〜7〜
蓮花は足取り軽く帰路に着いた。みんな帰宅し夕食を食べ始める。
「あ、今月はいつもより少し多めにお金返せるかもしれないの!」
「どうして?何か臨時収入でも出たの?」
意気揚々と話す蓮花に次女の蘭翠が訊ねる。
「なんでも貴族のお嬢様を何人か招いて食事会を開くらしいの。急遽決まったことだからいつもより多めにお給金がもらえるみたい」
「おや、もう開催するのが決まったのかい?主上の出席の了解は得ているのか……」
蓮花の言葉を聞き怪訝そうな顔をする父。確かに上官は主上が出席すると言っていたはずだがどこかで行き違いでもあるのだろうか。
「明日にでもまた主上に確認してみるよ」
「父上は、主上にもおあいできるのですか?」
1番末の弟、王偉がたどたどしく聞くと王琳は微笑みながら答える。
「ありがたいことにね。今の主上はとても聡明な方だからお仕えしていてとても誇らしいよ。王偉も尊敬できる人の元で働くんだよ。」
「うん!僕もそんけーできる人と遊ぶ!」
「遊ぶんじゃなくてはーたーらーくーの!」
横から訂正を入れる玲玲に食卓に笑いが溢れた。
「ということがございまして、主上のお耳には届いているのかと心配になったもので」
にこやかに報告する王琳に思わず飛龍は聞き返す。
「王琳、そなたの娘御は蓮花というのか?」
「ええ、とても可愛くて優しい子でして……」
一国の王相手に親バカ全開にできるのはそう何人もいないだろう。
「もしや調理場で働く蓮花の事か?」
「よくご存知で。まさか主上が調理場の人事まで把握されているとは驚きです」
「あぁ……たまたま、な」
まさか、王琳の娘に食べ物を分けてもらったなどと言えるはずもなくもごもごと答える。
王琳はそんな若き王の姿を見て自分の娘と主上には何かしらの接点があるのではと感じたがそこは物分りのいい家臣でいようと気付かぬふりをした。
そもそも下級貴族である王琳は本来なら王と直接対面できない身分である。それなのに直々に話を聞いて貰えるのは王琳の官吏としての実力が並外れていることと、身分にとらわれない先王と飛龍の采配があったことだ。
「宴に関してはつい先程打診が来た。断ろうと思ったが煌嵐の圧に負けてな……。しばらく高官共を黙らせられると思うと耐えられる」
ため息を着きながらこめかみを揉む飛龍に王琳も苦笑いこぼす。
「やはり事後承諾でしたか。そろそろ身を固めろと高官が自分の娘を差し出したいでしょうしね。」
「全く。身分の高いものほどそういう俗な下心が明け透けて見える。」
宴での媚びへつらう周りの女とその親を想像するだけで頭が痛くなる飛龍であった。