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ノブヒデ 令和・笑いの乱  作者: ハッシャン
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第23話;父への想い

 修道院の一室。

 ベッドとデスク、そして簡易なクローゼットがあるシンプルな部屋の窓からは、ライトアップされたカトリック城南教会の大聖堂が見える。

 トレーナーとパンツのカジュアルな姿のガラシャは、デスクで図書館から借りてきたと思われる本をめくっていく。

 本のタイトルは、『戦国時代を変えた武将たち』。

 ページをめくる手は、明智光秀の章の最後の部分で止まる。

 『山崎の合戦の後、京都の小栗栖の竹藪にて落武者狩りの百姓に襲われたとされ、その首は本能寺にて晒されたという言い伝えはあるが、光秀の首かどうかは定かではない。』という文面を読み、ガラシャはゆっくり目を閉じる。


「私があの時、父上が討たれたと聞いたのは、偽りかもしれない。いや、そんなはずはない」


 ガラシャは、心の中で自問自答していた。

 しばらくして、部屋のドアをノックする音がする。


「はい」


 ガラシャが返事をするとドアが開き、シスター中澤が部屋に入ってくる。


「こんばんは、シスター」

「こんばんは。今日はいいお話を持ってきましたよ」

「ひょっとしてお仕事の件ですか?」


 そう言ってデスクの椅子から立ち上がり、ベッドに腰掛けるガラシャ。

 隣に座ったシスター中澤は、手に持っていたあるパンフレットをガラシャに見せる。


「実は、ウチの教会の信者さんで、ガラス工芸のお店をされている道上葉子さんという方がおられてね」

「ガラス工芸って?」

「このパンフレットに載っている作品がガラス工芸なのよ。これはすべて道上さんとそのお弟子さんの作品なの」


 パンフレットをめくると、そこには風鈴などかわいいガラス細工の作品の写真が多数のっている。

 

「美しいわ。私たちの時代では、これをビードロと呼んでおりました。これらを作られる方ですか?」


 ガラシャは、食い入るように作品の写真を見つめ、ページをめくっていく。


「ええ。道上さんには、ガラシャさんのことをすべてお話しました。道上さんからは、ガラシャさまが働きたいというお考えであれば、ウチで住みながら働いてはとのご提案がありました。道上さんは、口の固い方で信用できる方です。いかがでしょうか?」


 パンフレットの最後のページに、丸メガネとショートヘアが似合っている道上さんの写真とプロフィールが載っている。

 ガラシャは、その写真を指差し、シスターに質問をする。


「この方が、道上さまですか?」

「ええ。ガラシャさまと歳も近く、やさしく明るい方です」

「ぜひ、お願いいたします。私もここに来て2ヶ月になります。この時代の言葉にも生活にもすっかり慣れましたので、このお話、お受けしたく思います」

「わかりました。それでは道上さんには、そう伝えておきます」

「今私には、この時代でしっかりと生きていく覚悟があります。そのためには働いて、人の役に立ち、この時代に私が存在している意味を見い出さなくてはいけません。この一件、誠にありがたきこと‥ 痛み要りまする」

「そこは、軽く『ありがとうございます』でいいですよ。そんなに気を張らなくても。もっとゆったりと生きていきましょう。主も、そう願っておられますよ」

「そうですね。わかりました」


 ガラシャは、持っていたガラス工芸のパンフレットをベッドに置き、少しため息をつく。


「どうしました。何か不安なことでも?」

「実は、私の父のことです」

「明智光秀さまが何か」

「ここに来ていろいろと戦国時代の本も読ませていただいたのですが、父は山崎の戦では亡くなっていなかったかもしれないと思い始めたのです」

「私も聞いたことがあります。光秀さまは山崎の戦から生き延びて、家康さまの軍師になられたとか、いろんな説がありますね」

「父も討たれる寸前に、私のように時空を超えた可能性もあるかと思ったり。シスターはこれまでに、過去の時代からこの時代に来た人の噂など聞いたことはありませんか?」


 シスター中澤は、ガラシャの肩にそっと手を置く。


「ガラシャさまがお父さまを思い続けるお気持ち、痛いほど私にもわかります。ただ、そのようなタイムスリップの話は他で聞いたことはありません。ガラシャさまはきっと主のお導きでこの時代に来られたのです。特別なのですよ」

「そうですか…」


 肩を落とし、下を向き落ち込むガラシャ。

 シスターは少し言いすぎたかもしれないという気持ちになり、もう一度優しく声をかける。


「ではこうしましょう、ガラシャさま。私と一緒に、お父さまのご無事を祈りましょう。どこかの時代へ逃れて幸せに暮らされていますようにと」

 

 ガラシャの顔に笑みが戻り、少し元気を出してシスターに答える。


「はい、わかりました。 そうですよね。私たちがすべきことは、主の元で人々の幸せを祈ることですからね。

もう迷いません。お仕事をしっかりこなして、毎日、感謝の祈りを忘れず生きてまいります」

「その通りです。主の御心のままに‥」


 シスター中澤とガラシャは、二人で主に祈りを捧げる。

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