【短編】忘れ物ばかりする幼馴染が、なぜか毎日俺の私物を借りにくるんだけど……
「あっ、教科書忘れちゃった……」
木曜の朝8時半、授業開始5分前の予鈴が鳴ったのと同時に隣の席から聞こえて来たのは予想通りの言葉。
さっきまで通学カバンの中を漁っていた俺の幼馴染……城崎 春乃が、やってしまったと言わんばかりの顔をしながら落胆して天を仰いでいた。
「また教科書忘れたのか? これで3日連続だぞ」
「ちゃんと朝、家出る前に確認したもん! 本当だよ!?」
「でも実際忘れてるわけだし」
「正論パンチはやめてよ、天音ぇ……」
しょんぼりとしたような顔でこちらを見上げてくる春乃の姿を見て、俺はひとつ大きなため息をつく。
春乃の忘れ物が急に増えたのは、中学生の頃。ある時は筆記用具を忘れ、またある時は雨だというのに傘を忘れ……とにかく、ほぼ毎日と言っていいほど何か忘れ物をしているのだ。
(本当に、忘れ物をする癖さえなければ完璧なんだけどな)
春乃のことを一言で表すなら、ほぼ完璧美少女というのが的確だろう。肩まで伸ばした綺麗な黒髪に、街ですれ違ったらまず二度見してしまうほどに可愛い顔。しかも成績優秀で運動神経抜群ときたもんだ。
このハイスペっぷりと、忘れ物の常習犯というギャップのせいで、彼女はこの高校でかなりの有名人となっており『残念美人』だとか『介護したい女子ランキング第1位』だとか、不名誉な二つ名がつきまくっている。
「あの、それで、お願いがあるんだけど……」
「ダメだ」
「まだ何も言ってないのに!?」
「どうせ『教科書見せてくれ』って言うんだろ。もう50回は聞いたぞ、それ」
そして毎度毎度、その被害を被っているのは俺だ。覚えている限りでは高校に入学してから3ヶ月間、俺の私物をコイツに貸さなかった日なんてないんじゃなかろうか。
春乃は上目遣いでこちらを見つめてくるが、それも無駄。普通の男子ならこれで堕とされるだろうが、俺はすでに耐性が出来てしまっている。
「教科書なかったら先生に怒られるって!」
「お前が怒られても俺は傷つかないからな」
「一生のお願いだから!」
「それも飽きるほど聞いた。お前の人生何回あるんだよ」
家が隣同士ということもあり、毎朝持ち物を何度も確認させているのに、こうも忘れ物が多いのはもはやわざとやってるんじゃないかとさえ思えてくる……いや、そんなわけがないからヤバいんだけど。
だからこそ、今日こそは春乃を甘やかすわけにはいかない。コイツ自身のためにも、いい加減俺を頼りにするのはダメだということを教えなければ。
「というか他のクラスから借りてこいよ。まだギリギリ間に合うだろ」
「それじゃあ、忘れた意味がないじゃん!」
「意図的に忘れてたとしたらそれはそれで最悪だわ」
もはや焦りすぎて言っていることがムチャクチャである。俺は必死な眼差しでこちらを見る春乃から目を逸らし、心を鬼にして彼女の頼みを無視する。
そうだ、俺は鬼だ。たとえ何があっても、情に絆されてコイツのお願いに耳を傾けることはない。
「うぅ、天音ぇ……」
「やっと諦めたか? これに懲りたら、明日からは……」
そのまま春乃を無視し続けること約30秒、彼女は俺の情に訴えかけるのをやめて急に静かになった。
ようやく諦めてくれたのかと思い、俺が彼女の方を向くと……怒って頬をぷくーっと膨らませた春乃が、こちらに向かって飛びついてきた。
