リーシャ・クラウベル
殺伐とした冒頭ですが、異世界恋愛モノです!
本日中に4話完結まで更新予定。
軍隊組織は素人なので設定甘いです。第一次世界大戦位の世界観です。
私がここにやってきたことに、一体なんの意味があるんだろう?
なんのためにこの地に呼ばれたのだろう?
誰か答えをくれたらいいのに……
何も無いと言うなら
私はただ戦う為だけの人形でしかない存在だ
「砦の東側の街道とアデルの街が、敵の部隊に落ちた。補給路の確保のためになんとしても取り返したいところだが……いい案はあるか?リーシャ」
砦は、現在この国の最前線の1つだ。戦況は激しく変化し続けているが、この砦に駐留してから約半年。かなりの猛攻を受けながらも、地理的有利も手伝って、なんとか守り抜いている。
だが、東のアデルが敵に落ちたとなれば、物資の補給が厳しくなり、かなり厳しい状況に置かれるだろう。
当然、取り返したいところだ。
私は現在の上司であるこの基地の司令官、ジェイラード中佐に尋ねた。
「敵部隊の構成は?」
「1大隊ってところだな。戦車部隊もいる。15両ほどだ」
「結構ですね、ここの1/4の規模か。でもまあ当然ですね。中佐、こっちはどのくらい動かせるんです? 取り返した後にアデルに駐留させる部隊も必要ですよね」
「取り返せるのは前提か……お前が出るのか? うちの国から今、後続隊が向かっているからな。駐留部隊も含めて、この砦からは、半数は出せる。」
「そうですか。では戦闘には、歩兵中隊を2つお借りします。駐留に戦車部隊を入れて下さい。残りの編成は中佐にお任せします。」
「歩兵だけ? 約半数の兵士と戦車部隊の兵力差を、お前が埋めるか……」
ジェイラード・フォン・ロッソー中佐が私をじっと探るように見る。真っ直ぐな銀色の髪をオールバックにして、冷たく整った顔立ちを際立たせている、だが人に威圧を与えるのは、長身と薄い蒼色の瞳から発する鋭い眼差しだ。年齢は、31歳と言ったか?その階級にしては若いが、この砦に駐留する旅団をまとめている優秀な指揮官だ。
「この時代の戦車の装甲は紙みたいな物ですから、私の銃で無力化出来ます。飛行機も同様ですね。市街戦ですし、私は夜襲もかけれられますしね……歩兵部隊の1つはフェリクス大尉のところでいいですか?」
「まあ、無難だな。だが、お前は随分とフェリクスを信頼しているんだな?」
「それは、中佐もでしょう? それに、慣れているからやりやすいんですよ。私を拾ってくれたのも、彼ですしね。気を遣わなくていいですから」
「お前は誰にも気を遣っちゃいないだろう?」
「これでも、中佐殿には敬意を表しているつもりですけどね? 敵の部隊の体制が整う前に、なんとかしたいですね。私が出るのは、今晩でいいですか?本隊は明朝までに追いついて来られそうです?」
「昼には偵察が戻って来る。その結果次第だが、後続隊の位置を考えるとそれでいけそうだ」
「了解。じゃあ偵察が戻った頃にまた」
中佐にそう言って、私はこの砦の司令室を出ると、自分に充てがわられている部屋に戻る。ちゃんとシャワー室も付いている個室だ。この国の将校でもないのに、破格の対応なのには、理由がある。
私が、この時代からはおそらく200年以上先のパラレルワールドから紛れ込んだ、タイムトリッパー?タイムトラベラー?だからだ。専門家では無いので、どう表現したらいいのかわからないが。
この時代に飛ばされたのは、およそ3ヶ月ほど前。パラレルワールドと称するのは、私の知るこの国の歴史とは、少しずつ齟齬が生じているから。
私が過去に飛ばされたためだろうが、こうやって歴史が少しずつ変わっているなら、この世界において未来の私は淘汰され、今の時間軸に存在を固定されたのかも?と考えたりもする。
私はこの地で単独作戦中だった。隣国ダーシン共和国と、私の母国ゼルメリア国は開戦間近で、隣国への工作活動の為に潜入作戦中だったのだ。
