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ノブヒデ 令和・笑いの乱  作者: ハッシャン
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第27話:ウインウインの関係

 ある晴れた日の昼、大阪市内にある大きな公園で、ベンチで会社員と思われる男性や女性たちが同僚たちとコンビニの弁当や思い思いの食事を楽しんでいる。

 公園のすぐ隣には、最上階に放送用のパラボラアンテナを備えたビルが見える。なにわテレビの本社である。

 正面玄関前には、スマホの時刻を気にしながら誰かを待っている、芸能事務所の社長、中川がいた。


 中川は、リュックから小さな水筒を出して一口飲もうとした時、ノブさんとヒデさんが息を切らしながら走ってくる。

 ノブさんは、ハァハァと言いながら、呼吸が整ったタイミングで中川に話しかける。


「すいません、社長、おはようございます! 本日はよろしくお願いします!」


 中川は少し、心配するような目でノブさんに話かける。


「大丈夫ですか。そんなに急がんでも、打ち合わせの時間まで余裕ですよ。何かあったんですか?」

「二人で漫才の練習してましたら、すっかり時間を忘れてしまい…」

「熱心なことですね。それじゃ、お二人に、これを」


 中川は、ノブさんとヒデさんに、首にかけるテレビ局の入管IDカードを渡す。

 そのカードを不思議そうに見ているヒデさん。社長に質問する。


「社長、これはなんですか?」

「これは、このテレビ局に入る時、玄関で機械にタッチするカードです。電車乗る時にタッチするカードと同じようなもんですよ」

「カードで電車乗ったことがないもんで」


 ヒデさんの言葉を聞いてノブさんも同意する。


「わしも、切符以外で電車乗ったことないわ…」


 一瞬、めんどくさいなぁという表情を見せる中川。


「わかりました。とりあえず、私についてきてください。教えますから」

「ありがとうございます」


 中川社長は、二人をテレビ局の玄関に誘導する。



 数分後、中川とノブヒデの3人は、白い壁が続く局内の廊下を歩いてくる。時折、いくつかある打ち合わせルームのドアが開き、スタッフやタレントが出てくる。

 3人は、マネージャーと何か話しながら歩いてくる可愛いアイドルの女の子とすれ違う。ノブさんはアイドルの女の子を目で追っていく。そして嬉しそうな表情でヒデさんの肩を叩く。


「今の子、見たか?  今、絶好調のアイドル、ミカりんやで」


 興奮気味に話すノブさん。しかしヒデさんは何事もなかったように答える。


「わし、知りませんわ。まだこちらにきて浅いもんで」

「ほんま、ヒデちゃんは、たまちゃんのことばかりやもんな」

「何、ごちゃごちゃ言うてるんですか。つきましたよ、ここですよ」


 中川社長は、ミーティングルームDという名札のドアの前で止まり、ドアをノックしてから開ける。

 3人は、ミーティングルームの中に入り、中川社長が挨拶をする。


「おはようございます、漆原さん。ノブヒデの二人組を連れてきました」

「おはよう! それは大義であった!なんてね」


 漆原は少し、ノブヒデに合わそうと、時代劇風のセリフで戯ける。

 ヒデさんも続いて挨拶をする。


「おはようございます」


ノブさんもヒデさんに続く。


「おはようございます。よろしくお願いします」


 部屋の中では、長テーブルの誕生日席に洒落たメガネをかけたプロデューサーの漆原(45歳)が座っており、ディレクターの松岡(36歳)、そしてADの田中(女性・27歳)が、その両側にいる。

 ADの田中が、自分の隣の席を指し、中川社長とノブヒデの3人に着席を促す。


「どうぞこちらへ」

「はい、ありがとうございます」


 中川社長に続いてノブさん、ヒデさんも席につく。そして空かさずADの田中が、局側の人間を紹介する。

まず、漆原を手で指し示す。


「こちらが、今回の番組のプロデューサーの漆原です」


 漆原が軽く頷く。次に松岡を紹介する。


「そしてこちらが総合演出の松岡です」

「よろしくね」

「よろしくお願いします。では、私から。私はノブヒデのノブの方です」

「もう知ってるよ。あなたがノブでお隣がヒデでしょ」

「そうです。そりゃどうも」


ノブさんは、恐れ入りましたという表情で松岡に会釈をする。続いて漆原が口を開く。


「中川さんから、ライブのビデオ、見せてもらったよ。いや〜、なかなか今までになかった漫才だよな。変わってるというか、個性的というか…。特に、信長に成り切っているところがいい。ハリセン芸は昔あったけど、今の若者は知らない