「おーねーがーいー!! 見せてよぉぉぉぉっ!!」
「うわっ、急にわめくな! あとそんなくっついて来んな、馬鹿!!」
椅子に座った俺に縋り付き、上半身を揺さぶる春乃の姿は、さながらおもちゃを買ってもらえず親にひっついて駄々をこねる子供のよう。少し違うのは、俺とコイツが高校生であるということだ。
要するに……子供の時とは違って成長しているのだ、色々と。春乃は女子高校生の中では圧倒的に顔もスタイルもいい方だし、俺の精神だってそれを気にせずいられるほど幼くない。
「さっさと手を離せ……って、力強えなお前!」
「教科書見せるって言うまで離れないから!」
「痛いんだよ、上半身と周囲の目が!!」
俺は胸の辺りから伝わってくる柔らかな感触から気を逸らしつつ、春乃を引き離そうとするが、妙に力が強くてなかなか離れてくれない。
周りの奴らを見ろ。『またやってる』という呆れ気味な視線と、『さっさと離れないと殺す』という男子の怒りが集まってきてるぞ。主に俺に対して。
時計を見ると、授業開始まで残り2分を切っている。ここから別のクラスに教科書を借りに行くのは不可能じゃないが迷惑だろう……はぁ、仕方ないか。
「分かった、分かったよ! 今日は見せてやるから!」
「ほんと!? ありがとう、天音!!」
「だから引っ付くなって!」
最終的に、春乃に押し切られる形で今日も教科書を貸すことになってしまった俺は、彼女を自分の体から引き離した後にカバンの中から教科書を取り出す。
授業に支障が出る心配がなくなって安堵したのか、春乃は上機嫌そうな顔をしながらこちらに机を引っ付けてきた。
「マジで明日からは絶対見せないからな」
「そんなこと言いながら毎日教科書を見せてくれるんだから、天音は優しいよね」
ああ、やっぱりこうなってしまった。昨日も、一昨日も、というか中学校に入ってからずっと、毎日春乃が何か忘れ物をしては俺はこうして都合よく利用されている。
小学校の頃はむしろ、忘れ物なんてしたことがないくらいの優等生だったのに……どうしてこうなってしまったんだろう、なんて思いながら俺は渋々教科書を開く。
「もしもまた忘れた時は他のやつから借りるんだぞ」
「……それだったら、忘れてこないかな」
「借りにいくのが面倒なら忘れるなよ……」
「むぅ……別に、そういうわけじゃないし」
結局、コイツが忘れ物をしなくなることなんてないのだろう……そんな負の信頼がまた積み重ねられたのと同時に、始業のチャイムは鳴り響いたのだった。
◇────◇
「……さて、遺言を聞こうか」
「なんで俺は休み時間が始まった途端に殺されかけてんだよ……っ!」
それは、その日の昼休みのこと。
体育の授業後の着替えが終わり、早く教室に帰って弁当を食べようとしたのも束の間、俺は体育館前の広間で男友達にニーブラで拘束されていた。うん、シンプルに痛い。
「当たり前だろ! 城崎さんとあんなに仲良くするなんて羨ま……やましいじゃないか!」
「おーい、心の声が漏れ出てるぞ」
「どうせ役得とか思ってるんだろ、くっそぉ……!」
「そんなに羨ましがるなら代わってくれよ」
どうやら、周囲は俺のことが羨ましいとかなんとか思っているらしい。実際、そう思われていることはなんとなく分かってはいた。
しかし、俺の身にもなって欲しい。毎日忘れ物をする幼馴染の面倒を見るだけでも疲れるのに、それを助ければ頼られ続けて、助けなければ泣きつかれて他の男子に恨まれる……これのどこが役得だ。むしろ厄災だろ。
