第25話:新たな誓い
名神高速道路を京都から名古屋方面に向かう上り車線。
澄み渡った青空の下、山間の区間を1台の黄色がかわいい軽のミニバンが走ってくる。
運転しているのは、カンゴーズの佳澄。助手席にはヒデさん。後部座席には、ノブさんとカンゴーズの恵が乗っている。
車窓から、ところどころ紅葉している山を、ぼんやりと眠たそうに眺めているノブさん。
佳澄はルームミラーでノブさんの顔を確認して、声をかける。
「ノブさん、もうすぐ着きますよ、安土に」
ノブさんは、佳澄の声で目が覚めて、前を向く。
「おお、そうか。ほんま、すまんな。今日は付き合わせて」
ノブさんの横に座っている恵が、ノブさんの方へ振り向く。
「いいんですよ。私たちもまた、安土城には行きたかったんで」
「そうか。それやったらええねんけど。これから戦国漫才、もっと充実させたいので、実際の安土城も見て勉強せなと思ってな」
「でも、本物の安土城は、もうないですけどね」
「残念やな〜。絢爛豪華な城であったと記録には残ってるのにな」
少し項垂れるノブさん。恵は、ノブさんの肩をポンと軽く叩き、元気をださせようとする。
「でもノブさん、城跡の近くには、当時の天守の最上部、5、6階を再現した信長の館もあるんで、それも楽しみましょ。ねぇ、元気出してくださいよ!」
「そやな、それも楽しみやな」
しばらくして4人を乗せた車は、安土城跡前の駐車場に入ってくる。
止まった車から4人が降りてきて、ノブさんの先導で向いの安土城跡に続く道へ歩いていく。
「ノブさん、安土城跡に来るの初めてって言ってましたけど、道わかりますか?」
佳澄がそうノブさんに尋ねると、ノブさんは振り返って少し焦った感じで答える。
「いや、前もってネットで調べただけやけどね。ここは、かすみんとめぐみんに案内してもらおかな。ハハハ」
ヒデさんは、含み笑いの顔でノブさんを見ている。佳澄と恵について安土城跡の料金所に向かうノブさんとヒデさん。
ノブさんはヒデさんに近づき、小声で話かける。
「前から聞こうと思ってたんやけど、ヒデちゃんが、安土城を焼き払えと命令したんか?」
「滅相もない。それがしの預かり知らぬこと。おそらく、本能寺の変にかこつけて、野党が盗みに入り、火をつけたのかもしれません」
「そうか。疑ってすまん」
「いえ。それより、あまり城のことに詳しすぎる素振りを見せると、かすみんとめぐみんに不審がられますので、ご注意を」
「あいわかった。まぁ、自分の城やから言いたくて、うずうずしてしまうけど、我慢するわ」
一行は、料金所を通り、大手道の石段を登っていく。佳澄と恵、ヒデさんは早足でどんどん登っていくが、ノブさんはちょっと登っては立ち止まり、天守方向へ続く大手道を感慨深げに眺めている。
先頭の佳澄と恵は秀吉の屋敷跡まで到達。ヒデさんも佳澄と恵に追いつき、3人は登ってきた方向へ振り返る。するとそこには、少し離れた石段の上で止まり、石段の左右の風景をゆっくり眺めているノブさんの姿があった。
「ノブさん大丈夫ですか? もう疲れました?」
「全然つかれてへんで、かすみん。ちょっと、ここの風景をよう味わいながら登っとってん。すぐ行くで、そっちに」
ノブさんの脳裏には、天正時代に多くの武将が行き交う安土城大手道の風景が浮かんでいたが、その思いを振り切って3人の待つ場所へと石段を登り始めた。
3人は、羽柴秀吉邸と伝えられる場所の上段の入り口付近にいる。
ノブさんが、3人の元に着いた時、恵が秀吉邸と伝えられる平地で手を振ってノブさんを誘う。
「ノブさん、知ってました。ここが、羽柴秀吉さんのお屋敷跡らしいですよ。でも何の証拠も残ってないので、あくまで言い伝えの範疇ですね」
「いいや、ここは秀吉の屋敷やで」
またしてもノブさんの脳裏に、天正時代の屋敷の風景が蘇る。目の前の大きな櫓門が開き、当時の秀吉が中から顔を出した。