だが、事前情報とは異なった状況に撤退を考えたときに、敵と交戦することになった。
その際に偶然助けた形になったのが、この国の中隊長であったフェリクス大尉だった。
今思えば、事前情報違いの時点で、この世界のこの時間軸に飛ばされていたのかもしれない。
フェリクス大尉は、私のいた時代には既に存在していないベルグレア国の青年将校で、隣国ザーイーク国と戦争中、別部隊との会議後の帰り道に少人数のところを襲撃されたらしかった。
成り行きで彼を助けて向かい合った時、歴史級の古い装備、あり得ない通信機器に一体どこの田舎のゲリラ部隊だと思ったが、大尉は大尉で私を「宇宙から来たと言っても信じられる」と言った。
だから、本来ならあり得ないと一蹴されそうな、タイムトリップなんていう荒唐無稽な話も、フェリクス大尉と彼の上司のジェイラード中佐には、すんなり受け入れられたのだ。
そして、そのままこの砦の旅団に協力することを対価に、衣食住を保証してもらってここにいる。
ここでの私の立場は、中佐の個人的な諜報員ということになっていて、一部の上層部にしか詳細を明かされていない。
無難な対応だと思う。そうでもしなければ、このオーバーテクノロジーだらけの私の身体と装備に、大混乱になってしまうだろうから。
軍事産業はこの先200年間、この時代には信じられないくらいの技術革新を遂げることになる。この世界がどういう風な未来になるかは不明だが。
まず、私の身体。
私は、身体的にも能力的にも適合性が認められ、身体の内部をサイボーグ化している。四肢はもちろん、左眼左耳、脳の一部と脊椎・頭蓋骨などの骨格。外見からはそうとはわからないが、おそらく生身の人間と比べて、見た目より体重が5kg程は重いだろう。
ただ、このことは中佐も大尉も理解は出来ないだろうから、身体に関しては視力と聴力が強化されていること位しか明かしていない。私の時代でも、人間のサイボーグ化は軍のトップシークレットだったし、生体組織を使っているから、生身の人間とそう変わらない。傷つけば血だって流れる。
そして、装備もそれに合わせたものだ。
高性能の長距離多用途狙撃銃。私の左眼に合わせたスコープと銃は、スポッター不要で2km程度ならほぼ外さずに精密狙撃が可能だ。作戦用に10kg超えとはいえ、この装備を持ち歩いていたのは幸いだった。今は充分な弾丸もあるし、弾丸だけならこの時代でもなんとかなりそうだったので、中佐を通して開発を頼んでみた。
他には、ここではほぼ役には立たないが、通信機器と小型PCやレーダーなど。
通信設備や周辺機器との適合性、動力の充電問題などで、この時代ですぐに使用することは不可能だったので、装備品提供の協力に応じて使用方法を添付して軍に提出した。きちんと解明できれば、飛躍的に技術が伸びるだろうが、今のテクノロジーでは何かと厳しそうなので、あまり気にしないことにした。もしそうなったとしても、それが折り込み済みの未来だと思うし。
私は早速出撃に向けて準備を始めた。
夜間の作戦用に黒の上着。
銃の整備と弾丸の補填、予備の弾丸も装着する。
ピストルとサブマシンガン、ナイフは、この軍からの支給品だ。この時代に暗視ゴーグルなんてものは存在しないが、私の左眼なら充分代わりになる。夜間だろうが、戦闘に問題はない。
と、扉をノックする音がした。
「リーシャ、私だよ。フェリクスだ」
「どうぞ?」
ドアから入ってきたのは、フェリクス大尉だ。
バランスの良い体躯をした高めの身長。緩く波打つ濃い目の金髪に綺麗なエメラルド色の瞳、甘く整った顔立ち。まるでどこかの王子様みたいな容貌だし、実際侯爵家の次男らしいので育ちもいいのだろうが、なかなか曲者の青年将校だ。
