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たださみしかっただけ  作者: 朝月
五章 キキ
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No.2 触れるのが好きな様で

 リルとの仕事は長引く事が多く、今日も夕方には帰れる予定が気付けば陽が落ちていた。

 桃源郷に着くとリルはすぐに大浴場に向かい、フォミは事後処理を行おうと事務所へ足を向ける。

 すると階段でキルに声をかけられ、一緒に事務所に入り今に至る。


「――という訳で俺の部屋に妹を居候させたいんだ」


「そうね……」


 笑顔で事の経緯を話すキルに少し違和感を覚え、中々答えられずにいると「ダメか?」と眉をひそませている。


「なら、キルちゃんの部屋と食事処、それと許可をもらった子の部屋にしか出入りしないならいいわ」


「そうか、ありがとう」


 あまりにもあっさりした返答。

 キルにしては珍しく、声に感情が伴っていない。

 仲間の私情をケイルで無理やり覗くなんてことはしたくないが、キルが脅されていたり操られている可能性はゼロではない。


「嬉しくないの?」


「ッいや! 嬉しいに決まってるじゃないか! 妹に会えて嬉しくない訳ないだろ!」


 突然立ち上がり先程より大きな声で否定する。

 操られている感じはない。

 しかし脅されているかどうかは――やはり覗いてみなければわからない。


「キルちゃん、私の目を見てくれるかしら?」


 そう伝えれば、少し迷いながらも素直に応じる。

――ごめんね、いつも天真爛漫なあなたがなんでそんなに追い詰められているのか見せてね。

 キルと見つめ合う形になり、ケイルを浮かび上がらせようとした瞬間、事務所の扉をノックする音が響き、キルは驚いて目をそらしてしまった。


「キルちゃ――」


 返事もしていないのに扉が開き、そこにはソル、そしてその背後にはハイネと思われる女の子が立っていた。

 ハクは扉が開き切る前に隙間から先に入ってキルの足音で鳴いている。


「フォミ、ハイネが居候していいんだったら皆に自己紹介したいんだって」


「フォミさん初めまして。キルお姉ちゃんの妹のハイネです。皆さんにも挨拶がしたいのでよろしくお願いします!」


 ハイネは手を体の前に揃えて頭を下げる。

 第一印象では悪い子には見えない。

 頭は下げたままで目を見る事が出来ず、このままではケイルを使おうにも使えない。


「お前らどこにいるかと思ったら一緒にいたのか」


「そうだよ。キルこそここに居たの? 部屋にいるのかと思ってた」


「――したいなら今からすればいいわ。それとハイネちゃん、ここに居候するなら後で一度私の部屋に来てちょうだい」


 長引きそうな話を遮り、簡潔に話を終わらせる。

 今最優先させる事はキルの記憶を見る事。

 できればハイネの記憶の方を見た方が確実だし良心も痛まない、だがどうも目が合わない。

 これがわざとやっている事なら只事ではない。


「いいなら先に行ってるね。行くよハイネ」


「うん!」


 フォミの許可を得るとすぐにソルは扉を閉めようとし、ハクも急いで出て行く。

 最後までハイネとは目が合わなかったが、部屋で会う約束は漕ぎ着けた。

 チャンスはいくらでもある。

 気を取り直してキルの方を向けば、閉まった扉を貼り付けた様な笑顔で見ている。


「キルちゃん?」


「……何でもない」


 何でもない人が「大丈夫?」とも聞かれていないのに「何でもない」って答える訳ないでしょ。

 素直な子。


 再び見つめ合う形になったのでケイルを浮かび上がらせる。

 すると視界が半分真っ暗になる。

 瞬く間にキルの左手がフォミの右目を優しく包みこむ。


「今は、やめてくれ」


「そうね……断りも言わずにごめんなさい」


「ごめんな、フォミ」


 右目を塞いでいた手は少し下がって右頬の傷を撫でて離れて行った。

 キルはそのまま一直線に歩いて行き、事務所を後にする。


 どう考えてもキルちゃんの様子がおかしいわ。

 それにソルくんがキルちゃんの居場所知らないなんて事今まで一度も無かったのに……

 ましてや先に行くなんて絶対にあり得ない。

 何にしろ、今夜ハイネちゃんは私の部屋に来る。

 その時に全部わかる事ね。


 フォミも立ち上がり、ハイネのいる食事処へと向かう。






 さっきは何でフォミにあんな言い方をしてしまったんだろうか。

 先程の自分の行いを悔やみ、肩を落としているキルの耳に楽しげな声が届く。

 その声に導かれる様に顔を上げ、今のキルとは正反対な声の主を見つめる。


「お姉ちゃんがいつもお世話になってます、妹のハイネ・イノセントです! 今日から仕事が決まるまでの間、お姉ちゃんの部屋に居候させてもらいますのでよろしくお願いします! あ、お姉ちゃんとラストネームが違うのは私が養子に入ったからなので気にしないでください」


