第18話:時空を超えるガラシャ2
ガラシャは、ゆっくりと体を起こし、シスター二人を珍しそうに見回す。
「お二方とも、日の本の方? それともあの世の方?」
シスター岩崎、続いてシスター中澤がガラシャの横に座り、シスター岩崎が答える。
「ここはあの世ではありませんよ。私たちはカトリック教会のシスターです」
「私はシスター中澤、彼女はシスター岩崎です。失礼ですが、細川ガラシャ様ですか?」
「なぜ、私の名を知っておられるのですか?」
シスター中澤は、『やはり』という表情でシスター岩崎と目を合わせ、うなずく。
「あなた様のことは、ずっと昔からこの日本で、敬虔なカトリック信者として語り継がれてきたからです」
「ずっと昔からということは、今は慶長の世ではないのですか」
「今は令和と言って、ガラシャ様が生きておられた時から400年以上先の時代です」
「そんなに年月が…」
がっくりと肩を落とすガラシャ。
「これから私はどうすれば? もう、細川の家や忠興様のためにできることはないのですね」
ガラシャの手に自分の手を添えて、やさしい口調で答えるシスター岩崎。
「忠興様は、関ヶ原の戦いにも勝ち、戦乱の世を生き延びられ、細川の家を今に残されたと聞いています」
ガラシャは再び、顔を上げ、目を輝かせる。
「それはよかったです。私は三成の人質にならなかったということですね」
シスター中澤は、今にも泣きそうな表情でガラシャを見つめている。
「はい。しかし、さぞかし辛かったでしょう。お家のために討ち死にされたというのは」
「私はキリシタンなので、自刃することはできませんでした。残された道は、家臣の手にかかって死ぬこと」
「たぶんその時の衝撃で、この時代に来られたのかもしれませんね」
シスター中澤は、ガラシャの手を握りしめ、ガラシャの苦悩を労る。すると突然ガラシャは、激しい口調でシスター中澤に詰め寄っていく。
「でもこれから私は、何のために生きていけばいいのですか?教えてください、シスター」
「神のために生きるのですよ。神の御心を知り、神の教えの通り生きていけば、人生の良き道へ導いてくれます。あなた様がこの世で何をなすべきかと」
シスター中澤の腕をつかみ泣き始めるガラシャ。シスター岩崎は、背中をやさしくさすりながらガラシャを落ち着かせていく。
「まずは、私たちが住む修道院の空いている部屋でお過ごしください。私たちがガラシャさまのお力になりますので。いいですか? シスター中澤」
「はい。それがいいわね。みんなで協力してガラシャ様をお助けしましょう」
下を向いていたガラシャが顔を上げ、泣き顔で二人のシスターを見つめる。
「かたじけない。シスター」
シスター中澤は、ガラシャの手の甲をポンポンと2回やさしく叩く。
「では、まいりましょう」
シスター岩崎がガラシャの手をとり、ガラシャを立ち上がらせる。
ガラシャは、シスター二人に導かれて聖堂の出口へ向かっていく。




