第13話:ネタ合わせ
「ところでヒデちゃん!」
「何ですかノブさん」
「最近はどんどん医療が発達して平均寿命が伸びてきてるらしいな」
「わしも250歳ぐらいまで生きたいですわ」
「なんかさっきより増えとるがな。そりゃ無理やろ」
「し〜つれいしました。腹をめしまする」
ヒデさん、ハリセンを刀にみたてて、切腹する動きへ。
「そんなことでいちいち切腹してたら身がもたんわ。
でもな織田信長やったら、きっとこう言うてると思うで」
「どんな風に?」
ノブさん、能の敦盛の一節を本格的に渋く舞いながら唄う。
「人間五十年〜。令和の世と比べれば〜 (突然かわいい感じになり)短かすぎるやん!」
「なに可愛い子ぶっとんねん〜」
ヒデさん、そう言いながら思いっきりハリセンでノブさんの後頭部を叩く。その様子を見ていた由美が大笑い。
「ハハハハ!めっちゃおもろい!!」
「ちょっと加減せいやヒデちゃん。ほんまに寿命短くなるわ」
ここで漫才が止まり、ヒデさんがノブさんに謝る。
「すんません。調子に乗って思いっきりいってしまいました」
「ものすごく良かった。そう思うやろ由美ちゃんも」今まで見せてもらった中で一番面白いわ。特にヒデさんが、なんか
吹っ切れてるところがいい」
「そやろ。ええ感じでアドリブもどんどん入ってくるし。やればやるほど進化していく感じやな、このノブヒデというコンビは」
「ありがとうございます」
由美は、買い物してきたレジ袋を持ち上げ、ノブさんやヒデさんに差し出す。
「マスターもヒデさんも練習はそれぐらいにして、開店の準備しましょ。ヒデさん、はいコレ!」
「由美殿、わかりました。今夜もいろいろとご指南くだされ」
「じゃ、今夜もがんばるで〜。高井オーナーがお友達を連れてくるって言うてたからな」
翌日、日曜日の朝。大阪城公園は、ジョギングをしているランナーの姿が多く見られた。その中に看護師の佳澄と恵の姿も。恵の走る足が止まり、歩き始める。
「めぐみん、大丈夫?」
「うん大丈夫よ」
「今日はいつものコースより、一周多めに挑戦したからね。ここからは大阪府庁ぐらいまでゆっくり歩きましょ」
「うん」
歩きながら恵が、佳澄に話しかける。
「なんかワクワクしてきたわ」
「3ヶ月後のお笑いライブでしょ。私も」
「これまで私たち、老人ホームとかでしか漫才してこなかったもんね」
「当日は、なんかお笑いの関係者の人も見にくるってノブさん言うてたね。あっ、そういえばノブさんところのヒデさんってノブさん以上に変わってる人やったね」
佳澄は先週、うつけの溜まり場でノブさんからヒデさんを紹介してもらった時のことを思い出していた 。
夜、うつけの溜まり場で、ノブさんからヒデさんを紹介される佳澄。
「こちらがわしの相方、ヒデちゃんです。コンビ名は『ノブヒデ』にきめました」
「私は、佳澄といいます。彼女は恵。コンビ名は看護師の漫才コンビなんでカンゴーズです。よろしくお願いします」
「福智厚秀、ヒデと呼んでください。ノブさんとは昔からの知り合いですがまだ漫才は勉強中です。でもノブさんと一緒で戦国時代には詳しいので戦国をテーマに漫才ならということでノブさんとコンビを組みました」
「私も恵も戦国時代大好きです。恵は織田信長が好きで…」
ちょっと得意げな表情を見せるノブさん。
「私は明智光秀の大ファンなんです。ヒデさんは詳しいですか明智光秀のこと?」
急に佳澄の手を握り、テンションがマックスになるヒデさん。
「めちゃめちゃ詳しいです!なんか好きなものが一緒でうれしすぎます!!!」
ノブさん、あわてて佳澄とヒデさんを離す。
「かすみんごめんなさいね。ヒデちゃん、いつもはもっと冷静なんやけど。ごめん」
「ちなみにヒデさんは、今独身ですか?ノブさんは独身って前に聞いたので」
少しテンションが下がり、落ち込むヒデさん。テーブルに置いてあったビールを飲んで気持ちを落ち着けてから答える。
「実は、嫁とは別れるつもりではなかったんですが、結局別れることになりまして。娘にも辛い思いをさせてしまいました」
「ごめんなさい。なんか嫌なこと思いださせて」
ノブさん、ヒデさん、佳澄、恵の4人とも沈黙。そこに由美がチューハイなどを持ってきて静寂を打ち破り、何とかその場を盛り上げようと明るく振る舞う。
「どうしたんですか? もっとも盛り上がっていきましょうよ。ノブヒデもカンゴーズも次のライブで受けたらいいですよね。みなさん、ネタの方は大丈夫ですか」
「そやな。落ち込んでてもしかたない。ヒデちゃんも切り替えていかな。よっしゃ、ライブの決起集会ということで、もう一回、乾杯しよか。みんなグラス持って!かすみんも」
「はい!じゃ元気だしていきましょ! それじゃノブさん、ヒデさん、めぐみん、由美さん。うつけの溜まり場、初のライブの成功を祈ってかんぱ〜い!」
「(全員で)かんぱ〜い!!」
佳澄は、以上のようにヒデさんの事を思い出しながら、大阪府庁前の大阪城大手口付近のベンチに座りスポーツドリンクを飲んでいる。そして自分の手を見つめ、ヒデさんが自分の手を握ってきたことが忘れられない。
佳澄の横では、恵がスマホに何かをメモっている。
「なぁ、かすみん。採血のネタでこういう流れ、どう思う?」
佳澄は恵のメモを読み、笑いだす。
「ええやん、こういうのが自然で面白い。ちょっと練習してみよか」
「やろやろ」
佳澄と恵は、大阪城の堀に近づき、堀の方に向かって漫才の練習をはじめる。まず佳澄が口火をきる。
「はいどうも〜。 病院では白衣の天使。そしてある時は、 お笑い大好き大阪の豹柄おばちゃん」
「誰がおばちゃんやね〜ん でも、ねんねんおばちゃん化していくのはいなめませ〜ん」
「わたしたち」
「(二人で)かんごーずで〜す」
「そやけどめぐみん」
「何?かすみん」
「看護師の基本中の基本ゆうたら、まず採血やね〜」
「採血にはじまり、採血で終わるゆうても過言ではないよ」
「この前な、入院しているおじいさんに採血しにいってんな」
「ほんで」
「おじいさん、アルコールは大丈夫ですかってきいたら」
「きいたら?」
「ここくる前までは、毎日よばれてました。って言われて
おじいちゃん、飲む方ちゃいますよ、消毒の方ですよって言うてんな」
「じじい、ボケとらへんか?」
「こら!! ほんま口悪い子やな!」
「口も悪けりゃ顔も悪いてか? コラ!!コンプラ違反やぞ、かすみん!
(恵、一度漫才を止めて)どう、こういう展開」
二人の後ろで聞いていた、休憩中のおじいさんが拍手してくれる。
「おねえさんら、なかなかおもろいなぁ〜」
佳澄と恵は、その声に振り向き、おじいさんとわかった瞬間、申し訳なさそうな顔に。
「すみません。じじいとか言うて」
「ええねん、ええねん。おもろいからそれでええねん。あんたらプロなんか?」
「これから目指そかなって思ってるんです。カンゴーズといいます」
「よろしくお願いします」
佳澄と恵、また一人、自分たちのファンを獲得できた喜びで満面の笑みを浮かべる。




