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たださみしかっただけ  作者: 朝月
五章 キキ
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No.10  下品な作戦って言わないで!

「んーどうしようか」


 そう呟くリルの眼前には無表情で大鎌を振り回すフォミがいた。

 目に光もなく、何度呼びかけても反応はない。

 視界に入った瞬間攻撃を仕掛けられた時はいい気はしなかったが操られているので仕方がない。

 テーブルやら椅子やら色々壊れた食事処で大鎌を避け続けるリルは、大ぶりの武器に不利になるようにフォミから距離を取りすぎない様に気をつけている。

 しかしフォミが攻撃の手を緩めることは無い。


「他の皆はうまくやってるかな?」






 三階の居住スペースの廊下ではフィーがエンの攻撃を避けたり、自身の固有武器で受けたりしていた。

 何故三階にいるのかというと、皆で食事処に入って行ったはいいものの、フォミを残してエン達は窓から外に出て階段を上がって行った。

 予想外の動きにこちらもリルを置いて後を追ったが、今度は三階でエンに足止めを食らったので今度はフィーが残った。


「エン」


「……」


 名前を呼ぶが帰ってくるのは返事ではなくて鉤爪で、躊躇ない攻撃は昔のエンを思い出させる。


「エン」


「……」


 しかし懐かしがっている暇はなく自身に課せられた役割を果たそうとするのだが――


「……好感度ってどうやったら上がるのかしら?」






 時間は少し遡り、事務所内ではレイが緊張から早口気味で作戦指揮を取っていた。

 なんせこんな事をするのは初めてでちゃんと伝わるのかどうか不安だが、もうヤケクソになって自分の言葉で皆に伝える。


「えーっと、キキのケイルから解放して正気に戻すには魔術で設定したハイネちゃんに対する好感度を他の誰かが上回らないとダメなんだけど。五対五でちょうどいいから一対一になるように別れたらちょうどいいかと思って。それで元から好感度高かった人の方が上回りやすいでしょ? だから――」


 静聴してくれているのが逆に緊張するが、皆の目を見て深呼吸する。

 無神経に人の心を土足で踏み荒らす事になると思うけど許して欲しい。

――オレなんかに任せたリルのせいだからね。


「フォミちゃんにはリル、エンにはフィーちゃん、ソルにはキルちゃんが行ってくれるとすぐに正気に戻ると思う、よ」


 思わず身振り手振りが大きくなってしまって勢いそのままに名前を呼びながら指を差す。

 桃源郷内のこの手の話はデリケート過ぎて触れたくなかったがもうどうにでもなってしまえ。


「ミルちゃんとオレはハイネちゃんとキキをどうにかするから」


 横目でチラリと皆の顔色を伺う。

――殴り飛ばされませんように。

 やはり驚かれたのか一瞬空間が止まったような気がしたが、皆が頷いたのを確認すると安堵の息を吐く。

 今言った事を乗り越えられたならもう大丈夫。


「あ、それと正気に戻ったのを気づかれたらまた操ろうとするだろうから気をつけてね! そうならないようにオレ達も頑張って制圧するから!」


 清々しい笑顔で最後の注意事項を伝えて親指を立てる。

 これで万事解決、何一つ問題はない!






「――これは予想外だったなぁ……」


 もう勝ったも同然と息巻いていた分、プランを一つしか立てていなかった。

 まさか逃げるなんて。

 その上、トカゲの尻尾切り作戦?

 あんな事したら正気に戻してくださいって言ってるようなものじゃん。


「ソル……ハイネ……」


「操られてるのソルしか残ってないけどどうにかして引き離した方がいい?」


 ミルはトカゲの尻尾になった誰かが追ってこないか背後を気にしながらも最上階である五階の一番奥にある多目的室に入って行ったハイネ達の様子を伺っている。

 ご丁寧に扉も開けっぱなしで少し離れた廊下の曲がり角からでも丸見えになっている。

 キキの力の使い方知らないんじゃないかと疑いたくなる程、ハイネの立ち回りは不自然だった事も考えると――もしかして罠?

