表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノブヒデ 令和・笑いの乱  作者: ハッシャン
37/37

第36話:抜け穴

 慶長20年(1615年)5月6日。夕刻、大坂夏の陣は、終焉を迎えようとしていた。

 大阪城本丸には、天守、御殿問わず、至る所に徳川の砲弾が着弾している。砲撃の精度は低いが、本丸御殿の廊下を逃げ惑う侍女たちは、砲撃の音が鳴るたびに耳を抑え、悲鳴を上げている。


 本丸御殿の大広間では、秀頼が若い二人の小姓の手を借り、次々と鎧の袖や胴を外し、薄汚い浪人のような着物に着替えていく。

 一通り着替え終えた時、外で大きな砲弾が着弾した音が鳴る。小姓たちや、鎧を片付けている侍女たちは、一瞬、広間の襖の方を見て、手が止まる。秀頼も、少し身をかがめるが、颯爽と立ち上がり周囲の者に檄を飛ばす。


「皆の者!怯むでない! 敵の砲撃は、いつまでも続くわけがない! 怯むな!!」


その声を聞いて小姓の一人が、大きな声で叫ぶ。


「上様が申されたとおりぞ! 最後まで、上様をお守りするのじゃ!」

「おぅ!!」


 その時、小姓たちの威勢のいい声を掻き消すように、大広間の屋根を破り、砲弾が着弾。

 ドーンという大きな音に続いて、柱などが崩れる音が入り乱れ、大広間はあたり一面、前が見えなくなるような粉塵に包まれる。


 しばらくして、粉塵は収まり、床に倒れていた秀頼は意識を取り戻し、ゆっくりと頭を持ち上げる。

 すると広間の天井は崩れ、多くの侍女や小姓たちが折れた巨大な梁や柱の下敷きになっている風景が秀頼の目に飛び込んでくる。

 秀頼のすぐそばには、先ほど威勢よく侍女たちを鼓舞していた小姓が、頭から血を流し、柱の下敷きになって倒れている。秀頼は、急いで小姓のそばに駆け寄り、意識を取り戻させようと小姓の体を揺する。


「亀介!しっかりせい!亀介!!!」


 亀介というその小姓は、秀頼の声に反応して少し目を開けて、か細い声で口を開く。


「上様…。無念でございます。せめて上様だけでもお逃げください。私は、もう‥」


 亀介は、最後まで伝えることができず、目を閉じ、息を引き取る。


「亀介ーーーー!」


 亀介を抱きしめ、涙する秀頼。そうしている内に、大広間の瓦礫の中から生き残った侍女が、太刀を持って秀頼の

元にやってくる。


「上様、上様の太刀をお守りしておりました。お持ちくださいませ」

「すまぬ。そちら女子らは、もうこの城を離れよ。敵も女子には手を出すまい」

「いえ、上様こそお先に」

「いや、女子らを連れて先に行け!」


 秀頼と侍女がそう言い合っていると、突然襖が開き、陽の灯りを背に武者たちのシルエットがあらわれる。

 武者たちは、広間に足を踏み入れると、秀頼の前で片膝をつく。その武者たちとは、秀頼と同じく薄汚れた着物に振り分け荷物を身につけた真田信繁とその従者であった。


「上様!ご無事で何よりです」

「おぅ、信繁。そちも無事でよかった。では、参ろう!」

「はい!」


 秀頼は、侍女が差し出した太刀を取って立ち上がり、信繁の従者の案内で大広間から廊下へ出る。


 廊下は、逃げ惑う侍女たちや、小間使いの男などで溢れており、誰一人、秀頼を意識する者はいない。

 信繁と従者は、人を払い除けながら廊下を進んでいく。

 廊下の突き当たりで三人は、庭に下り、大きな蔵に向かう。従者は、蔵の前で立ち止まり、袖から鍵を取り出し、蔵の入り口にかけられた錠前をはずし、鉄製の大きな両開きの扉を開ける。そして次に現れた引き戸を開け、信繁と秀頼を中に誘う。


「上様、信繁さま。こちらにございます。さぁ早く!」

「あいわかった」


 信繁はそう答え、秀頼とともに蔵の中へ。従者は、蔵には入らず、信繁に別れの挨拶をする。


「信繁さま、私はこれで。ご無事をお祈りしております」

「わかった。外を頼むぞ!」

「御意!」


 そう言うと従者は、蔵の引き戸を閉め、さらに鉄の扉を閉めて、敵の侵入を防ぐために施錠する。

 蔵の中は一瞬、暗くなるが、蔵の上にある窓の格子から差し込んでいる日の明かりが、蔵の床を照らし出していた。信繁はその明かりを頼りに、蔵の角に向かう。秀頼もおそるおそる蔵の角に近づくが、そこには扉らしきものは見当たらない。


「信繁、どこに入り口があるのじゃ‥」

「ご案じめさるな」 


 信繁は、蔵の角の床板を3度叩く。


「上様。少し離れましょう」


 すると床板が扉のように信繁の方に向かって持ち上がり、大きな音を立ててドンという音を立て開く。

 ゆっくりと、床に開いた穴を覗き込もうとすると、下から男が顔を出す。


「上様、真田殿、お待ち申しておりました。さぁ!」


 男は、先ほどまで一緒に家康の陣を攻めていた、信繁の親友、毛利勝永であった。勝永も、一目につかないように汚れた着物を着て、顔も野良仕事を終えた農民のように汚している。


「おう、勝永! 大義じゃ。これが、太閤殿下が隠されていた抜け穴の入り口か」

「はい上様。かつて、太閤殿下が、真田殿だけに伝えられたという抜け穴でございます。完全無敵の大坂城ではありましたが、万が一のことを考え、太閤殿下が作らせたとのこと」

「今こそ、殿下の力におすがりしましょう。この天下一の抜け穴こそ、豊臣再興の引き金になりましょう」

「そうじゃな、信繁、勝永。では、参ろう!!」

「(信繁、勝永二人で)御意!!」


 勝永の案内で、ろうそくの明かりで照らされた抜け穴の中へ、梯子を使って降りていく秀頼、信繁。そして最後に扉から抜け穴の中に垂れている綱が引かれ、、ドンという大きな鈍い音をたて扉が閉じられる。誰もいなくなった蔵の中には、その残響だけが残っていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