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たださみしかっただけ  作者: 朝月
六章 悪魔事変
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No.1  いつも通り

 ハイネはあのまま桃源郷を出て行ってしまい、一先ず従業員皆食事処に集合していた。

 最初はこの色々壊れた店をどうするか、みたいな話をしていたのだがすぐに結論に至り、基本自由行動になった。

 そんな中、終始キルの心はここに在らずでぼーっとしていた。


――ソルお兄ちゃんが本当のお兄ちゃんになってくれたら嬉しいな。

 最後に話した時ハイネがそう言っていた事が頭に残っていた。

 本当の兄って養子以外にも方法はあるのだろうか。

 そういえば兄弟が結婚したらその結婚相手が本当の兄弟になるみたいな制度があった気がする。

 結婚、夫婦――父親を知らないキルには幻想にしか思えない。

 ハイネの言っていた恋愛感情もよくわかっていないのに、今度は夫婦なんて頭がパンクしそうだ。


 しかし結婚するのはお互いがすきだからだろ?

 だったら俺は何人と結婚しなきゃいけないんだ?

 友達と夫婦って何が違うんだ?

 ハイネの父親や俺の父親と母さんは結婚してたのかどうかもわからないし第一、二人ともすぐに出て行ったし……

 一緒に住むかどうかって話ならわかるが、何で結婚って言葉で括るんだ?

 もしかしてずっと一緒に生きていこうみたいな約束の名称が結婚なのか?

 だとしたら母さんは誰とも結婚してなかったのに俺達が生まれた事になるが……

 子供と結婚は関係ないのか?

 わからない……ただもし結婚が約束だとしたら、俺はソルとずっと一緒にいたいし約束してれば安心できる。

 ソルも同じ気持ちならの話だが、さっきずっと一緒にいてくれるって話をしたばかりだし……

 でもソルの言ってた意味、とかは考えると右目が痛くなるから考えたくない。


「うーん……」


「……どうしたの?」


 ぴゃあー


 組んだ腕に顎を乗せテーブルの上に置いてグルグルと悩んでいると隣に座っていたソルとハクが話しかけてきた。

 ソルは何だか気まずそうな様子だが、理由はきっと今キルが考えている事と同じだろう。


「なあソル、お前が言ってた事もハイネが言ってた事もわからないままでも一緒にいてくれるか?」


「……さっきの事は僕が悪かったよ、ごめん。ただ僕がキルから離れる気がないって事だけは覚えておいて欲しくて。もちろんハクも」


 ぴゃッ!


