デキる彼氏はピュアな天然くんをメロメロに溺愛しています
仕事を定時で終わらせて帰宅して、ご飯食べてお風呂に入ると、後は寝る時間までゆっくり過ごす。
いつもはTVを見たり本を読んだりするけど、今日は重要なミッションがあった。
ソファーの背に寄りかかりながら、スマホの画面をじーっとにらむ。
「将、まだ帰ってきてないのかな?」
僕が夕方に送ったメールも、まだ既読がつかない。将は忙しいから、そういうこともよくあるけど、ちょっと心配だ。
将っていうのは、一つ年上の、僕の恋人。
仕事の関係で地方に住んでて、もう三年くらい遠距離恋愛をしている。
のんびりしてる僕と違って、将はテキパキしてて、何でもそつなくこなせるし、しっかり者で頭も良い。
有名企業に新卒で入るくらい優秀なエリートで、イケメンでカッコいいし、僕の自慢の彼氏なんだ。
でも将は忙しいから、今は月に一度しかデートできない。けど、僕は将が大好きだから、それも我慢できる。
会えない時間が長いから、メールだけは毎日送ろうって思っていて、今日も送ったんだけど……。
「ボイスメッセージかぁ」
僕と将が使っているSNSのアプリは、文章やスタンプだけでなく、声まで送れるらしい。
将にリクエストされて、初めてそんな機能があることに気づいた。
「五十鈴の声、聞きたいからさ。ボイスメッセージ、送ってくれないか?」
そう頼まれて「いいよ!」と気軽に請け合ったものの、ちょっと後悔していた。
いざメッセージを吹きこもうとすると、何を話せば良いか分からないからだ。
「え、えっと~」
使うのも初めてなので、操作もモタモタしてしまう。
「この、マイクのボタンを押しながら、しゃべる……」
ピッとマイクを押すと、カウントが始まる。
急に始まって、焦った。
「あ、えっと!」
動揺した拍子にマイクから指が離れて、それが自動で送信されてしまう。
「あっ!! 送られちゃった!」
まさかこんな簡単に送信されるとは思わず、びっくりして画面を眺めた。音声の長さが「00:03」と表示されていて、間違って送ったのが丸わかりだ。
あわてて、「間違っちゃった」と顔文字付きでメッセージを送る。
「これ、ずっと押しとかないといけないんだ~」
よくよく見れば「押したまま」と書いてある。
「押しながら、しゃべる……」
間違えないように口に出しながら、もう一度、マイクボタンを指で押した。
「こ、これでいいかな? んーと、あ、将? 五十鈴です。えっと……何しゃべるんだっけ?」
始めたのはいいが、話す内容がまとまってない。
画面の数字がカウントアップされていくのを見て、焦ってきた。
「しょ、将は、……もう、ご飯食べた? あ、まだか。僕は食べたよ!」
しゃべっても、相手の返事がないので、どう続けて良いか分からなくなる。
「えっと、えっと……ちゃんと、休んでね? またメールするからっ」
耐えきれず、そこで指を離してしまった。
ポンッとすぐに音声が送られる。
だけど、三十秒にも満たない、短い音声だ。
「これで良かったかなぁ?」
動揺してうまくしゃべれなかったけど、初めてだから許してほしい。
スマホの画面を閉じて、リビングテーブルにおく。
とりあえず、ミッションをクリアしたので、緊張がとけてホッとした。
「クロシェット」
ソファーに座っている、お座りクロシェットのぬいぐるみを腕に抱いた。
つぶらな瞳で、ニコニコしながら見つめてくる。
「あ、クロシェットも、将とおしゃべりしたかった?」
頭を撫でると、リンリンと鈴が鳴る。
今度は、クロシェットの鈴も聞いてもらおうかな。
一人だと緊張するけど、クロシェットが一緒なら大丈夫かも。
そう思ったら、少し気が楽になった。
+ + +
五十鈴とは毎日メールをしているが、仕事中は忙しくてなかなかチェックできない。
今日も残業だったので、スマホをろくに確認しないまま遅い帰宅をした。
くたくたに疲れていたので、とりあえず冷凍庫からアイスを取って食べる。
アイスの甘さで、少し元気が出てきた。
ソファーに座ってスマホを開くと、五十鈴からメッセージが届いていた。
「ん?」
SNSのアプリを開くと、見慣れない記号が目に入る。が、すぐにボイスメッセージだと気づいた。
「五十鈴、送ってくれたのか!」
嬉しくなって、マジマジと眺めた。
チャット画面をよく見ると、ボイスメッセージは二回届いていた。
最初のは三秒だし、「間違えた」と書いてあるので、操作を間違ったのだろう。
五十鈴はデジタル機器の操作があまり得意ではない。
それでも、俺の為に送ってくれたのだ。
五十鈴の気持ちが嬉しくて、顔がにやけてしまう。
ウキウキしながら、さっそくボイスメッセージを再生した。
『こ、これでいいかな? んーと、あ、将? 五十鈴です。えっと……何しゃべるんだっけ?』
五十鈴の可愛い声と、アタフタした様子が可愛らしく、その様子が目に浮かぶようだ。
音声は短いが、懸命にしゃべってるのが分かる。
「はぁ……マジで可愛いな」
何度か再生して、五十鈴の声を堪能する。
音声が短いので、すぐ終わってしまうのが惜しい。
でも、頑張ってくれたのだと思うと、すごく嬉しかった。
俺も、お返しに五十鈴へボイスメッセージを吹き込む。
「五十鈴、ただいま。メッセージありがとな。すっげぇ嬉しかった。五十鈴の声を聞くと、頑張れるよ。いつもありがとう……おやすみ」
もっと長く話そうと思ったが、言葉が思いつかなくて、そこで終わってしまった。
「俺も、五十鈴のことは言えないな……」
苦笑して、スマホを置いた。
疲れのせいで頭が回らないのもあるが、最初だし、これくらいで良いだろう。
ボイスメッセージを送り合うのは初めてだが、短くても、五十鈴の声を聞けるのはすごく良い。
もっと早くお願いすれば良かったな。
あの、半年会えなかった期間に、これを思いつかなかった自分が情けない。
だけど、これからは、五十鈴の声をたくさん聞けるようになるはずだ。
それを楽しみにして、五十鈴にお休みスタンプを送った。
(終)
お読みいただき、ありがとうございます!
少しでも面白い!と感じていただけましたら、
評価・ブックマーク・レビューを、よろしくお願いいたします(*^^*)
お話を書くモチベーションが爆上がりしますヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪
評価は、このページの下側にある【★★★★★】から、えらべます!!
ブックマークは、下側の【ブックマークに追加】より、追加することができます!