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ノブヒデ 令和・笑いの乱  作者: ハッシャン
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第29話:信繁の凱旋

 慶長20年(1615年)5月7日。大坂夏の陣の大坂城も未の刻(午後1時すぎ)を迎えていた。

 大坂城の惣構にある静まり返った屋敷群の道を、赤揃えの鎧を着た武者二騎が大坂城に向かって一目散に馬を走らせている。先頭を行く武者は、真田信繁。手に持った槍の先に白い布包みを括り付けている。その白い布には、赤い血が染み出している。信繁は、自分を護衛して後ろを走っている家臣には目もくれず、馬に気合を入れる。


「はぁ!そりゃー!」


 信繁の眼前に大坂城の大手門が見え始めた頃、毛利勝永が率いる10騎も信繁に追いつく。

 勝永は、信繁の横に並び、大声で信繁に話かける。


「真田殿! とうとうやりましたな!!」

「おう!毛利殿。そなたもご無事で何よりじゃ!」

「これで我らの方に、勝機が見えてきましたな」

「いや、そうとも言えんぞ! 将軍秀頼が健在である限り!」

「そうじゃな。真田殿は、何か策をお持ちか?」

「おう、もっておるとも、毛利殿」

「わかった!わしは貴殿を信じておるぞ!!」


 信繁は、ちらっと勝永の方を見て笑みを浮かべる。

真田と毛利の騎馬、合わせて12騎は、一斉に大手門を抜け、本丸に通じる桜門へ迫っていく。


 その頃豊臣秀頼は、天守最上階の屋内から廻縁に出て、遠方にて徳川の軍勢が慌ただしい動きを見せている様子を眺めていた。しばらくして下を見ると、ちょうど赤揃えの武者を先頭に11騎の武者が天守の入り口付近に到着。それを確認した秀頼は、屋内に戻る。屋内の板の間には床机椅子がいくつかあり、鎧を身に纏っている淀の方や大野治長が座っている。秀頼は、淀の方の横にある床机椅子に座る。

少しして天守最上階に通じる階段から、伝令が姿をあらわし、秀頼の前に跪く。


「申し上げます。只今、真田殿、毛利殿がお戻りになりました!」

「よし、通せ!」

「はっ!」


 伝令は、再び階段を降りていく。すると入れ替わりに、兜を脱いで手に白い布包を持った真田信繁と毛利勝永が階段から姿を現し、秀頼の前に着座。掌を床につけ深く頭を下げて帰還の挨拶をする。


「只今戻りました」

「信繁、勝永、よう戻った。大義じゃ」


 秀頼は、信繁と勝永に労いの声をかけ、続いて白い布包みに目を移す。


「その包みは、まさか家康か…」

「はい。お方さまが獲ってこいと申された家康の首でございます」


 そう言うと信繁は表を上げ、白い布をほどき、家康の首を天守にいる秀頼、淀の方、大野治長に披露する。秀頼は、その見覚えのある顔を食い入るように確認していく。淀の方は一瞬、驚愕の表情を浮かべるが、次第に笑顔になっていく。


「これは、まさにわしが知る家康の首。ようやった真田」


 秀頼の言葉に間髪入れずに、勝永も発言する。


「拙者も、真田殿が家康を討つ様をこの目で見ました。間違いございません」

「これでわが方に流れが傾くな。のう!信繁」


 信繁は、すぐに秀頼には答えず、しばらく自分の中で物事を整理してから口を開く。


「上様。あの憎き家康の首をとったことは、我が方にとって大きな成果であり、徳川勢の動きを、しばらくの間止めたことには間違いありませぬが、されど戦況は大きく変わりませぬ」

「なぜじゃ真田。これはあの家康の首ぞ‥」


 秀頼の意見に賛同するように、淀の方も信繁に意見する。

 

「徳川方が乱れておる今こそ、こちらから大攻勢をかけるのじゃ。この機に上様自ら出陣されれば、豊臣の兵の士気が一気に高まり、徳川を滅ぼすこともできようぞ!」


 信繁は、一呼吸おいてから、ゆっくりと淀の方に答える。


「これは、奇異なことを申される。上様の出陣を誰よりも拒んでおられたのはどなたでござるかな?」


 信繁の淀の方を軽んじる物言いを聞き、怒りの表情を浮かべる大野治長が床机椅子から立ち上がり、信繁を恫喝する。その手は自分の太刀にかかっている。


「真田殿、お方さまに無礼であるぞ!」


 秀頼は、今にも信繁に切り掛かりそうな大野治長を諌める。


「やめんか治長! 今は身内で争っている場合ではない!」


 秀頼は、信繁の方に振り返り、信繁の意見を聞こうとする。


「どういうことじゃ信繁。家康の首をとっても流れが変わらんとは?」


 ちょうどその時、再び伝令が天守最上階に現れ、跪き、戦況を伝える。


「上様に申し上げます。徳川勢は、真田がとった首は大御所さまの影武者の首と触れ回っており、こちらへの攻勢の手を休めておりませぬ、我が兵は全軍、本丸まで撤退。徳川勢はすでに本丸近くにまで迫ってきております。秀忠の陣では、大筒5門から10門の支度が整いつつあり、本丸、さらには天守への砲撃を行う模様!」

「だれが、撤退命令を出したのだ!」

「ははぁ」


 伝令は、何も言い返すことができずに、その場で平伏する。その様を見た秀頼も言葉が出ない。

 信繁は伝令の側に近づき、伝令に労いの言葉をかける。


「大義であった。行け!」

「はっ!」


 すると伝令は、足早にその場を去っていく。

 伝令の姿が見えなくなると、信繁が口を開く。


「ということでございます」


 秀頼は、再び信繁の方を見て、焦燥感に満ちた表情で話す。


「何が言いたいのじゃ?」

「将軍秀忠も、家康以上に策士ということです。家康の首は、今や徳川勢において大きな意味を持ちませぬ」

「では、どうすればいいのじゃ。このままでは、豊臣の存亡にかかわるぞ」

「今は、一度退くのがよろしいかと」


 秀頼だけでなく、淀の方も、大野治長も不審そうに信繁を見ている。


「どういうことじゃ? この城を捨てよと申すか?!」

「答えようによっては、ただでは済まぬぞ、真田殿!!」


 再び、大野治長が太刀に手をかけ、信繁に迫る。

 治長と信繁の間に、とっさに入り、治長を止める勝永。


「お辞めくだされ、大野殿。真田殿の物言いは、策があってのこと。まずは、真田殿の策を聞きましょうぞ」

「よし言うてみよ。その策とやらを」


 勝永は、信繁の横に座り、「私は貴殿を信じている」という気持ちを目で信繁に伝える。


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