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リーシャ・フォン・ロッソーの憂鬱

 「プロペラの複葉機かぁ……」


 響いたプロペラ機の音に、思わず窓から空を眺めた。どうやら口に出ていたらしい。隣から、低いが柔らかな声が親切に答えてくれる。


「我が国で開発された戦闘機ですよ」


 フェリクスの声に思い出す。そう、この国は武器とか乗り物とかの開発が、得意だった。良い技術者達がいるのだろう。


「そうですね。でも以前提供した私の装備品諸々のせいで、あっという間にジェット戦闘機が主流になっちゃうかも?」


「ジェット戦闘機が?」


 ジェット機自体が開発されているのは知ってはいるけど、実用化に問題も多いから、今はプロペラ機が主流だ。


「超音速で飛び、攻撃も制圧も偵察も出来ますよ。うるさいけど、多量の人や物を運ぶことが出来ますしね。無人で飛ばせるようになるまでは、結構時間がかかると思いますけど」


「……技術発展は凄まじいですね」


 私の話に、フェリクスは複雑な顔で、溜息をついて言った。


「ええ、本当に。それでも戦争は無くならず、技術開発の最先端は軍事から運用されていくんです。哀しいことに……」


 愚かな人間達は、未来でそれを環境を改善し地球存続の為に使うのではなく、環境破壊で減少した資源や住みやすい土地を巡っての争いの為に使っている。

 地球から人類が淘汰される未来は、この後どんな道を選択しようとも、大きく変わることはないのだろう。500年先か1,000年先かはわからないが……

 私は、その時期を早めるために、地球の意志でこの時代に飛ばされたのだろうか?

 なんて、ネガティブな思考に沈みかけたところで、頭に大きな手が乗せられた。フェリクスが軽くポンポンと宥めるようにたたく。

 苦笑して顔を上げた私に、最近私の義兄となったジェイラード中佐が、本来の話を始めるべく咳払いをした。


「さて、試弾だが」


 私がこの時代に渡ってすぐ、証拠として未来の装備品の提出と共に、私の銃のための弾丸の開発を頼んでいた。

 それが完成したということだったので、その性能を試すために試射を行うことになったのだ。


「空軍飛行場の滑走路は何mですか?」


「約2,500」


 フェリクスが答えた数字に暫し悩む。


「う~ん……テストには短いなあ」


 ぼやいた私に、ジェイラード中佐が尋ねた。


「テストだとどのくらい必要なんだ?」


「4,000は欲しいですけど。滑走路じゃなくてもいいですよ?平原でも。安全は確保したいですけど」


 と、ジェイラードに要望を伝えてみる。


「……お前のその銃、本来の弾丸でのテストでは、射程距離と命中率はどうなんだ?」


 そうか、もとの性能をちゃんと彼らに説明していなかった。私は思い出して、2人に話し出す。


「そうですね……提供した弾丸を使っての最大射程は5,000。私の銃は、重さが10kg弱の長距離狙撃銃にしては軽い方なんです。

 特殊な条件などが無いテストで、3cmの的に80%の命中率が出せるのは4,300。それでも着弾まで10秒以上はかかります。

 実戦では、3,500位が限界ですね。1,000位までなら何も考えなくても当たるんですけど。テストで1cmの的に100%当てられる距離なら、実戦でもミスしないかな?」


