〜5〜
「主上、御用は済みましたか?」
蓮花が消えていった方面をじっと見つめる彼に青年の声がかかる
「雲嵐……」
「全く、偽名を使うにしても私の名前を使うなんて聞いていませんよ」
「悪い、咄嗟に出たのがお前の名前だったんだ」
バツが悪そうに先程雲嵐と蓮花に名乗った男が呟く。
「まあ、お姿は拝見出来なくても名前を知れば誰もが分かってしまいますからね、姜飛龍様」
「相変わらず嫌味っぽいな。幼なじみだからっていつまでも甘い顔はしてやらないからな」
「我が王はお優しいので心配しておりません」
「……ふん。それよりもう軍の皆は集まっているのか?」
「は。先程全員集まりましたのでいつでもよろしいですよ」
つかつかと城の廊下を歩きながら会話をする2人。無表情とも言える顔で翡翠の瞳を煌めかせながら進む男と半歩下がりにこやかな顔でついて行く美青年。対象的な2人だが飛龍の父である先王と雲嵐の父である前宰相の仲がとてもよく幼少期から共にすごしてきた幼なじみである。先王が隠居し飛龍が王の座を受け継ぎ、雲嵐も宰相を引き継ぐのかと思いきや彼は将軍となり飛龍を支えている。鋭い頭脳で知略を繰り出す姿は父の姿を彷彿とさせると話題だ。ちなみに宰相は現役で雲嵐の父、煌嵐が受け持っている。
「それにしても浮いた噂ひとつもない主上があんな可憐な女性とお知り合いとは隅に置けませんね」
「別にたまたま食べ物を分けてもらっただけだ、そんな風に言っては彼女に失礼だろう」
そう言いながら飛龍はお菓子を食べた時の蓮花が無邪気に目を輝かせてこちらを見る顔を思い出した。
あまり表情が変わらない飛龍の口角が少し緩んでいるのに気づいた雲嵐は、これは珍しいものをみたと思った。今まで下心むき出しの高官達が我先にと娘を差し出して来たが素知らぬ振りをして無視をしていたというのに。
「(動かざる龍の心を揺らがすのは艶やかな花ではなく可憐な花でしたか)」
2つ年下の幼なじみの恋の行方はどうなるのやらと先が楽しみな雲嵐であった。