 気まずそうながらもキルの目をジッと見るソルを見ていると、キルの顔も無意識に綻ぶ。

 同意する様に鳴くハクを撫でる手も早くなる。

――ソルもそう言ってくれるならもう約束してもいいんじゃないかな。


「じゃあ俺が結婚してくれって言ったらしてくれるか?」


 ソルが椅子から落ちた。


「ソル?! 大丈夫か?! 悪かったって! 今のは冗談にしておくからそんなに嫌がるなよ」


「ちが、ちがう――」


 もがきながら否定の言葉を呟いてるがこんなに慌ててるソルは見た事がなく、面白くて笑いが止まらない。

 プルプルしながら何とか立ち上がったが、まだ慌てながら何か言っているので面白くて仕方ない。


「待って、聞いて、違うから――」


「いいっていいって! はあー面白い、なあハク」


 ぴゃわぁああ


 あくびみたいな鳴き方をするハクを上機嫌でわしゃわしゃ撫でる。






「キキも面接合格したし、皆なんだかんだ言っていつも通りだね、よかった」


 ミルはいつも通りの二人を見て安堵する。

 不仲なキルとソルなんて見てて居た堪れない気持ちになるので元に戻って本当によかった。

 それにしても事務所では皆言葉数が少なくて何かあったのかと思ったが食事処に降りてきてからはいつもとあまり変わりもなくて安心する。


「あ、ソルが机に突っ伏してる」


 敢えて誰も触れていないが首筋にガーゼのあるフィー。

 ソルがケイルで治そうとしたら断っていた。


「全然いつも通りじゃない!」


 テーブルをバンバン叩くレイはキキが来てから心なしかいつもより元気な気がする。


「これがいつも通りなのね。アンタも随分楽しげな職場見つけたわね」


 腕を組んで皮肉っぽく言いながらも、はにかんでいるキキ。

 そういえばフォミが面接は合格だけど所々途切れてる、みたいなこと言ってたけど何だったんだろうか。


「いつも通りじゃないってば、キルちゃんの方からソルにアプローチし始めたじゃん! キキのせいで!」


「何でよ?!」


 言いがかりをつけられて怒ったのか頬を膨らませて広げた翼でレイを叩く。


「……お前女だよな?」


 フィーの隣から離れずずっとガーゼをチラチラと見ていたエンが不思議そうにキキに問うと、キキが壊れた機械の様に動きを止める。

 そういえば何でエンは服を着替えたのだろうか。

 キルと同じような黒いジャケットの肩には白い線が入っていて、ズボンは黒っぽい色のダメージジーンズ。

 髪の色が目立つファッションだが多分外出着だろう。


「私の――」


 フリーズしていたキキがやっと口を開いた。


「私の! どこを! どう見たら! 男に見えるのよ!」


 身振り手振りで自身の大きい胸やスタイルのいい身体を指すキキは怒っているというより混乱しているみたいだ。


「いや、レイが呼び捨てで呼んでるからてっきり……」


「あ、私もそれ思ったわ」


 エンにフィーが同意するとレイが口を隠してクスクスと笑い出す。


「何がてっきりよ! 私が頼んで呼び捨てにしてもらってるの」


 腕を組んでプイッとそっぽを向くとレイが肩をすくめながら手のひらを上に上げる。


「そうそう、最初はキキちゃんって呼んでたんだけど脅されて呼び捨てにしてるの」


 顔だけキキに向けて舌を出す。

 するとキキは再び翼でレイを小突く。


「誰が脅したのよ、誰が。他の女と同じ呼び方が嫌だっただけよ。アンタは初めて会った時から女たらしで本当酷いんだから」


「えー本当に脅されたのにー。でも女たらしじゃなかったらキキとも会ってなかったと思うけど?」


 意地の悪そうな顔でそう言うとキキも否定できず言葉に詰まる。


「……それはそうだけど」


 レイが女の子相手にイジるような言動をするのは珍しいので見ていたいが、フォミが店内に入ってきてこちらに向かってきているのが見えたのでミルの方から駆け寄って行く。


「リルそろそろ帰ってくるかな?」


「そうね、もう帰ってくるでしょう。だってこの有様じゃ何もできないしね」


 レイ達の集まっている一角に向かう足を止めて辺りを見渡すフォミの真似をして一緒に見渡す。

 一直線に細い穴の空いた壁からは風が入り、何本もある柱の傷は貫通はしてないものの半壊。

 柱の何本かが貫通していたら建物が傾いていた、不幸中の幸いと思おう。

 だってそれより深刻なのはテーブルや椅子やカウンターなのだから。

 キル達が座っているテーブルも崩れていないだけでボロボロ、レイ達は座る所がないので全員立ちっぱなし。

 予備はあるにはあるがもう壊れているものしか残っていない。

 フォミはそんな店内を見てはため息を吐く。


「ハイネちゃんも随分派手に壊してくれたわね……」


「『少し物音立ててってお願いしたら思ったより大惨事になっちゃった』ってキルが聞いたらしいけど――」


「じゃあエンくんが壊したのね。修理代請求する相手が決まってよかったわ」


 澄ました顔でエンを見ているが、食事処で暴れてたのはフォミだと言うことはここで正気に戻った本人もわかっているはず。

 フォミの所持金は全額桃源郷の運営資金に使っているので節約したいのはわかるのだが。

――エン、ごめん。

 心の中でエンに謝った所で再び食事処の扉が開く。

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