「上様、お早いお着きで。いかがされました。内密な話とは聞きましたが、私の方から出向きましたものを」
秀吉が自分に向かってそのように言う姿を、現実のように感じ、思い出していたノブさんだが、ヒデさんの声がして、ヒデさんに体を揺すられる動きで正気に戻り、令和の何もない屋敷跡の風景が目の前にあらわれる。
「ノブさん、どうしました!ノブさん!」
「なんか今日おかしいですよ」
「すまん、ヒデちゃん、めぐみん。ちょっと疲れてたんかもしれんな。このところ、店も忙しかったし、漫才の練習やネタづくりであんまり寝てへんかったし。でももう大丈夫や、眠気も取れて意識もしっかりした!」
その様子を見ていた佳澄が、みんなにあることを問いかける。
「そういえば、秀吉邸とか前田利家邸跡とかあるのに、光秀邸はないんやね」
「光秀は対岸の坂本城なんで、なんか用事あればすぐに船でかけつけたんちゃいますかね。一番信長さまに近い城なもんで。一番信頼された感じですかね」
ヒデさんはそう言うと、得意げにノブさんの顔を見る。
「そやね。明智光秀が、一番の家来やもんね。じゃ、行きましょう先へ」
「はい!」
佳澄とヒデさんが仲良く、元気よく大手道の石段を登り始める。急にテンションが上がった二人を見て、不思議そうに後を追うノブさんと恵。
天守台跡を目座す3人は、その前に二の丸にある「織田信長公本廟」に手を合わせる。
拝み終えてすぐに、天守台跡への階段を登っていく佳澄と恵。少し遅れてノブさんとヒデさんも続く。
「ヒデちゃん、なんか自分の墓に自分で拝むって変やな!」
ヒデさん、指を口に当ててノブさんに注意する。
「シーって。あんまり大きな声でそんなこと言わんように」
「そやったな」
天守台跡への石段を登りかけていた恵が、ノブさんとヒデさんの方に振り返る。
「何しゃべってんの。早く来てくださいよ、こっちに」
ヒデさん、小声でノブさんに伝える。
「ほら、聞こえてますよ」
「すまん、ヒデちゃん。(大きな声で) めぐみん、すぐ行くで!」
天守台跡の木々の切れ間に近づいていく4人。4人は眼下に広がる琵琶湖を眺め深呼吸をする。
「はぁ〜とうとう来たな安土城天守。気持ちええなぁ〜」
「天守は無くなっていますが、ここに来れば天下を狙える気持ちが湧いてきますね、ノブさん」
「そやな」
そこで佳澄が、ある提案をする。
「じゃここで大きな声出して、私たちの夢を叫びませんか。きっと信長も応援してくれると思います。ねぇ、めぐみん」
「そうやね、かすみん。ノブヒデもカンゴーズもお笑いの天下取りを目指しましょう! どう、ノブさん!」
「よし、ほんなら行くで、みんな用意はええか? 『お笑いの天下取るぞ〜』でいくで」
「(4人)はい!」
「せ〜の。(4人)お笑いの天下取るで〜〜〜!!」
4人が叫び終わった時に、突然、ノブさんのスマホが鳴る。
ノブさんがスマホ画面を見ると、発信者は芸能事務所の社長中川。ノブさん、あわてて電話に出る。
「はい、ノブです。え、何ですか? ほんまですか。仕事ですか。はい、なんでもさせてもらいます! はい、わかりました。ありがとうございます!」
電話を切り、少し余韻に浸っているノブさん。
3人はノブさんにゆっくり近づいていき、ノブさんの表情を伺う。
少し静かな時間が流れ、ヒデさんが口火を切る。
「何の電話ですか?」
「実はな、ヒデちゃん、聞いて驚け! ノブヒデにテレビ出演の仕事来たらしいわ」
「ほんまでっか?ノブさん」
「すごいやん!こんなことあるんやね。私、夢叫ぼって、いうたけど」
「信長さまのご利益、いきなり出た〜」
「そのうち、カンゴーズにも仕事の依頼くるで。めぐみんもかすみんも覚悟しときや!」
「御意!!かすみん、うちらもがんばろな!」
「うん!」
「エンジンかかってきたで〜 知らんで〜」
天守台跡ではしゃぐ4人。他の天守台跡に来た観光客の老若男女は、そのはしゃぎぶりに少し引いている。




