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ノブヒデ 令和・笑いの乱  作者: ハッシャン
9/10

第8話

天正10年。6月13日の時刻は申の刻、午後16時ごろ。

山崎では、羽柴軍と明智軍の戦闘が始まっていた。

激しい雨が降り、鉄砲の音はほとんどなく、両軍の兵の叫び、

馬の甲高い鳴き声だけが鳴り響く。明智本陣の光秀は、険しい

表情で雨空を見つめている。


突然、伝令が到着。戦況を光秀に知らせる。

「津田信春殿の軍、奇襲に遭い壊滅。斎藤利三殿の軍も撤退を余儀なく

されております。」

「大義であった。」光秀は俯いたまま伝令に声をかけ、そして立ち上がり

本陣にいる武将たちに号令する。

「この雨では、鉄砲が使えず、数に劣る我が軍に勝ち目はない。

ここは勝龍寺城まで後退し、そこから坂本に戻り立て直すのが

筋だと思う。全軍に伝えよ。今が引き時、撤退じゃ!」

「仰せの通りにいたしまする!」「おう!!」

本陣の武将たちはそう答え、本陣を後にする光秀を見送る。

用意された馬に跨り、光秀は目を閉じ、心の中で自分に問いかける。

「天は俺を見放したのかもしれんな」

本陣に立ててある、明智の旗印は雨に濡れ、その重みでしな垂れて

悲しそうな雰囲気を醸し出している。


現代の信長はもう、かなり酔っていた。客である佳澄と恵は、まだ楽しそうに

戦国話に花が咲いている。

「明日は休みだからって、少し飲みすぎたかな。佳澄はやっぱりお酒強いわね。

私も強いほうだけど」

「そうかな?」


恵は少し、うとうとしているノブさんの方を見る。

「ノブさん大丈夫ですか?私たち、ちょっと飲ませすぎましたよね?」

テーブルには、途中からボトルに切り替えたのかワインの瓶が2本、

空になっている。


厨房から戻ってきた由美は、ノブさんに近づき心配そうに様子を伺う。

「マスター、今日はどうしたの?いつもはもっとしゃんとしてるのに。体調でも悪い?」

ノブさんは、突然しっかりと目を開く。

「いいや、そんなことないよ。ちょっと休んでただけや。もう大丈夫。

由美ちゃん、利休の緑茶ハイもってきてくれるか」

「はいはい」


恵も佳澄も、利休という言葉に反応して同じものを注文する。

「私たちにも同じものを」

「利休の緑茶ハイ2つですね。ありがとうございます」

厨房に戻っていく由美を目で追うノブさん。

「よかった、ノブさんも蘇って」

「大丈夫やてかすみん。いつもは、こんなにお酒に飲まれへんねんけど。

すまんな店主がこんなんで。かすみんとめぐみんの戦国話が面白くて、

ちょっと調子にのりすぎたかもしれんな」


厨房から緑茶ハイを持って戻ってくる由美。

「お待たせしました。利休の緑茶ハイです」

「ありがとう」

恵が緑茶ハイを一口飲んで、ノブさんに話しかける。

「そういえば信長って、利休の影響か、茶器に目がなかったですよね」

「男って、これが集めたいって決めたらコンプリートしないと

しないと気がすまへん人が多いやろ。信長もそれやったんちゃうかな」

「でも女子も収集癖ありますよ。佳澄なんかキティちゃんめっちゃ集めてるやんな」

「そうやな」

「じゃノブさんは、今なんか集めてるんですか」

「店のコレクションルームを見たと思うけど、戦国武将のフィギュアとかは

ちょっと集めてたな、今はモノを集めるよりお笑いに夢中やねん。そやから

めぐみんとかすみんが漫才コンビやってるって聞いた時、めっちゃテンション高ったやろ」


緑茶ハイを一気に飲み干すノブさん。その飲みっぷりに驚いている佳澄と恵。

「ノブさん、あかんってそんなに一気飲みしたら」

「大丈夫。こんなの俺にとってはほぼお茶。ああー、逆にしゃっきっとしたわ」

由美に注意されて、少しムキになるノブさん。

「わしにも、今練習中の戦国をテーマにしたギャグあんねんけど…」

「ほんまですか? めっちゃ見てみたいわ〜。なぁ恵」

「うん、見たい見たい」

「よしわかった!」


ノブさんは急に立ち上がると、右手を扇子を持っているような

感じで突き出し、ゆっくりと舞い始める。唄は信長の好きな「敦盛」の

一節で。佳澄も恵も真剣にノブさんの動きを追い続けている。

「人間五十年〜  令和の世に比ぶれば〜  」きりっとした表情で

能役者のように舞い続けるノブさん。しかしノブさんは、ここから急に戯け始める。

「短かすぎるやん!!」


佳澄も恵もあっけにとられて、固まっている。由美は、またやってしまったなという表情。

少し沈黙の時が流れた後、佳澄と恵が突然、勢いよく拍手をはじめる。

「めっちゃ面白い!」

「シリアスとふざけた感じのギャップが最高! な、かすみん」

「うん! 他にもなんかネタあるんですか?」

「まだまだあるで〜 」

恵が、満面の笑みでノブさんにお願いをする。

「もっと見せてくださいよ。お願いします」

「ええで〜。オッケーはざまや!エンジンかかってきたで〜。知らんで〜」

由美は、3人から少し距離を置いて冷ややかな表情でノブさんを見ている。

「こっちも知らんでやわ。マスター!調子のりすぎ!」

「ええやんか、今夜ぐらい」







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