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ノブヒデ 令和・笑いの乱  作者: ハッシャン
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第21話:戦国ナイト1

 日暮れを迎えた令和の大阪の街。

 10月になった街は、道ゆく人々も長袖に衣替えしている。


 “戦国バー・うつけの溜まり場”の入り口には戦国ナイトのポスターが貼ってあり、 店内からアコースティックギターと尺八の音が漏れている。


 髪の毛をちょんまげのように後ろで束ねた痩せ型の男性がギター、着物姿ではあるが目鼻立ちのはっきりしたモデルのような女性が尺八を演奏している。

 二人のアーティスト名は、アコースティック侍と尺八お吟。


 店内のカウンター席や座敷の席、ロフトの席はすべて満員で、お客さんは座敷奥のステージで二人のアーティストが演奏しているギターと尺八の心地よい音色に聞き入っている。座敷の席では、オーナーの高井が中年でおしゃれな丸坊主の男に何か喋っている。


「この曲の次に、一組目の漫才コンビが出てきますよ」

「それが、戦国漫才ですか?」

「本業が看護師の漫才師です。こちらも面白いですよ」

「楽しみですな」


 高井が話している男は、高井の友人でタレント事務所の社長、中川(55歳)という人物。

 タレント事務所といっても、関西であまり売れていない芸人やナレーターが所属している弱小事務所である。

 そうこうしているうちに演奏が終わり、アコースティック侍と尺八お吟がお客さんに挨拶をする。


「みなさま、今宵の演奏、楽しんでいただけましたでしょうか。来月も太融寺のライブハウス ヤシロにて、この二人でライブをしますので、そちらの方もよろしくお願いいたします」


 ミュージシャン二人が大きな拍手を浴びている時、舞台袖の楽屋になっているコレクションルームでは、カンゴーズの佳澄と恵、そしてノブヒデの二人が座って待機していた。佳澄と恵は看護師のコスチュームを着用している。

 佳澄は、ステージのミュージシャンを見ながら少し緊張している様子。ノブさんが、佳澄に声をかける。


「いよいよやな。老人ホームでやってるようにマイペースでな」

「いつものおじいちゃん、おばあちゃんに聞かせる漫才より、今夜は少しテンション上げ上げでいきますよ。結構ネタ合わせしっかりやったんで、大丈夫です。な、めぐみん!」

「うん、まかしとき、かすみん!」

「よっしゃその調子や!」


 ステージの尺八お吟が、次の出演者を紹介する。


「次は、お笑い白衣の天使たち、カンゴーズです」


 ミュージシャンの二人は、舞台袖のコレクションルームにはけていく。

 コレクションルームでが、カンゴーズとノブヒデがハイタッチでミュージシャンを迎える。


「じゃ行きまーす!」


 佳澄が、ノブさん、ヒデさんにそう言うと、カンゴーズの二人はステージへ。

 客の大きな拍手で迎えられる。厨房からは、由美が三脚セットにされたスマホの動画撮影のスタートボタンを押し、祈るような気持ちで二人を見て拍手をしている。


「がんばって!」


 カンゴーズの出囃子である、ボンジョビのバッドメデシンが店内に鳴り響き、カンゴーズの二人はステージへ。

 ステージ上では向かって左に佳澄、右に恵が立ち、漫才をはじめる。

 ボンジョビの曲がフェードアウトして、左側の佳澄が話し出す。


「はいどうも〜。 病院では白衣の天使。そしてある時は、 お笑い大好き大阪の豹柄おばちゃん」

「誰がおばちゃんやね〜ん でも、年々おばちゃん化していくのは否めませ〜ん」

「わたしたち」

「(二人で)カンゴーズで〜す」


「そやけどめぐみん」

「何?かすみん」

「看護師の基本中の基本ゆうたら、まず採血やね〜」

「採血にはじまり、採血で終わるゆうても過言ではないよ」

「この前な、入院しているおじいさんに採血しにいってんな」

「ほんで」

「おじいさん、アルコールは大丈夫ですかってきいたら」

「きいたら?」

「ここくる前までは、毎日よばれてましたって」

「じじい、ボケとらんか?」


 お客さんの笑いが湧き起こる。


「あほ!! ほんま口悪い子やな!」

「口も悪けりゃ顔も悪いてか? コラ!!コンプラ違反やぞ、かすみん!」

「何一人でごちゃごちゃ言うとんねん!」


コレクションルームから見ていたノブさんは、ヒデさんに話しかける。


「なかなかええ調子やな、二人とも」

「やりますな〜」


 どんどんカンゴーズの漫才は進んでいき、何回もお客さんの爆笑がおきる。

オーナーの高井の横で、身を乗り出してカンゴーズの漫才を見ているタレント事務所社長の中川が笑顔で高井の方に振り向き、漫才の感想を伝える。


「いや〜ええ筋してるわ。看護師にしておくのがもったいない。うちの事務所に入らんかな?」

「まぁ、後で説得したらええんといちゃいます」


 高井も中川が喜んでいるのを感じて嬉しそう。そしてカンゴーズの漫才もラストにさしかかる。

 最後に向けて佳澄が、漫才の流れを変えていく。


「ということで看護師あるある紹介してきましたけれども。やっぱり一番大事なのは、患者さんへの真心まごころ、これにつきますな」


真心まごころという言葉を受けて、訝しげに恵が佳澄につっこむ。


「あんたの真心まごころは、どんなんやねん。私なんかいつも患者さんの気持ちになって やさしく平等に接してるで」

「私は、イケメン男子には、かわいい女子で接して。おじさまにはちょっと甘えて、じじいにはそれなりに‥」

「完全に人見て変えとるやないか。それではじじいいが可哀想や」

「そんなことないで。実は私、じじいに一番人気があんねん」

「なんで?」

「かすみちゃんの採血が一番きもちええわ〜って。真心まごころイコール採血や!

 言うたやろ、看護師は採血にはじまり、採血に終わるって」

「そのじじい気持ち悪」

「こら!あんたこそ真心まごころない言い方やん! もうええわ!」


 カンゴーズの漫才が終わり。店内は大きな拍手で包まれる。

 オーナーの高井、ノブさん、ヒデさん、由美も飛びっきりの笑顔で拍手している。

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