記憶
5月30日。月曜日はめんどくさい。
朝から学校に行ったって誰も褒めてくれないし、どーせ今日も教室になんて行けないまま帰ってくる。
そーいや今日はテストだった気がするけど、まぁいいか。途中までやってあとはサボろう。
どーせ後日やらされる。
希望なんて持たずに。期待なんて背負わずに。
ただ体を学校に運んで、数時間居座ってまた家に体を運ぶだけ。大丈夫。嫌なことなんてない。
今日は足をとめずに、しゃがまずに登校できた。
犬の散歩をしてるおじいさんにも挨拶できた。
上出来だ。私すごい。
家に帰ってから、イラストを描いて音楽を聞いて。特に何事もなく20時を過ぎようとしていた頃、一通の通知がきた。
「こんばんは。突然ですが、僕はユウキではありません。」
何だこの怪しい文章は。可笑しい。
でも、間違いなく彼からの連絡だった。ユウキではない彼…多重人格にでもなったのだろうか。
「こんばんは。申し訳ないですがお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
あくまで冷静に、丁寧に返す。どう来るだろう?
「名前は特にありません。」
…ここから話をどう繋げろと…?そんな疑問を抱えていたら続きが来た。
「記憶がないんです。」
あぁ…全部忘れたのか、彼は。もう居ないのか…性格はどこまで変わっているだろうか…また仲良くできるだろうか…。君を、愛していてもいいだろうか。
そんなことを考えつつ話を進めると、また悲しい話をされた。
「余命があるそうです。」
それは皆あるのでは…?
「生きられないんです。3ヶ月もしないうちに。」
だいぶ特徴的な言葉の並びではあったが、おそらく余命宣告をされ、長く持って3ヶ月なのだろう。
彼は新しく記憶を作る期間はない。
頑張っても生きられないのか。なるほど。
…きっついなぁw
不思議と笑った。嬉しくない。なのに笑った。
なんだ私の表情筋、おかしいぞ。
脳内でふざけるしか、できなかった。
彼のためにできることがわからなかった。だから、願い事を言ってみた。内容は
「私と一緒にいて欲しい。お母さんになにか物を残して欲しい。大切なものを作らないで欲しい。」
最後に関しては、性格が悪いと思う。
でもそれくらいしかないのだ。
ユウキは人一倍優しく、寂しがり屋でかまちょで、怖がりだった…。
今の彼がどうかは分からないけど、前と変わらないなら大切を知らなければいい。
死ぬとどうなるか分からないことを知れば怖がり、私や他の人を愛せば苦しむだろう。
すぐに離れ離れになるのだから。
それに、誰かの大切になれば相手が苦しむ。それはユウキが1番望まないこと。1番苦しむこと。
それだけは避けないと。
なんで私が頑張ってるんだろう、なんで私ばかり大切を奪われるんだろう。そばにいたいと願っただけでこの仕打ちなのだから、きっと私は極悪人だ。
さすが私。さすがクズ女。さすが…。
久々に流した涙が頬の水分を奪っていく。
すぐに涙は乾いて、頬が濡れることはなかった。
薄情者。
あぁ、もうこんな時間。寝ないとね。
寝ないとユウキが怒っちゃう。もういないけど。
鏡の私が今日の最高の笑顔を見せてきた。
おやすみなさい。