「常識があてはまらない」


 フェリクスが唸るように呟いた。私はあまり気にせず続ける。


「まあ、近い数字が出れば良いですよ。貴重な弾丸3発も提供したんだから、良いものを造ってくれていると期待します」


「まあ、弾丸だけだからな。銃を造れといったわけじゃないし。ただ弾丸造りながら、どうやら銃の方もいろいろ改良やら開発やらは始めているらしいが」


 ジェイラードが、持っていたペンを回しながら言った。彼が、考え込むときのクセだ。


「そうなんですか? でもうちの陸軍で配備されているライフル、結構性能いいですよね? 1,000mなら外さなそう」


「それもおかしいからな?」


 横目でジトリと視線を寄越して、フェリクスが言う。


「まあ、一応これでも国一番のスナイパーだったんで」


 未来での平均ではありませんでしたよ?スナイパー全員がこのレベルじゃありません。


「テストの候補は、ここの陸軍演習場か?空軍基地も悪くはないが、交渉次第だな。技術開発部と銃器製造関係者、うちの親父とお偉方が数人来るそうだ」


 そう言って、ジェイラードが持っていたペンで書類を叩いた。


「了解です。一応光学スコープ使って撃ちましょうかね」


「ああ、普通の人間の視力に近付けておいてくれ」


「了解です」


「あとテストなんで、的の近くと撃つ場所に吹き流しを用意して下さい」


「吹き流し?」


 私のお願いの意図が伝わらなかったようなので、噛み砕いて説明する。


「筒状の布を旗のように設置するんです。目標の近くと発射地点に、2箇所立てて下さい。長距離狙撃なので、風が大事なんです。1,000m越えてくると、射手からターゲットまでの風を始め、弾丸の形状と重量、気圧、高度、湿度 温度 スピンドリフト、地球の自転によるコリオリ効果など、まあ、いろいろと計算してるんです」


「……ちょっと理解できないな」


 ジェイラードが眉間に皺を寄せて答えた台詞に、私は、常々思っていたことを口に出した。


「軍でもスナイパーの養成考えたほうが良いですよ?少数で敵に与えるダメージ大きいですから。結構今の銃の性能がいいから、もったいないです」


「どの程度なら可能になるんだ?」


 ジェイラードに真顔で問われる。


「この時代の技術なら……そうですね。射手と計算が出来るスポッターと2人一組で、2,000〜2,500位なら行けそうな気も? センスと訓練次第かな?」


「戦略的には有効だな。親父と相談してみるか。今の話、書類にまとめておいてくれ。試弾の場所と日時は追って連絡する」


 再びペンを回し始めたジェイラードに、了解と答えて、私とフェリクスは席を立った。


「そうだ、リーシャ。今週末に、母がお前に話があるから時間を取って欲しいらしい。予定を確認しとけと言われたんだが……」


 私はフェリクスを見上げて、視線で尋ねる。彼は苦笑して頷いた。


「大丈夫ですよ。お伺いしますとお伝え下さい」


 義兄にそう答えると、私達は彼の部屋を後にした。






 例の話し合いから2ヶ月後、私は射撃大会の会場にいた。

 試弾も無事に終わって、もとの弾丸と遜色ない出来の物が支給され喜んでいたら、今度は、国軍内の狙撃者を集めて射撃大会をやるから、審査員で出席しろと要請が来た。

 よくわからないまま会場にやってきたら、スナイパー養成校を陸軍内に新設するから、講師をやれと言われて、今に至る。


「……なんでこんなことになったのでしょう?」


「自業自得ってやつじゃないですか?」


 答えたのは、ジェイラードの副官のラファエル少尉だ。数ヶ月前から、私のチェス仲間でもある。


「ええっ?私のせい?」


「他にいないでしょう?」


 ラファエルのヘーゼルの瞳が、何言ってるんだお前?と言っている。

 ジェイラードも私を見下ろして、当たり前のように続けた。


「出来過ぎた提案をしたお前が悪い。お前の銃をもとに新型の対物狙撃銃の開発も進んだし光学照準器も性能が良くなったらしいから、効率よく運用するためにスナイパーを育てることにしたんだろ? ま、責任取ってしばらくは付き合え。そのうち自立させるから」


「あの書類、説得力ありましたからね。いろいろタイミングが良かったこともあるし、試弾のときの見学者も皆さん乗り気でしたし……実際、素晴らしかったですから」


 フェリクスが慰めるように褒めてくれたけど、嬉しくない。


「上司達を気遣っての提案が、首を絞めた……」


「国中から精鋭集めるには良いだろ? 精々有望な人材を発掘してくれ。それが一番手っ取り早くて楽なはずだ」


「う〜了解です」


 ジェイラードの言う通りである。優秀な者達をさっさと育てて、手を引こう。養成期間は半年程。上手く行けば1年ちょっとで手を引けるかな?と期待してみる。


 そうして私は、10名の生徒の入校が決まったスナイパー養成校の教官になったのだった。

 階級は、多分前職も考慮してくれて、中尉を拝命した。一応試験も受けたけど。

 私の上司兼養成校の責任者は、当然フェリクス少佐殿だが、他の業務も抱えていたため兼務となった。申し訳ないので、せめて迷惑をかけないように力を尽くそうと思う。


 ごめん、フェリクス。

 そう思いながら彼を見ると、彼は仕方なさそうに笑って、


「気にしなくて良いよ」


 と言ってくれた。相変わらず私は、彼に甘やかされているらしい。





 そしてやってきた入校式。

 揃ったのは上等兵から軍曹まで、年齢も20歳から28歳までと、まあバラエティーに富んだ面々だった。


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