頭の回転も早いし柔軟性もある、戦闘力も飛び抜けており、この時代のアンダーテクノロジーをその身体能力と頭脳でカバー出来る、末恐ろしい男だ。27歳と言っていたか?見た目に騙されると痛い目に合いそうだが、兵士としては、背中を任せられる心強い相手だ。ジェイラードも信頼している。
「中佐に聞いたんですか?」
私は整備の手を止めずに、フェリクスに尋ねた。
「うん。また君は無茶をするつもりだね?」
育ちが良いせいで、少々騎士道精神が過ぎるのと、過保護なのが玉に瑕だ。まあ、この時代、軍の兵士に女性はほとんどいないから余計にかもしれないが。
私は、溜息をつくと彼に視線を合わせた。
「私は、これでもれっきとした軍人です。もとの階級だって貴方と同じ大尉でした。それに知っているでしょう? この身体と私の装備は、戦闘に特化しています。ここに世話になっている分くらいは、働きます」
「それにしても、戦車15両を無力化するって?」
夜間なら、問題はない数だ。
なんたってこの時代、夜間軍事活動に有効な光熱インフラとか暗闇での探査装置などは無い、旧時代的な装備だ。敵とのこの位の戦力差は、私にとってなんてことはない。
「なら、私が君の護衛として同行……」
「何言ってるんですか? 馬鹿なこと言ってないで、明朝、間に合うように隊を連れて来て下さいね? 私もさすがに夜昼ぶっつづけで戦闘するのは無理ですよ?」
「……」
フェリクスが黙り込む。当然彼だって自分があり得ないことを言っていることくらい理解している。駄々を捏ねているだけなのだ。子供か。
「君が無茶をしないと約束してくれれば」
本当に、この男は。
先日の作戦のときに、彼の部隊が撤退するときに1分隊が敵中に取り残された為、少々無茶をして救い出したのだけど、その時に私が大腿部を負傷したのが気に食わなかったらしい。たいした傷じゃなかったのに。
「単独行動の方が動きやすいから、心配しないで下さい。それよりも、明朝、お待ちしていますよ?」
こんなときは、フェリクスを頼りにしているとアピールした方が早い。3ヶ月の付き合いだが、私も学習するのだ。
偵察部隊が戻った正午近く、私達は中佐の執務室にいた。
本来なら作戦室で会議という形式を取るが、今回は迅速に情報も漏れないよう作戦を遂行するために、戦闘に関わるものだけがここに集められたのだ。私が表立って動くこともあり、事情を知るものだけを集めたということもある。
司令のジェイラード中佐、偵察部隊のマクベル中尉、歩兵部隊のフェリクス大尉とカイウス大尉、そして私。
「この砦からだと、アデルまではこの街道一本道となります。山を抜ける手前、この峡谷に架かる橋のアデル側に1個小隊。橋のたもとに検問と、検問を挟むように高台から狙える位置に兵が配置されています。ここに大軍で攻め込めば、橋を落とされる可能性がありますね。そして、その先約2kmでアデルですが、街の入口のこちらに向かって戦車15両が配備されていました。街のこの地点には、飛行場もあります。敵の本拠地は、現在のところ、ここですね。市民は避難所や病院などに集められてはいますが、我軍の生存者と共に、抵抗している者もいます」
マクベルが、紙の地図上にピンを置きながら説明した。いつもながらレトロだと思う。地形がイメージしにくい。
「マクベル中尉は、どこを通って偵察から帰還を?」
道は一本、トラックや戦車も走行できる広さがあるが、橋が抑えられている。谷の上からの監視もあると言う。私は疑問に思い、口にした。
「こちらの山中に獣道がありまして……ここから川の浅い部分を渡りました」
と、マクベルは峡谷を迂回する形で山中を指でなぞる。
「今回奇襲を受けてしまいましたが、もとは我々もここに検問を置いていたので、周囲の抜け道は把握していたんですよ。もっとも敵は、まだそこまで余裕が無さそうですが」
そう言って、彼は苦笑した。茶色の髪にこげ茶の瞳の中肉中背、腰の低い30前の男性だ。目立たない容姿だが、諜報活動や偵察任務には向いている。
