第24話:プロへの道
“戦国バー・うつけの溜まり場”では、ノブヒデの漫才が佳境に近づいていた。
「それでなヒデちゃん、リベンジ退職はなくてもコンプラを盾にパワハラやセクハラとか言われ、上司が降格するとかの罰を受けることもあるらしいわ。大変やねん上に立つっていうことは…」
「えっ、こん、こん、こんぺい とう? それ信長が好きやったお菓子でしょ?わしにもくださいこんぺいとう」
右手で、金平糖を一粒一粒ずつ食べるような動きを見せるヒデさん。
「ちょっとハリセンを拝借」
ノブさんは、ヒデさんが左手で持っているハリセンを取り上げるとノブさんの後頭部をハリセンでしばく。
「天誅!」
お客さんの大きな笑いが起こる。
ヒデさんは、ハリセンの衝撃で何か思い出したように目を見開き、ノブさんの方に振り向く。
「コンプラって社会的なルールを守ることでしょ」
「そうや。わかってるんやんか」
「今の一撃で脳がピキッとしましたわ」
「このハリセンの威力すごいな〜。大事にしてやこのハリセン」
「了解!」
と言ってヒデさんは、上様から刀を賜るように両手でハリセンを受け取る。
その奇妙なやり取りにお客さんの軽めの笑いが起きる。
「ほんでな、深い意味はなくても、女子社員にいつ結婚するのとか言うて、セクハラ委員会からお叱り受けることもあるんやて。でもな、信長やったら、こういうてると思うわ。是非に及ばす! やってもうたことは仕方ないんちゃう♡」
ノブさん、語尾をニューハーフぽくキメる。
「ほらまた、かわいくした。キモい」
「あっそれもセクハラちゃう?」
「そうですか。でも、明智光秀やったらこう言うと思います」
「例えば?」
「敵は、本能のままにあり! ちゃんと考えてから話そ、行動しよ!」
「まじめか!! 光秀おもんないなぁ~」
少しため息をつくヒデさん。
「そうじゃないです!信長が能天気すぎるんです。光秀もおもろいんですって!」
「ほんなら、信長のこんなことできるか。この石を今日より、わしと思って拝むのじゃ。わしゃ、きょうから神じゃ。上様やなくて、神様じゃ ハハハハ。どや」
「単なる変人ですやん。 では光秀からはこんな一句を。 『時は今、雨の下たる さつき かな〜づち トントントン』」
「やるやないか光秀も。ほんなら信長の極め付けいくで~ 天下布武あらため、天下フフ」
「何わらっとんねん」
「本能じんじん してきたで〜。本能のままに笑わせるで〜」
「もう、“オッケーはざま”にしときますわ」
「いくじょ~いくじょ~げこくじょ~。いくじょ~いくじょ~げこくじょ~(繰り返していく)」
ノブさんがどんどん壊れていく。ノブさんを止めずにしばらく眺めていたヒデさんは、呆れた表情を見せる。
ヒデさんはゆっくりとノブさんから離れ、助走をつけノブさんに飛びかかるようにジャンプして、ノブさんの頭頂部にハリセンを振り下ろす。
するとノブさんの動きが止まり、白目をむいている状態に。
最後にヒデさんが、ノブさんに向け吐き捨てるように言う。
「どこまで戦国気取りやねん もうええわ」
ノブヒデの漫才が終わり、ノブさんとヒデさんは、お客さん全員の拍手の渦にのみこまれる。
オーナーの高井、芸能事務所の社長中川、由美も満面の笑みで拍手をしている。
楽屋のコレクションルームから、今夜の出演者であるギター侍、尺八お吟、カンゴーズがステージに再登場。
全出演者が手を繋ぎ、お客さんに何度も礼をする。
大成功に終わった戦国ナイト。それから1時間後、夜も更けた“戦国バー・うつけの溜まり場”の入り口のドアには、準備中の札がかかっていた。
店内に、お客さんの姿はなく、座敷にはノブさんヒデさん、カンゴーズの佳澄と恵、高井オーナーと中川社長そして由美がテーブルを囲み打ち上げをしている。勢いよくコップのビールを飲み干すヒデさん。それを見たノブさんが、ヒデさんにビールを注いでいく。
「いや〜、ヒデちゃん。初陣にしては、なかなかよかったで今夜のノリは」
「このハリセンのおかげですよ。このハリセンがなかったら、もうどうなっていたことか」
そう言ってヒデさんは、戦国漫才ハリセンを愛おしく撫でる。
カンゴーズの恵も飲むペースが早く、相方の佳澄から注意を受けている。
「めぐみん、明日も仕事やろ。ちょっと飲みすぎやで」
「大丈夫。自分でコントロールしてるから」
明智光秀好きのカンゴーズ佳澄は、恵の側を離れヒデさんに近づき漫才の感想を述べる。
「ヒデさんの明智光秀、なかなか堂に入ってましたよ。それにノブさんへのつっこみも最高!」
「ありがとうございます」
その様子を見ていた、カンゴーズの恵もコップのビールを飲み干し会話に参戦。
「私はノブさんの信長が最高やったわ!ねっ!」
少し酔っている恵はノブさんの方へ振り向き、ニヤニヤして空のコップを差し出す。
「めぐみん! ちょっと酔いすぎ! ノブさんごめんなさいね」
佳澄はノブさんに謝るが、ノブさんは笑顔で恵のコップにビールを注ぐ。
「ええねん、ええねん、かすみん。それより、カンゴーズの漫才、良かったわ。もうプロの域に達してるね」
「わしもそう思いました。なんか安心して見てられるし、おもしろいし‥」
佳澄と恵は、二人揃って正座して、ノブさんとヒデさんに礼を言う。
「そんなことないですよ。ほんと、このライブに呼んでいただいて、こころから感謝しています。なぁ、めぐみん」
「うん。ありがとうございました。これに懲りずにまた呼んでもらえたら最高です!」
酔ってると思っていた恵は、案外シャキッとしていることに、ノブさんもヒデさんも驚いている。
「そんな改まらんでもええよ。みんなで楽しくできたから、こちらこそ最高やったわ」
「わしもノブさんも、カンゴーズがいたからこそ、頑張ろうって気持ちになれたよ」
この二組のやりとりを聞いていたオーナーの高井が、自分の感想を話し出す。
「オーナーとして、この戦国ナイトは忘れられへんイベントになったわ。こんな楽しい夜はない。二組とも漫才はいい線いってると思ったよ。ねぇ、社長」
中川社長は、持っていたコップをテーブルに置き、二組の漫才コンビの顔をしっかりと見て、口火を切る。
「今夜は、実にいいもの見せてもらいました。カンゴーズのお笑の心地よいリズム。ノブヒデの少し破天荒な両つっこみのお笑い。どちらもプロ顔負けの面白さに満ち溢れてました。それで、私からの提案ですけど、ウチの事務所に所属して二組ともプロを目指しませんか?」
座敷に異様な静寂と緊張が走る。
ノブヒデもカンゴーズの二人も、オーナーの高井も中川社長を食い入るように見つめている。
その静寂を、由美の一言が打ち破る。
「プロ…? す、すごいやん!!」




