第32話:ボランティアガイド
11月末ながら、初春のような陽気で、遠足日和のような朝の大阪城大手口。
大手門に通じる橋の袂に立っている大阪観光ボランティアガイド協会の看板前には、ボランティアガイドと書かれた黄緑色の法被を着た白髪の男性と、70代の仲の良さそうな品のいいオシャレな老夫婦が楽しそうに会話を弾ませていた。ガイドの男性は、首からぶら下げたタブレットで、自分のプロフィールなどを老夫婦に見せている。
大手口に近いバス停付近から、走ってくるノブさんとヒデさん。
二人は集合時間に遅れまいとして、悲壮な表情でガイドと老夫婦の元に向かっている。
白髪のガイドは、二人に気付き、こっちこっちと手招きする。
二人はやっとの思いで、今日の大阪城ツアーの集合場所に到着。ノブさんは、ハァハァと息を切らしているが、少し落ち着いたところでガイドの男性に詫びる。
「す、すんません。集合時間の10時半を3分ほどすぎてしまって。申し訳ないです。ほら、ヒデちゃんも謝って」
「ほんまにすんません」
ヒデさんにも、頭を下げるように促すノブさん。
ガイドの男性は、ノブさんの方に手をかざし、「まぁまぁ」という感じでノブさんの行為を止めようとする。
「いいんですよ、そんなに気にしなくても。今日は、ここにいる4人のツアーですから、のんびり行きましょう」
その様子を見ていた老夫婦の奥さんも、ノブさんに優しく話しかける。
「少し、ここで休んでからでいいですよ、私たちも待ちますから…」
「そうだね。息が整ってからにしましょうね」
ノブさんは、老夫婦の東京弁のイントネーションに少し違和感を感じながら、提案を快く受け入れた。
「ありがとうございます。ほんなら、ちょとだけ休ませてもらいます」
ノブさんはそう言うと、リュックのサイドポケットから、小さな水筒を取り出し、一口お茶を飲む。
ヒデさんもノブさんがお茶を飲むのを見て、同じようにペットボトルの水をリュックから取り出し、ゴコゴク飲み始める。
二人は、お茶や水を飲み終え、急ぎ水筒やペットボトルをリュックにしまいこみ、ガイドの前でシャキッと気をつけをする。
「ハイ!もう大丈夫です。それではガイドをお願いします!!」
「右に同じ!」
ガイドの男性や老夫婦は、ノブさんとヒデさんが兵士が隊長に向かって話すような態度をとったので、少し引いてしまう。
「わ、わかりました。なかなか復活が早いですね。では、今から始めましょう。みなさん、大阪城大手口ツアーにようこそ。まずは、あちらに見えます大手門へ向かいましょう」
ガイドは、背後に見える大阪城大手門を指差し、5人は大手門の方へ歩き始める。
橋を渡り、大手門に近づく一行。ガイドは大手門の前で足を止め、ついてきた4人の方に振り返り、大手門について話し始める。
「こちらが大阪城のメインゲートであり、現存する最も古い建物である大手門です」
ノブさんは、ガイドの話を聞きながら、ポケットから小さなメモ帳を取り出し、メモをとり始める。
さらにガイドは、自分から向かって右側の方に見える櫓を見て、解説を続ける。
「そしてあちらに見えますのが、千貫櫓です。戦で大手門に近づいた敵は、あの櫓から矢や鉄砲の玉を浴びせられ、集中攻撃を受けます。なので敵は、大手門を打ち破る前にやられてしまうのです」
その話を聞いてノブさんが、ボソッと独り言を言う。
「えらい防御ができてんねんな、この城は。安土城より凄いかもしれんな…」
その言葉を聞いてヒデさんが、ノブさんの耳元でささやく。
「なかなかやりますな、秀吉も」
「ああ」
軽くうなずくノブさん。ガイドはさらに解説を続ける。
「あの千貫櫓もこの大手門と同じ時期に作られた古い櫓です。創建は、大阪城再建時の1628年になります」
ガイドの話を聞いて、ちょっと納得がいかないような顔になる老夫婦のご主人。彼は、ガイドに向かって自分の顔の高さまで手を挙げる。
「あの、ちょっといいですか?」
「はいどうぞ」
「大坂夏の陣は、確か1615年ですよね」
「その通りです」
「1628年というと、豊臣が滅びてから作られたということですか?」
「正解です。よく大坂夏の陣の年までご存知でしたね」
「ありがとうございます。戦国時代とか安土桃山時代の歴史が好きなもので…」
ちょっと照れくさそうにしているご主人の横で、ノブさんのメモを取る手が急に止まる。
「どういうこっちゃ?」
ノブさんは、ポツりとそう言った。
「実は、このみなさんが見ている大阪城は、門も櫓も石垣もすべて徳川時代に作られたものなんです。豊臣大阪城は、先ほど質問にありましたように、大坂夏の陣で落城しました」
ガイドは、背後に見える大手門や右手に見える千貫櫓、大きな堀を指し示しながら得意げに自分の知識を披露していく。
その話を聞いてヒデさんが、ノブさんに一声かける。
「ノブさん、ここですよ、番組の最初に出てきた話は」
「そやな。よし!しっかりメモとるで!」
ノブさんは、ガイドが次に話す内容を聞き漏らすまいという気持ちで、しっかりとペンを持ち直した。