「それに俺と春乃は幼馴染だし、仲良くてもそういう感じにはならんだろ……普通に考えてさ」
「だとしてもだよ! 僕に関しては城崎さんと接点すらないのに!」
「それは俺のせいじゃなくね?」
そもそも、こいつらが考えているような関係に俺と春乃がなるはずがない。
俺と春乃は幼馴染……そう、幼馴染だ。それ以上でも、それ以下でもない。少なくとも、春乃はその程度にしか思っていないはずだ。
「正論を言うなぁっ!」
「痛だだだだっ! 息できないから!」
「じゃあ、お前は城崎さんが他のやつと付き合っててもいいんだな! ただの幼馴染だもんな!」
「そ、それとこれとは話が別だろ!」
さらに首を締め上げられ、思考のリソースがどんどん減っていく中、俺はもしも春乃に彼氏ができたらどうしよう、と思い描く。
今は一緒に登校しているが、彼氏ができたらそれはアウトになるだろう。というか、一緒に遊びに行くこともできなくなるかもしれない。それは……少し、寂しいような気がする。
「恋愛感情なんてないんだろ!? だったら別に大丈夫だよな、僕が城崎さんと付き合っても!」
「それは絶対ないから安心だけど……っ!?」
「お前ぇっ……! とにかく、城崎さんに彼氏が出来たらどう思うんだ、答えろ!」
俺以外の誰かが、俺以上に春乃のそばにいる。そんな情景を思い浮かべると、どうにも心がモヤモヤするのはなぜだろう。
いや、その感情を確かめる前に、今はまずこの呼吸困難を解決する方が先だ。そう思って、適当に誤魔化そうとしたその瞬間……俺の目には、物陰に隠れてこちらを見ている春乃の姿が映った。
(あいつ、よりにもよってこんな時に……!)
間違いない。春乃は、確実にこの話を初めから聞いていた。俺がどう返答するのか、興味津々といった目でこちらをガン見している。
ここで下手に答えを濁せば、アイツに揶揄われる未来が待っているのは火を見るより明らかだ。
「別に気にしねえよ! ただの幼馴染だし!!」
「うわっ!? きゅ、急にそんな大声出すなよ……」
そう判断した俺は、春乃にもしっかりと聞こえるように、大声でそんなことはないと叫んだ。
突然の大音量に驚いたのか、男友達の拘束は緩み俺は地面にへたり込む。なんとか助かった、と思って俺が春乃の方を見ると……
「そう……なんだ……」
「……春乃?」
春乃は、やけに悲しそうな顔をしながらそう呟いたかと思うと、こちらを覗くのをやめてどこかへ走り去って行ってしまった。
その表情は、彼女が今まで見せたどんな顔よりも悲しそうで……何度もその顔を思い出し、ようやく理解した。俺は、言うべき言葉を間違えたのだ、と。
(もしかしたら、春乃も……?)
もし、春乃にとって俺がただの幼馴染じゃなかったとしたら。もし、春乃も俺と同じような気持ちだったとしたら。もし、春乃が俺のことを……
そう考えると、胸が痛くなる。強がりのためだけにあんなことを言うんじゃなかった。
(どんな顔して、アイツと話せば良いんだよ)
俺はどうすれば良いんだろう。今すぐに春乃に謝って、今の発言が嘘だと伝える……そんなことをして、春乃は信じてくれるだろうか?
だとしたら、普段通りに接する……いつも通りに出来るのか? こんなよく分からない気持ちを自覚してしまった状態で?
(俺は、どうすれば……!)