「お嬢さんは、この状況どうするつもりだい?」
カイウスが興味深げに口端を上げる。赤茶の髪にヘーゼルの瞳のこの男はどこか飄々としていて、私をお嬢さん呼びにするけれど、決して侮ったりはしない。平民出身ながらも確実な実績で将校に上がってきた、部下達からの信頼厚い男で、勘もいい。歳は中佐の1つ上だと言っていた。
「夕方ここを出発して、徒歩で向かいます。検問まで8kmちょっとか。24:00には検問所を処理して、その後、4:00頃までには戦車ヘの攻撃を開始できると思います。暗いうちに戦車15両を無力化して、おそらく街は騒ぎにり、外からの敵が発見できなければ、街の中を探すはず。明日の日の出は8:02。空が明るくなると同時に、一斉攻撃が仕掛けられるよう、7:00に街の入口手前まで歩兵を進めておいて下さい。
あ、検問からの街への偽の定期連絡と、こちらへの状況報告にマクベル中尉の隊から1名お借りしたいのですが」
夜間の長距離狙撃なんて不可能だと思われているだろうし、順当に考えれば街中のゲリラが、夜闇に紛れて爆弾で戦車を破壊したと考えるはずだ。
するとこれまで沈黙していた中ジェイラードが口を開く。
「許可しよう。マクベル、適任はいるか?」
「リーシャさんと……となると、私が同行したほうが良いでしょうね」
「わかった。マクベルお前は少し休んでおけ。17:30にここに。リーシャ、彼の装備に追加するものはあるか?」
「念の為、毒ガス用マスクとゴーグルと手袋を。1個小隊を静かに処理したいので、揮発性の毒ガスを使います。後続隊の皆さんは、遺体に素手で触れないように気をつけて下さい」
「毒ガス用マスク?」「揮発性の毒ガス?」
フェリクスやカイウスが首を傾げる。その様子にまさか……と思い立った。
「もしかして、ありません?」
ジェイラードがため息をついて答えた。
「そんなものが戦場で使われたことは無いな」
そうか……こちらに持ち込んできた装備に揮発性の毒アンプルがいくつかあったのだが、マクベルの安全を考えると少なくとも検問所での使用は無理そうだ。
高台の兵だけにしておこう。
「わかりました。では検問所の敵に毒は使いません。高台の上の部隊だけにしておきます。そちらの遺体には素手で触れずに焼くか埋めるかでお願いします」
皆が、黙って何か言いたそうに私を見たが、やがてカイウスが首を振ると話題を変えた。
「戦車はどうやって無力化するんだ?」
「銃でエンジン部分と燃料タンク、弾薬充填部分を打ち抜きます」
「あ、そう……お嬢さんに常識は通じないわけね。中佐、この娘にちゃんと首輪つけておいて下さいね」
なんだか、しょうもない子っていうカイウスの視線が痛い。
「俺は今のところ一時的な身元引受人ってとこだな?フェリクス?」
ジェイラードは、目を逸らしてフェリクスに投げた。
「リーシャ、後でゆっくり話し合おうね?」
フェリクスがにっこりと笑って、私を見る。でも、目が笑ってないから。
「私……リーシャさんとご一緒して生きて帰って来られるでしょうか?」
マクベルがなんか呟いているけど、失礼な!ちゃんと五体満足で奥様とお嬢様のもとへお帰り下さい。
いささかというより、だいぶん気が抜けた感じでブリーフィングが終了する。
早速、それぞれが作戦準備に取り掛かることになった。
私は、装備をリュックに詰めていく。毒のアンプルもケースを再確認して入れた。防毒マスクもだ。分解された狙撃用の銃と弾丸は50発。
その他は投げナイフと、ここからの支給品であるマシンガンやピストル、多目的ナイフなどの一式は身に付けて行く予定だ。
リュックの総量は30kgほどか?水や食料をそれほど持たなくて済むのは、助かる。
準備が終わると14:30だったので、軽食を取り仮眠を取って、出撃に備えた。
「リーシャさんて、なんていうか見た目に似合わず、体力ありますよね?」
マクベルが、道中しみじみと言った。