から案外新しく感じるかも。それに侍の刀ぽくて面白いし」

「うれしいです。ハリセン芸を褒めていただいて。ねぇ、ノブさん」

「ああ。それでノブヒデの漫才をテレビで取り上げていただけるんですか?」

「まぁ、そうとも言えるし、そうとも言えないかもな。松岡、説明してあげて‥」

「はい。二人に、企画書を」

「わかりました」


田中が、ノブさんとヒデさんに企画書を渡す。その企画書の表紙には、「城一(シロワン)グランプリ 乱世一番の城はどれだ!」という派手なデザインのタイトルが印刷されている。ノブさんとヒデさんが、その企画書をめくり始めた時、松岡が番組の概略を話しはじめる。


「実は、戦国から安土桃山時代の城のナンバーワンを決める番組がありまして、ノブヒデにそのウチの3位と1位の城のサブレポーターをして欲しいんです。ノブさんには、信長がしゃべっている感じで。もちろんヒデさんも面白いつっこみとハリセンの芸を披露してもらって」


 ノブさんとヒデさんは、まだ少し理解できていない感じで、企画書をめくっていく。すると第三位の城が安土城。第二位の城が、関東の小田原城、第一位が大阪城と書いてあるのを目にする。

 ノブさんは、安土城は第三位になっているのを見て、少し顔色が曇る。そして心の中でこう叫ぶ。


「わしの城がサルの城にまけんてんのか〜い!」


 ノブさんは、少し強めの口調で松岡に質問する。


「なんで、信長の城が第三位で秀吉の城が第一位なんですか?」

「ノブさん、やめときなさい!」


ヒデさんは、ノブさんがムキになるのを止めようとする。その様子を見て松岡は笑みを浮かべて答える。


 「いいですね〜信長愛が強くて。そう、その成り切り感がいいんです。実はこの順位は、全国の1万人の視聴者アンケートで決まった結果なんですよ」

 「まぁ、それやったら仕方ないですな」

「それでね。安土城と大阪城を紹介するときに、ノブヒデに出てもらいたいんですよ。信長になりきって、かつての自分の城と、家臣の秀吉の城のすばらしさを信長風に言ってもらいたいんです。これは大阪ローカルではありますが、正月特番なんで、我々h特に力を入れている番組なんです。よろしくお願いします」


 ノブさんは、腕を組み少し考える。「まだプロでもない俺たち二人で、そんな番組を進行できるのか」と。

 ヒデさんも企画書を見ながら、こりゃ大変だという顔をしている。

 少し元気がなくなった二人を見て、ADの田中が助け舟を出す。


「悩まなくても大丈夫ですよ。ウチのアナウンサーが基本的な進行は行いますから。アナウンサーが言ったことに、「信長やったらこういうと思うわ」と返してもらえばいいだけです。そのアナウンサーの前振り内容や、信長の答え部分も作家さんが作っておきますから、それを見てアレンジしてもらうだけで大丈夫です」


 田中のその言葉を聞いて、急に笑顔になるノブさんとヒデさん。

 すると突然、漆原が立ち上がりノブヒデの後ろにやってきて、二人の肩に手を置く。


「そういうことです。あとは目一杯、あのライブのようにノブヒデらしいノリ、全開でお願いしますね。作家の台本に意見がありましたら、どしどし言ってください。番組の成功とノブヒデの知名度アップのウインウインでいきましょう!ね!!」

「ありがとうございます」

「ハリセン芸も、もっと磨いておきます!」


ノブヒデの二人を見ている中川社長の顔にも、安堵の色が浮かぶ。


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