良い案が思いつかない。どうしても墓穴を掘ってしまう気がする。半ば酸欠気味の頭をフル回転させ、俺が弾き出した答え、それは……
(……そうだ。忘れ物した時に話せるじゃん)
春乃の忘れ物を待つ、というものだった。そうだ、春乃はどうせ毎日のように忘れ物をするのだから、否が応でも話さざるを得ない。その時に上手く誤解を解けば良いんだ。
そう自分に言い聞かせて、俺は問題の解決を後回しにしようとした……いや、してしまった、というべきだろう。
その日から、春乃は忘れ物をしなくなったのだから。
◇────◇
(ここ最近、全然春乃と話してないな)
帰りのホームルームが終わった後、隣の席でうたた寝する春乃を見ながら、俺は改めて自分の選択を後悔する。
あの日から春乃は忘れ物を一切しなくなった。教科書は持って来るし、傘だって忘れない。家も俺より早い時間に出るようになったから、前の話を切り出すきっかけもなくなった。
「……帰るか」
今ここで春乃を起こして、前の話は嘘だった、なんて言えたら苦労しない。実際、何度もそうしようとしては諦めた。だって、仕方ないだろう。今更どんな顔をして春乃に謝ればいいんだ。
「傘……忘れたな」
靴箱を通過して外に出ると、俺を待っていたのは土砂降りの雨。そういえば、今朝の天気予報で今日は夕立が降るとか言っていた気がする。
いつも春乃のためにカバンに入れていたはずの折りたたみ傘は、もう入っていない。もちろん普通の傘なんて持ってきているはずもないし、濡れるわけにもいかないから、雨が止むのを待つしかなくなった。
「天音が忘れものするなんて、珍しいね?」
「は、春乃!?」
「……傘、入ってく?」
そのまま数分、雨音を聞きながら待ちぼうけていると、背後から聞こえてきたのは他でもない春乃の声。傘を右手に持った彼女は、どこか気まずそうな顔をしていた。
「いや、別に止むまで待てば……」
「夜まで降り続くらしいよ」
「ぐっ……お願いします」
このままでは本当に濡れて帰る以外の道が無くなってしまうので、俺は気まずいことを承知で傘に入れてもらうことにした。
春乃の手から傘を取り、パっとそれを開いて、彼女が傘の中に入ったことを確認した後に歩き出す。小学生の頃にも傘を貸してもらったことがあったが、その時よりも傘の幅が小さく感じて仕方ない。
「天音、肩のとこ濡れてるよ?」
「大丈夫だよ、このくらい」
「……風邪引いても知らないからね」
俺は春乃が話しかけてきても、ただ前を向いて目を合わせないようにしながら歩き続ける。ここで素直になれれば、どれだけ楽なことだろう。
「ねえ、覚えてる? 中学校に上がったばっかりの時に、私が初めて忘れ物した時のこと」
「お前が傘を忘れるのなんて日常茶飯事すぎて、初めてがいつだったかなんて思い出せないな」
そのまま雨の降りしきる道を歩いていると、ふと、春乃が語り出す。
それは、忘れるはずもない昔の記憶。忘れ物なんて一度もしたことなかった春乃が、初めて学校に傘を持って来るのを忘れた日の思い出。
もちろん覚えているなんて言ったら気持ち悪がられそうだし、そのことを悟られてしまうのも恥ずかしいから、俺はまた嘘をついて強がってみせた。
「へぇ、忘れてるんだ。私が何を忘れたかはちゃんと覚えてるのに?」
「……たまたまだよ」
「じゃあ、そういうことにしといてあげようかな」
しかし、どうやら俺は失言してしまったらしい。急に昔の話を掘り返されたものだから、つい焦って余計なことを言ってしまった。
少し上機嫌気味になった春乃は、まるでその日を懐かしむかのような声で話を続ける。
「今日みたいなすごい雨の日だったからさ、傘がないって気づいた時は本当に焦ったなぁ。そもそも忘れ物すること自体が初めてだったから、どうすれば良いか分からなくて泣いちゃったんだよね」
中学1年生の夏、委員会で帰りが遅れた春乃を待っていたのは、まるでバケツを返したような雨。靴箱の前でしゃがみ込みながら、傘を忘れて泣いている春乃を見て、柄にもなく焦ったのを覚えている。
「私、すっごく嬉しかったの。中学校に入ってから急に私と話してくれなくなった天音が、何も言わずに傘に入れてくれたから」
