第31話:大阪城は苦手?
テレビ局からアパートの一室に帰宅したノブさんとヒデさんは、小さなコタツテーブルを囲み、ADの田中からもらった台本を読んでいた。ノブさんは、安土城紹介の最初の部分、MCのアナウンサーがノブヒデに突っ込む部分に差し掛かる。そこには、アナウンサーのセリフと続いてノブヒデが答えるという箇所が、ラインマーカーで塗られている。
ノブヒデが答えると書かれた文面の横は、何行か空欄になっており、書き込めるようになっている。
ノブさんは、少し台本から目を外して考え事をするが、すぐに何かを思いつき、ヒデさんに声をかける。
「ヒデちゃん、ちょっとここのアナウンサーの部分をやってくれへんか?」
ノブさんはそう言って、台本のアナウンサーのセリフを指さす。
「わかりました」
「ほんで、わしがボケたあと、ヒデちゃんなりに突っ込んでくれるか。なんでもええから」
「御意!」
ヒデさんは、ノブさんの台本を覗き込み、アナウンサーのように喋る。
「第3位は、織田信長の城として有名な、ここ安土城です。戦国時代の城のほとんどは、この安土城が原点と言っても過言ではありません。でも、この城の寿命は短かったんですよね、ノブさん!」
そのセリフを聞いて、台本を手に持ったノブさんが答える。
「そうやなぁ〜、信長やったら、こういうてると思うわ」
そう言うと、急に扇子を持ったように手を顔の前に上げ、能楽の「敦盛」を舞う。いつもの「人間50年」の部分を。
「安土城6年〜 下天の内とくらぶれば〜 夢幻のごとくなり〜」
ノブさんが、そういい終わると、少しだけ考える間をとって、ヒデさんがつっこむ 。
「ゆ、有名な城にしては、 短すぎるやん! 誰が燃やしてん? はっきりして〜」
ヒデさんのつっこみを聞いて即座にノブさんが、笑顔で感想を述べる。
「ええやん、それでええねん。だれが燃やしてん〜をつけたとろが、ミステリー要素が出ていい感じやん」
「ありがとうございます。安土城のことなら、どんな振られ方しても どんどんいけますね」
「そりゃそうや、わしの城やもんな。ヒデちゃんもよう知っとるやろ」
「ええ」
大きく頷くヒデさん。ノブさんは、少し不満そうな表情になり、手に持っている番組台本の感想を述べる。
「そやけどなヒデちゃん。わし思うんやけど、安土城紹介部分で、アナウンサーがわしらに振ってくれる部分ってそこだけやん。あとは、アナウンサーや歴史評論家の話に、適当に話を合わせてるだけで、わしらのええとこあんまりで出てこないやんか。安土城ならもっと話せることあるんやけどな」
「でも、ノブさん、1位の大阪城紹介では、我らの持ち味が活かせられる部分が4箇所もありますよ」
と言ってヒデさんは、台本の大阪城紹介部分のページをノブさんに見せる。そこには、アナウンサーのセリフとしてこう書いてあった。「実はこの大阪城、豊臣時代の大坂城とは姿も石垣も違うんです。そうですよね、ノブさん」と。
それを見たノブさんは、考え込んでしまい、少しの間、沈黙する。
ノブさんが黙り込んで、固まってしまったので、ヒデさんがノブさんの肩に手をあて体を揺する。
「ノブさん、どうしました?
するとノブさんは、ハッと我に戻り、ヒデさんの方に振り向き、喋り出す。
「あっ、すまんすまん、ヒデちゃん。実は、わし、ほとんど大阪城のこと知らへんねん。ヒデちゃんもわしも、いなくなってからサルが建てた城やろ。この時代にタイムスリップした直後に、高井オーナーと一緒に見ただけやねん。そやから
ちょっと大阪城のこと勉強せなあかんな」
「そうですなぁ。でも、番組の収録は、あと2週間後でしょ」
ヒデさんも、言い終えてから、少し考え込む。そして、突然、あることを思い出す。
「そういえば、この前、かんごーずの二人も言うてましたけど、大阪城では、ボランティアのガイドがいて、ただで大阪城をガイドしてくれていろんなことを教えてくれるそうですよ」
「そりゃ、ええこと聞いた。その方が、本で調べるより、現物見ながら知識も備わって、いいボケ出るかもやな」
「きっと出ますよ」
するとノブさんは、徐に、こたつテーブルの下に置いてあったスマホを取り上げ、調べ物をする。スマホの画面には、大阪城ボランティアガイドのサイトがあらわれる。
「よし、あった。ここからガイドの予約をするで」
ノブさんは手にスマホを持ったまま、ヒデさんの方を見る。
「ガイドしてもらうのは、今度の土曜日にしよか」
「ええ」
「時間は、10時30分の回にするな」
「はい」
そう言ってノブさんは、スマホで土曜日の10時半のツアーに2名の予約を入れる。
「よっしゃ、これで完了や」
「いや〜、完璧にスマホを使いこなしてますね〜。私は、なんか苦手で‥」
ノブさんは、そう言われて嬉しそうな笑顔になる。
「新しいものは、すぐに自分のものにする。そして、使いこなす。これが信長の信長たるゆえんやな」
「よっ、天下一!」
「もうヒデちゃんたら、おだてるからすぐに〜」
少しふざけて、オカマのようなもの言いで答えるノブさん。 その気持ち悪さに少し引いてしまうヒデさん。
「は、はい。すんません‥」




