まさかこんなに変形するとは予想外であった。