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ノブヒデ 令和・笑いの乱  作者: ハッシャン
4/9

3話

時は再び、天正10年6月2日。

燃え盛っていた本能寺も、陽が昇った今は炎もおさまり

ところどころで燻った煙がゆっくりと立ち昇っている。


焼け焦げた柱などの下敷きになっていると思われる

信長の遺体を必死に探している光秀の兵たち。

その様子を少し離れたところで床机椅子に座って見ている

光秀は、かなり焦っていた。足の貧乏ゆすりが止まらない。

光秀の横に立っている家臣の齋藤利三は、目を閉じて眉間に

シワを寄せたまま。

そこに伝令がやって来た。

「申し上げます。未だ、信長公の骸は見つかっておりません。

あの激しい炎では、骨までも灰になったかと思われますが…」


光秀は、鬼のような形相で伝令を勢いよく蹴飛ばす。

「お前は何もわかっとらん!!! わしは、ここに上様の首を

持ってこいと言ったのじゃ!首は灰になったで済むと思うな! 

もし、上様がどこかで生きておられると言う噂が世の中に広がったら

どうなる。上様を恐れてわが軍勢に味方するものがいなくなるのじゃぞ!」

「はは〜!我が命に変えても探しまする!」


あわてて光秀の元から、焼けた本能寺へ走り去っていく伝令。


家臣の齋藤利三は、ゆっくりと目を開き、光秀の前にひざまづく。

「殿。二条城でご自害なされた嫡男信忠様の首も未だ見つかりませぬ。

ここは、信長様も信忠様も、自ら炎の中に身を投げられた姿を我が兵が見たと

都で言いふらしましょう。この件は、この利三にお任せください」

「あいわかった。もうわしは上様を恐れん!ここ本能寺を早々に引き上げて

天下を納める策を練ろう!」

「秀吉、勝家などが来るまでに味方を整え、しっかり足元を固めるのが肝要かと」

「そうじゃな。まずは、少ない手勢で堺におる家康を討つ!これは神が、わしに

お与えになった好機ぞ!」

「御意!」


利三が、光秀の背後の空を見ると雲の間から陽の光が差しはじめる。


時は現代。高井のタワーマンションの窓から、遠くを見ている信長。

マンションに来るまで乱れていた髪は後ろで括られ、高井のカジュアルな

パーカーとジーズに着替えている。信長の目には、今、見ている大阪湾と

大阪の町の風景に、一瞬、安土城の天守から見た城下と琵琶湖の風景が

重なっていく。


キッチンから、ワインのボトルを持ってくる高井。リビングのテーブルの上には

簡単なおつまみと解凍したピザが置かれている。高井は赤ワインをグラスに注ぐ。

「信長さま、ワインというか葡萄酒がはいりましたよ」

「高井殿、かたじけない。葡萄酒はわしの大好物じゃ」

「信長さまといえば、葡萄酒ですよね。歴史ドラマとかでよく見てましたから」

「ドラマとはなんじゃ?」

「まぁ、細かいことは抜きにして、とりあえず乾杯しましょう」

「わかった」


信長は、ソファーに座り、ワイングラスを持ち高井と乾杯する。

「(二人で)乾杯〜」

「高井殿。ここに来る前に貴殿は、わしが信長であることを他言してはならぬと

申しておったの」

「ええ。それは、あなたがこの時代でも伝説のヒーローだからです。あまりにも

信長という名前は有名なので、もし、自分が信長で、ここに生きているなんて言えば

頭がおかしい人と思われて精神病院に連れていかれるかもしれないからです」

「つまり、牢に入れられるということじゃな」

「まぁ、そのようなものです」


信長は、ワイングラスをテーブルに置き、頭をかかえる。

「わしは、あの時、死ぬべきだったのだ。これからどうすれば…」

「まずは、すべてを知り、この時代でどう生きるかを学ぶことからですね。

本能寺の変の後、この日本がどうなったかを、私がお教えしましょう」

「かたじけない、高井殿。で、何から学ぼう?」

「まずは、本能寺へ行きましょう!もう明智勢はいないですからね。

安心していきましょう」


信長は高井を睨み、固まる。

苦笑いで信長に答える高井。

「冗談ですよ」


現在の京都、本能寺。門をくぐって境内に入っていく信長と高井。

信長は、お寺の本堂を不思議そうに見ている。

「これは本能寺ではない。高井殿、なぜわしをここに?」

「おっしゃる通りです。信長さまが襲われた本能寺は、ここから少し西の方に

あったのですが、ご存知のように明智勢に焼かれました。この本能寺は

その後、ここに再建されたのです」


信長公廟の前にやってくる二人。信長が、自分の墓を見つける。

「これはわしの墓じゃな。奇妙なもんじゃ。わしは、こうして生きておるのに。

誰がこの本能寺を再建したのじゃ?」

「秀吉です。中国から急ぎ戻った秀吉が、明智光秀を討ち、信長さまの仇をとったのです」

「抜け目のない猿じゃの。そして、猿はどうなったのじゃ」


信長と高井は、大阪城が上から見渡せるビルの展望室にやって来る。

信長はガラス越しに、現在の大阪城を見て、ため息をつく。

「はぁ〜。なんと大きな城よ。これがあの猿の城か?」

「本当は、この数倍の広さがあったらしいですよ」

「そうか。安土城より大きのか。猿が、わが織田家に代わって天下をとったのだな。

力あるものが天下を納める習いとはいえ、わが織田家は情けないのう。

せめて信忠が生きておれば」

「でも秀吉の天下もそう長続きはしなかったんですよ」


信長は、大阪城から横にいる高井の方に振り向く。

「どういうことじゃ(大きな声で)」


展望台にいた、カップルやファミリーが一斉に信長と高井を見る。

高井は、周りの人々に軽く謝るように頭を下げて、信長を諭す。

「もう少し静かに話しましょうね。周りの迷惑になりますので」

「申し訳ない。それで秀吉はどうなった?」

「秀吉の晩年に生まれた嫡男、秀頼というのがいたのですが。秀吉が亡くなってから家康に

攻められて滅ぼされました。その後は徳川幕府の天下が250年ほど続きました」

「そうか最後に笑ったのは、やはり家康だったのか。実はわしも、本能寺の変の前には、

家康が近い将来、力を持ち、織田家を脅かす存在になると考えておったのじゃ」

「そうでしたか。その考えはある意味、ビンゴでしたね」

「ビンゴとはなんじゃ?」

「その通りということです。これも現代の言葉の勉強ということで」

「あいわかった。どんどん新しい言葉もお教え願いたい」

「わかりました。じゃ、ここで一旦、家に帰りましょう」


信長と高井は展望台を後にする。

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