私達は、峡谷に向かって早足で街道を歩いていた。山間の街道なだけに月明かりも届かない場所も多く、道も曲がりくねっているが、敵から発見されにくいので、こちらとしてはいい条件だ。
結構なスピードで歩いてきたからか、マクベルの息が軽く上がっている。
「すみません。早すぎましたか?もう少しで分岐なので、中尉は近くの繁みで待機していて下さい。
橋の南側の高台を片付けたら、そのまま北側に向かい、高台の兵士を始末します。その後、橋の検問所の見張りだけ倒します。検問所の休憩所はマシンガンを使うので、中尉も合流してもらっていいですか? ライトで合図をしたら、橋を渡ってきてください。」
そう言って、少しだけペースダウンした。
途中からは、例の獣道を通ってまずは南側の高台に向かう予定だが、マクベルは街道脇で待機してもらうことになっている。さすがに、明かり無しで夜間の山中行軍は彼には無理だ。川を渡るので私の装備も一部預けて、身軽にしていくつもりだ。
獣道への入口と目的地がわかれば、脳内の地図と合わせて目的地には問題なく到着出来るだろう。
間もなく彼と分かれて、山中を進んでいく。
人目を気にすること無く、能力を全開放して獣道を進んだ。木々の合間を走り抜け、間もなく強化された視力と聴力が、敵のキャンプを捕らえた。防護マスクを着け、最初に兵士が眠るテントに次々とスプレーでガスを噴霧していく。
夜間の見張りは、3名。そちらはナイフで始末した。
今度は北側の高台に行き、そこの兵士を始末した後、検問所に降りることにした。
マクベルには検問所の見張りを始末した後、合図をして橋を渡って合流してもらった。
「あまりに早かったから、敵の罠かと思った」
私の預けた装備を渡してくれながら、マクベルは、そう囁いた。
「見張り以外は、皆さんよく眠ってましたからね。そのまま、毒ガスで苦しまずに。
ですが、後続に害がないよう、検問所はマシンガンを使いましょう」
マクベルは黙って頷いて、マシンガンを手にした。
テントは2つ。深夜の渓谷にマシンガンの発射音が響き渡った。
「では、私はここで大尉達を待ちます。街からの連絡も誤魔化しておきますね。リーシャさんも気をつけて」
マクベルはそう言って、敬礼して見送ってくれた。時刻は24:30だった。
「本当に貴女が敵ではなくて、よかったですよ……」
強化された聴力が、彼の小さな呟きを拾った。
街道を進んで渓谷地帯を抜けると、前方に街が見える。
おそらく、ベルグレア軍のアデル奪還戦を警戒して、こちらに向かって街道を中心に扇形に戦車が配置されている。
曇り空で、明かりはほぼなかった。街中も市街戦の影響で停電しているらしい。一部明かりがある場所は、ザーイーク軍の占領本部だろう。
街を全体的に眺められる山の中腹の岩場に腹這いになり、対物の狙撃銃をセッティングしていく。
占領本部まではおよそ2.5km、戦車はその400m程手前だ。昼間ならともかく、明かりのほぼ無い夜間ならこちらに気付かれる距離ではない。
左眼が暗視狙撃用にスコープに対応し、左耳は周囲を警戒し、環境も察知した。今のところ異常は無さそうだ。脳内チップが観測データーを処理していく。
そして、戦車のエンジンと燃料タンクを打ち抜き、砲弾充填部分も撃ち抜く。燃料が引火して戦車が燃え上った。
旧式で装甲が薄くなければこうは行かなかっただろうが、とりあえず期待通りに全車両無力化出来た。
3台目位で周囲が騒然とし、サーチライトが街の外を照らし出したが、当然何もいない。
残りの弾丸で、占領本部と思われる建物に数発打ち込んでおいたので、これで街の中に目が向くと良いが。
用が済んだので、サッサと撤収し、痕跡も消しておく。
街道近くまで戻り、後続隊を待った。
6:30前、行軍の足音を察知した。
「時間通りね」
間もなく現れた歩兵部隊と過保護な大尉の前に姿を見せて、私は手を降って見せたのだった。