表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たださみしかっただけ  作者: 朝月
一章 桃源郷
9/143

No.8 賢明な少女?

 やけに大きい建物に広い庭。

 金持ちの考える事はよくわからない。


 ソルの横ではメニィが歌でも歌い出しそうなほど楽しそうに歩いている。


 隣を歩かない方がいいと思ってちょっと歩幅ズラしたりしてるのに何でこの子は合わせてくるんだろう。


 護衛の仕事にはよく指名される。

 医者だからもしもの時の保険として呼ばれるんだろうけど大体は怪我もなく終わる。

 何で無傷の人を守らなくちゃいけないんだろう。


「こんな仕事ばっかり……」


 聞こえないように呟いたつもりだったが隣のメニィには聞こえたらしい。


「ソル様含め、トートの方々は皆さん容姿端麗で素敵ですもの。せっかくでしたら素敵な方に守ってもらいたいというのは皆さん同じですよ! 桃源郷に行くのも出会い目的の方が多いとお聞きしました」


「ふーん」


 それなら嫌っていうほど知ってるよ。

 そのせいで僕の診療所は大繁盛……

 本当に具合の悪い人をいの一番で診てあげることができないから困ってるっていうのに。

 それにしてもこの子は最初から変なことばかり言う、おかしな子。


「でも君、レーベンでしょ?」


 メニィの方を横目で見る。

 この時初めてソルの方からメニィの方を見た。

 それに気づいたのかこちらを向いたメニィと一瞬目が合い、反射的に視線を外してしまう。

 メニィはそんな態度を気に止める様子もなく、ソルの方を見つめたまま今までとは違い優しく微笑む。


「ええ、私も含めこの家にいる者は全員レーベンですよ。ソル様がお考えになっている事を当ててみましょうか?」


 そう言ってメニィが立ち止まる。

 ソルも数歩歩いた所でメニィが歩みを止めている事に気づき、振り返る。


「『どうしてレーベンが好き好んでトートを家に招き入れているのか』……でしょう?」


 ソルは少しだけ目を丸くする。

 まさかさっきまでお花畑にいるかのような立ち振る舞いをしていた子供からそんな核心めいた言葉が出てくるなんて思ってもみなかった。

 何も考えずただしたいことをしているのだと思っていた。

 どうやらそこまで子供ではなかったらしい。

 メニィは黙って自分の方を見ているソルを見て微笑み、話を続ける。


「ソル様はピート地方に来られるのは初めてですか? ここはトートとレーベンが分け隔てなく一緒に暮らしています。しかも過半数の方は好きでこの地方に住んでるんですよ」


 メニィの視線はソルから窓の外へと移る。

 塀の向こうでは獣人とおそらくレーベンが楽しそうに話している。

 そもそもメニィの屋敷に着くまでにもここで暮らしている人達を見た。

 自分達の暮らしているトーオン地方では考えられない光景だったので気づかれないように見ていた。


「レーベンとトートは進化の過程で同じ生き物から別れて生まれたもの、違いは力があるか無いかだけです。それにレーベンもトートも関係なく人や人間とも呼ぶでしょ? 私達はトートを差別する事に納得いきません」


 再びソルに向けられた視線はとても強く、何か強い力を感じた。


「本当にそんな物好きな人達がいたんだね。トートからしたらレーベンは敵、レーベンからしたらトートは卑下にする対象って考えが多いのに」


 ソルとしても特別レーベンを敵視している訳ではなく、メニィの考えを否定したいのではない。

 ただ今まで暮らしていた所ではそれが普通であたり前のことだった。

 だからこんな否定的な返事をしてしまった。

 メニィもそれを知ってか知らずかクスリと笑う。


「私達は今の国家の政策に対する反対運動をしています。国家が差別を黙認している現状を変えようと行動しています。こういうレーベンもいるのですよ?」


「ふーん」


 メニィの熱弁にソルは適当に返事をするが、内心では少し驚いていた。


 まさかこの子にそんな権力があるなんて。

 もしかして僕達が居合わせた事故も事故じゃなくて暗殺だったのかもしれない。

 この子は……何才か知らないけどいつからそんな活動をしていたんだろう。


 そのあどけない笑顔の裏に沢山の苦労があったのだろう。

 トートを人間として扱わない事が常識の国だ。

 徒労に終わる事も多いだろう。

 明るく振る舞っているのもその裏返しなのかもしれない。


 強引な態度に苦手意識しか無かったけど、本当はもっと賢明な人間なのかもしれない。


  黙り込んでしまったソルを尻目にメニィは話し続ける。


「疑問は全て無くなりましたか?」


 メニィの顔は真剣なものから少女のものへと戻る。


「これでソル様に私の家のこと、この地方のこと、ほぼ全てをお伝えすることができました。これで心残りは無くなりました――」


 恥ずかしそうに顔を赤くし、下を向く。

 数秒の沈黙の後、メニィは啖呵を切ったように勢いをつけて言葉を紡ぐ。


「――今日お会いできましたら言わせて頂こうと思っておりました……私と結婚してくださいまし!! 夫婦の間で秘密ごとは良くありません。全てを伝えた今心置き無く求婚することができます!!」


「は? えっ……嫌だよ」


 上がりかけていたメニィの印象が元に戻る音がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