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ノブヒデ 令和・笑いの乱  作者: ハッシャン
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第35話:すれちがい

 ノブさんとヒデさんは、大阪城のツアーを終え、大阪府警前の交差点で信号待ちをしていた。

 ヒデさんは、何かノブさんに言いたそうに、チラチラとノブさんを見る。そして思い切ってノブさんに告げる。


「あの〜、ノブさん」

「どうした?」


 もじもじして、次の言葉がなかなか出てこないヒデさんに痺れを切らして、ノブさんがヒデさんに詰め寄る。


「だから何やんねん、ヒデちゃん」

「いや〜、もう店の仕込みがあるし、帰らなあかんから、怒られるかなぁ〜と思って」

「大丈夫!今日は、早めに由美ちゃんも来てくれるし。何や、言うてみ」

「ほんなら、言いますね。実は、珠が最後を遂げたと言われている場所に行って、手を合わせたいと思いまして。ここから近いと本に書いてあったんで、地図をコピーしてきました」


 そう言って、ヒデさんはリュックから地図のコピーを取り出し、ノブさんに見せる。

 ノブさんは、目を閉じて少しの間、何か考えている様子。そしてポツりと独り言のようにつぶやく。


「そうか、あれからヒデちゃんなりに調べてたんやな。わしは、珠ちゃんが忠興殿に最後まで大事にされたとは言ったけど、自害のようにして亡くなったとは、さすがに口にできひんかった…」

「すんません、私に気を使っていただいて。でも、いいんです。どんな最後を遂げようとも、それが武家の娘らしく亡くなったのであれば、立派なこと。私にできることは、その場所に行って、ただ手を合わせることだけです」


 その言葉を聞いて、ノブさんは右手の拳で、ポンと左手の手のひらを叩いた。


「よし! ヒデちゃんの気持ち、痛いほどよくわかった。わしも一緒に行くで。実はその場所、越中井というとこやろ?」

「よくご存知で」

「実はわしも、珠ちゃんのこと言うてから、その後どうなったかをスマホで調べたことがあってな。ぶらっと散歩がてらに行ったことがあるねん。だから道案内するで」

「ありがとうございます、ノブさん」

「ほな、行こか!」

「はい!」


 二人は、交差点の信号が変わると、難波宮の方に向かって足早に横断歩道を渡っていく。




 その頃、大阪城から1kmほど南にある、細川ガラシャ邸跡の越中井では、買い物用のエコバックの持ち手に腕を通した珠江が、自分の辞世の句が彫られた石碑に向かって両手を組み、祈りを捧げていた。


「家中の皆、安らかにお眠りください。珠は、この命、大事にしてまいります」


 最後に珠江は、右手で十字を切り、振り返る。


「さぁ、ケーキ買って帰らなきゃ…」


 珠江は、越中井前の交差点の横断歩道前に行き、信号が変わるのを待っている。

 その時、珠江が向かう方向とは反対の、北側の歩道の遠くに、ノブさんとヒデさんがあらわれる。二人はどんどん越中井に近づいてくるが、珠江は、信号が青に変わるのを見て、横断歩道へ歩き出す。

 

 ノブさんとヒデさんの二人は、珠江こと珠が、そんなに近くにいることも気づかずに、越中井の石碑の前にやってくる。


「ここやなヒデちゃん」

「忠興殿の屋敷の井戸ですな。このあたりで、敵に囲まれて…。珠、ようやったのう」

二人は、珠の辞世の句を確認し、石碑に向かって手を合わせる。

 

 ノブさんは、手を合わせているヒデさんを横目に、史跡の言われが書いてある看板に移動して目を通していく。


「そうか、珠ちゃんは敵の人質になると忠興殿に申し訳が立たないと思い、家老に切られて亡くなったんか。わしの好きなキリシタンは、自害を許さへんからな。かわいそうやったな‥」


 ヒデさんは、ようやく石碑の前から動き、ノブさんの横に来る。


「いいえ。珠は幸せだったと思います。死ぬことで愛する忠興殿を守ることができる、これで謀反人の娘という汚名から解き放たれるという幸せに満ちていたのだと思います」


 そう言いながら、涙が頬を伝っていくヒデさん。ノブさんは、そんなヒデさんをリラックスさせるように近づいてヒデさんの肩を揉み、やさしく声をかける。


「そやな。もうスッキリしたか?」

「はい!」


涙を手で拭うヒデさん。ノブさんも少し涙ぐんではいたが、そんな空気を変えるように、元気よく、明るく振る舞う。


「ほな、帰ろか!!」


 越中井から少し前に離れて行った珠江は、だいぶ越中井から離れた南側の歩道で立ち止まってスマホを見ていた。

珠江はスマホのメッセージの確認を終え、歩き出そうとして、チラッと越中井の方に振り向く。

 その時、遠目にノブさんとヒデさんが越中井から横の歩道に出て、珠江とは反対側の大阪城の方に向かって歩いていくのが見えた。


「へぇ〜、私の石碑を見に来てくれる人もいるんだ…。ありがとう」


 珠江は、そう呟き、南の方に向けて歩き始める。今見た男の一人が自分の父親だとは、珠江には知る由もなかった。


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