 しかしリル達解放組には、再び操られる可能性のあるフォミ達を連れて隠れているように言ってあるので増援は見込めない。

 レイ達三人でどうにかするしかない。


「……そうだね。もし罠だったとしても戦うヒーラーのソルは正気に戻しておきたいけど、ハイネちゃんの隣だと戻してもすぐにまた操られちゃうだろうからどうにかして引き剥がそう。でもどうやって――」


「俺が行く。囮になってソルを下の階まで連れて行く。四階なら俺の部屋があるし、それでいいだろ?」


「うーん……ソルは今操られてるのを忘れないでね。キルちゃんは優しいから。後、ついてくるとも限らないから――」


「大丈夫だ、わかってる。引きずってでも連れていくから安心してくれ」


 返事も待たずに廊下のど真ん中を直進していくキル。

――それじゃあ向こうからも丸見えなんだけどなぁ……


「キルちゃんは今正常な判断ができないかもしれないから、もしもの事があったらオレ達も一気に行くよ」


「……レイって女の子の事しか見てないようでちゃんと周り見てるよね。フォミにリル当てるから皆びっくりしてたよ」


 相変わらず正面突破のキルから目を離さずにミルに作戦を伝えると、思ってもみない返答が返ってきたので思わず振り返る。

 しかし皆の驚きポイントがそこだったとは。

 下品な作戦だと思われたんだと思っていた。


「そうかな? ミルちゃんは知ってたみたいだけどフォミちゃん超わかりやすい子じゃん」


 逆に皆気づいてなかったの?

 フォミがわかりやすいと言ったが実際わかりにくい子の方が少ない。

 大半の人は無意識での仕草は制御できないはずなのだが、わかりにくい子はそれが極端に少ない。

 わかりにくい人の代表格のミルの顔を見て、やっぱり分かりにくいなと思いながら部屋に入っていくキルに視線を戻す。






 窓が一つしかない多目的室は電気は付いていなくて薄暗いが、ハイネ達の立っている場所は窓からの光がかろうじて当たっていて少し明るくて表情も見える。

 右目にケイルを浮かび上がらせ、左目も反転目のままでこちらを見つめているハイネ。

 それに、人形になってしまったんじゃないかと思える程無表情で微動だにしないソルを見ているとこれが夢だったらどれだけよかっただろうか、と現実逃避してしまう。

――どう足掻いたってこれは現実なんだ。

 ゆっくり深呼吸をして呼吸を整える。


「ソル! ハイネ! それと俺の事拉致った奴!」


 ぴゃッ!


 キルの言葉の後に続き、ハクがキルの前に仁王立ちになりながら大きな声で鳴く。


「キキよ! それに私が拉致ったんじゃないわよ!」


 あっそうか、と思ったが鳴き続けるハクを放っておく訳にもいかずハイネの説得を優先させる。


「……ハイネ、何でこんな事するんだよ。皆は関係ないだろ? 皆には何もしないでくれ。狙うなら俺だけにしてくれ……頼む」


 特攻するつもりだったハクが転けるように前に倒れそうになったが何とか倒れずにまた仁王立ちになる。

 不満そうな顔でこちらを見ている。


――ごめんな、ハイネと少し話をさせてくれ。


「お姉ちゃん何か勘違いしてない?」


「え?」


 何とか説得してソル達から手を引いてくれたら、自分の事は煮るなり焼くなり好きにしてくれと言うつもりだったが、浅いため息を吐くハイネに困惑する。

――やっぱり俺を長く苦しませたいのか?


「私の目的……私ね、ずっと前から好きな人がいるの」


 照れるように話しているが、突拍子もない話に意をつかれる。

――目的は俺への恨みじゃないのか?


「どういう事だ? それとこれに何の関係が――」


「でもその人はね……お姉ちゃんの事が好きなんなよ、だからこうするしかなかったの」


 ソルの腕に絡みつくように擦り寄り手を握る。

 シャーッと威嚇するハクは今にもハイネに飛びかかりたいのを我慢しているように見える。

 きっとハイネがキルの大切な人だという事を理解しているから我慢してくれている。


「ハイネ、ソルから離れてくれハクが怒ってる……もう、やめろ……俺への復讐が目的じゃないのか? 話なら聞くし何でもするから他の奴を傷つけるのはやめてくれ……」


「復讐なんてそんな事……私のしたい事じゃないよ」


 素直にソルに触れていた体を離して後ろ手を組む。

 復讐という言葉を否定するハイネの顔は久方ぶりに見る悲しそうな笑顔。

――そんな顔させたい訳じゃないのに。

 いつも誰かを守ろうとすると誰かを犠牲にしてしまう。

 そんな弱い自分が大嫌いな事を再認識する。


「でももう後戻りできないんだよ。ごめんねお姉ちゃん、キキと契約した時からこうする事は決めてたの」


 ハイネは静かに話を聞いていたキキの方を見て再び悲しそうに笑う。

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