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ノブヒデ 令和・笑いの乱  作者: ハッシャン
5/9

4話

高井のマンション。高井は、ノートパソコンを持ってきて、ソファーに座っている

信長の前に置き、自分もソファーに座る。信長にとっては、初めて見るパソコン。

各部を食い入るように見て確かめていく。画面には、先ほど見た大阪城とは違う城の

写真が映っている。

「高井殿。この薄い箱はなんじゃ?」

「これはパソコンと言って、文章が書けたり、世界中のいろんな情報を

調べることができる機械です」

「この機械が世界と繋がっておるのか。さぞかし凄腕の匠が作ったのであろうな」

「そうかもしれませんけどね」


信長は、画面に映る城を見て高井に質問する。

「この城は、猿の大阪城とは違うが、誰の城じゃ」

「家康の江戸城です。今は、天皇陛下が住む皇居となっています」

「ということは、徳川もまた滅んだのか?」

「徳川幕府は250年ほどで、政権を朝廷に返し、この国は大日本帝国になりました。

しかしその体制も、最後は外国、アメリカとの戦争に負けて軍は解散。

他国とはもう戦争しない日本という国ができました。なので今、この国は

戦のない平和な世を謳歌しています」


信長は、ソファーから立ち上がり、また窓から外を見る。

青空にゆっくり雲が流れていく。

「そうか。ようやく戦のない世の中になったというわけか」


独り言をつぶやき、物思いに耽っている信長の横にそっと近づく高井。

「今は、国民から選ばれた代表が政を行っている時代です。

身分に関係なく、能力のあるものが認められる時代です。

だから信長さま。信長さまの力が発揮できる、やりたいことが見つかるまで

私の元で働きませんか」

「高井殿の申し出に感謝する。そうさせていただこう」

「わかりました。まずはこの時代にあった名前にしなければ。そうですね…」


腕を組み考え込む高井。その様子を見て、信長が口火を切る。

「織田上総介では、どうじゃ。信長と言わなければ、いいのじゃろ」

「上総介なんて古い名前じゃ、よけいに怪しまれます」


何か思いついた感じの高井。ノートパソコンのところに行き、急いで

キーボードを叩き始める。

「高井殿。どうしたのじゃ?」


高井は、ノートパソコンを手に持って信長の元に戻り、画面を見せる。

そこには、信長の新しい名前が。

時田信治(ときた のぶはる)ってどうですか。意味は、『時を超えた織田信長が

今の天下をおさめる』っていう意味です。これなら誰も信長だとは気づきませんし

信長さまの思いもちゃんと生きています。

でもふだんは、ノブさんと呼ばしてもらいますね。その方が、身近な感じがしますし」


信長は、新しい名前が表示されたパソコンの画面に手を伸ばし、名前の文字に触れる。

「時田信治か。いい名じゃ。よし、これで行こう。ところで先ほど、働くと申されたが

どんな仕事じゃ」

「実は私、居酒屋、つまりお酒と簡単な料理を出す店を1軒やってまして、今2軒目を

準備してるんです。車の中でも言いました戦国時代をテーマにしたお店です。

そしてノブんさんには、そのお店を手伝ってもらおうかと思いまして」

「わしは、戦国の世のことは詳しいが、わからんことはなんでも学ぶから教えてくれ。

今は我が主人(あるじ)は、高井殿ただ一人ゆえ…」

「私のことは、オーナーとか大将でいいですよ。ノブさん、ちょっとこちらに

来てもらえませんか。見せたいものがあります」

「わかった」


高井は、マンションの別の部屋、自分の作業部屋に信長を連れて行く。


所狭しと部屋に置いてある戦国グッズ。壁には織田、明智、羽柴軍の旗印。

織田木瓜の家紋が入った湯呑みを手に取る信長。

「これはさぞかし値打ちのある焼き物か?」

「いいえ。ネットで買った安い湯呑みです。それより、これを見てください」


高井が手に持つ50cmほどの木の看板。そこには、"戦国バー うつけの溜まり場"と

書かれている。

「これがお店の名前です」

「うつけか。わしも若い頃、よくそう言われたわ」

「そこなんです。今は、若い人に戦国時代が流行っているんです。

若くて元気があり、少々うつけぐらいやんちゃな戦国好きのお客さんに来て欲しいというという

思いをお店の名前にしてみました。そして店中のものを戦国に関係するもので

揃えようかと考えています」

「いい考えじゃ。戦国のことはわしにお任せあれ。あとはオーナーから学ぶ。それでよいか?」

「はい。その調子です」


そこからオーナー高井が信長ことノブさんにお店に関することをトレーニングしていく日々が続く。


ある日、リビングのソファーに座り、お客の役をする高井オーナー。ノブさんの接客をチェック。

「いらっしゃい。貴殿が飲みたいものはなんじゃ」


そこでオーナーがダメ出しをする。

「ノブさん。それでは戦国バーとは言え、固すぎです。例えば、『いらっしゃいませ。

飲み物はどうされます?』ぐらいに気軽な言い方で。はいもう一度!」

「承知した。(ちょっと可愛く)『いらっしゃい! 飲み物はどうします』これはどうじゃ」

「ちょっとやりすぎかも。でも固いよりはずっといいです!」


またある日は、キッチンでやきそばづくりの練習。

二つのコテを使い、上手にやきそばを混ぜるノブさん。横で見ている高井が一言。

「なかなかいいコテさばきですよ、ノブさん」

「これぞまさに二刀流の極意。そりゃ!」


調子に乗って大きくコテを振り上げるノブさん。するとやきそばがキッチン中に飛び散る。

それを見て慌てる高井オーナー。

「もう〜ノブさん!調子乗りすぎ!!」


頭からもやきそばを被ってしょんぼりとしたノブさん。

「す、すまん。まだ戦国のくせが抜けんな」


またある日は、カクテルづくりの研修。

高井オーナーが、シェーカーをノブさんに渡す。

「ノブさん教えた通りにシェーカーを振ってください」

「わかった」


ノブさんは少しぎこちないが、必死にシェーカーを振る。

そして終わりに、奇声とともに槍で相手を突くようなポーズを決める。

「おりゃーーー!」


高井オーナーは、その迫力に思わず拍手をする。

「これは、これで、戦国らしい力強さが出ていいかも。うけるかも。

ノブさん、これで行こう!」

「ありがたき幸せ」

勢いがありすぎて息切れしているノブさんだが、顔には笑みを浮かべていた。




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