「あれは、その……他の男子から冷やかされたから……」
春乃といると妙にドキドキするようになったのは、ちょうど中学生になったのと同じくらいだった気がする。
他の男子に『付き合ってる』だとか冷やかされるのが妙に腹が立つようになって、心の中がモヤモヤして……春乃から距離を取るようになったんだっけ。
「でも、次の日からはやっぱり知らんぷりで……その時に思ったんだ。もしも私が忘れ物したら、天音はまた私と話してくれるのかなって」
「お前、まさか……」
言われてみれば、あの頃から春乃は忘れ物をし始めたような気がする。まさかコイツは、ずっとそれだけのために……
「そうしたら、天音は私のことを見てくれるのかな、って思ったの。そしたら、少しずつ忘れ物をやめるのが怖くなって。また、天音と話せなくなっちゃうって思って……本当に、そうなっちゃった」
(……っ、俺は、どうして)
春乃の顔を見るのが怖かった。自分の選択の結果を最悪の形で突きつけられてしまうのが、何よりも恐ろしかった。
ここで春乃と向き合わないと、俺はきっと、2度とコイツと顔を合わせられなくなってしまう。それなのに、彼女の方を見ることができない。
「だから私、もう────」
その瞬間、素直になりたい気持ちと、自分の失敗を突きつけられたくない気持ちの間で葛藤していた俺の右手に、1粒の雫が当たる。
手に当たったそれは、雨にしてはやけに暖かくて、優しくて、寂しい感触がする。その感覚は、俺のちっぽけなプライドを壊すにはあまりにも十分すぎた。
「……っ、ごめん!!」
「天音……?」
肩を掴んで春乃に向き合い、開口一番で謝ると、彼女はキョトンとした表情を浮かべて俺の顔を見上げる。彼女の頬を伝うそれは、あからさまに雨じゃなかった。
「俺……春乃の気持ちに、全然気づかなくて! ガキの頃と変わらないまま、強がって思ってもないこと言って……本当は、あんなこと全然思ってない!」
何を言って良いか分からず、俺はただ頭の中に浮かんできた言葉を叫ぶように並べ立てる。
「ただの幼馴染だなんて、そんなこと思ってない! お前に彼氏ができたら、とか考えたくもないし……ワガママかもしれないけど、正直言って嫌だ!」
何度も何度も頭の中で後悔していたことを、ぐちゃぐちゃで不定形な言葉のまま吐き出すたびに、少しずつ心が軽くなっていく。それがひと段落するまで、春乃は俺の言うことを静かに聞いてくれた。そして……
「だから本当は、お前と向き合うのが……その、恥ずかしかったんだよ」
「……それ、ほんと? 私に彼氏とかできたら、嫌?」
「嫌に決まってるだろ! だって、俺は……あっ……」
「だって、何なの? 言ってよ、天音」
俺はようやく気づいてしまった。自分が何を言っているのか、ということを。
泣き腫らした顔はどこへやら、いつの間にかいたずらっぽい笑顔を浮かべた春乃は、俺に続きの言葉を言うように促す。
「私、ずーっと待ってたんだよ。何年も、何年も、天音からその言葉が聞きたくて……このまま終わるんじゃないかって、ずっと怖かったんだから」
(あぁ、本当は、ずっと……)
俺たちはずっと前から、ただの幼馴染なんかじゃなかった。俺はその関係に甘んじて、自分の気持ちに見て見ぬ振りをしていた。春乃はその関係が嫌で、ずっとそれを伝えようとしてくれていた。
一体、なんの因果だろう。春乃の忘れ物から始まったこの奇妙な関係が、俺の忘れ物で終わりを迎えるなんて。
俺はひとつ息を吸って、何年も遅らせてきたその言葉を告げる。
「俺は、春乃のことが────」
◇────◇
「春乃、今日も忘れ物はないか?」
「うーん……大丈夫! 多分!」
金曜日の朝、晴れ渡る青空。お互いの玄関前に立ちながら、俺たちはいつも通りのやり取りをする。
「だって、もう忘れ物をする理由なんてないでしょ?」
「……そうだな。じゃあ、行くぞ」
あれから、春乃がわざと忘れ物をすることはなくなった。そしてきっと、2度とそんなことはないだろう。
これからも、ずっと。
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