 満面の笑みで自己紹介をするハイネを皆より数メートル離れた場所で見つめる。

 ハイネの楽しそうな顔が見れるのは素直に嬉しい。


「フォミ君から聞いてると思うけど入っちゃダメな場所はちゃんと守ってね。それさえ守ってくれれば歓迎するよ! よろしく」


 リルは生乾きの髪を垂らして首にタオルを掛けている。

 急いで風呂から上がってきたような風貌に申し訳なさが込み上げてくる。


「はい、よろしくお願いします! リルさん!」


 そう返事をするとぴょこぴょこと小走りでリルの方に行き、にこやかに握手を求める。

 しかしその手はリルに触れる事なく別の人物に取られ、ハイネも驚いた顔をする。


「オレはレイ! キルちゃんとは仲良しだからハイネちゃんとも仲良くしたいな!」


 リルに差し出されていたはずの手をブンブン振っているが、ハイネは嫌な顔一つせずそれに応じている。


「はい! よろしくお願いしますレイさん」


「オレが皆の事紹介してあげる!」


「新人が紹介するのかよ」


「エンも新人じゃん!」


 話に水を差すエンにベーっと舌を出して反論する。


「今のうるさいのがエンで、隣の水色の髪の子がフィーちゃん、黒髪の子がミルちゃんだよ。フィーちゃんはハイネちゃんより年下だから仲良くなれるかもね!」


「ありがとうございます! エンさん達もよろしくお願いします」


 エンさん、という呼び方にエンの獣耳がピクッと反応し、渋い顔になる。


「……まさか俺のこと知らないよな?」


「今日初めてお会いしましたよ?」


「ならいいんだ、また知り合いが潜入してきたのかと思ってな……」


 ハイネはエンの方に駆け寄って顔を見つめ、首を傾げながら不思議そうな顔をする。

 エンが知り合いかどうか疑うのは、ヨザクラの知り合い達が度々食事処に客としてエンに会いに来るからだ。

 その度エンは嫌そうな顔をする。


「……? よろしくお願いします」


 まだ不思議そうな顔をしているが、気持ちを切り替えて微笑みながらエンに握手を求める。

 今度は別の人物に手を取られる事はない。

 エンは未だに渋い顔をしているが、渋々ハイネの手を取ってくれる。


「……よろしく」


 取った手は一秒もせずに離され、ハイネの手を掴むものは何もなくなる。

 そして今度は自分より少しだけ小さいフィーの方を向き、またしても握手を求める。


「フィーさんとても大人っぽいので年上かと思いました! よろしくお願いします!」


「あなたの方が三つも年上なんだから呼び捨てでいいわ。敬語もね、よろしく――」


「ねえ! オレとエンの時みたいにパーティしよう!」


 一言ずつ言葉を交わしてから握ろうとした手はレイの声に驚いて、すんでの所で止まる。

 賑やかな事がしたいレイにミルが獣人特有の犬歯の目立つ口元を綻ばせながら賛成する。

 そして目を丸くしているハイネに「ミルの事もよろしくね」と言って手を振ったかと思うと、少し離れたところにいるフォミの方に足を運ぶ。


「でももう結構遅いから明日は? フォミどう?」


「丁度明日は誰も出張の予定が入っていないからいいわよ。じゃあ今日はお開きにしましょう。ハイネちゃんは私の部屋に来るの忘れないでね」


 フォミが快諾してくれたのが余程嬉しかったのか、先に歩みを進めていたミルを駆け足で追い越し、ハイネはフォミに抱きつく。

 ミルも驚いたようで思わず足を止める。


「ありがとうございますフォミさん!」


「……姉妹なのにキルちゃんとは随分違うのね」


「そうですか? お父さんが違う割には結構似てると思いますよ」


 決して受け止めたり、抱きしめ返したりしないフォミを気に留める事なく話を続ける。

 ハイネが全員に挨拶できたのを見届けたので安堵の息を漏らす。

 そしてずっと気になっていたソルの方に視線を移す。

 ハイネを目で追っているようだが言葉を発さず動きもない。


「ソル、ハイネと何かあったのか?」


 一向にこっちを見る気配がないので顔を覗き込み心配を口にする。


「何もないよ?」


 ようやく目が合ったソルは予想に反していつも通りで足元にいるハクを見てもおかしい事はなにもない。


「――お姉ちゃん! 皆もう部屋に戻るって、私達も行こう!」


 突然背後から話しかけられて面をくらい反射的に振り返ればキョトンとした顔のハイネが立っていた。


「あ……悪い俺の勘違いだったみたいだ……おやすみ」


 その挙動を隠す様に早口でソルに断りを言って食事処を後にしようとする。


「うん、おやすみ」


「ソルお兄ちゃんおやすみー」


 いつもならお節介な文句が飛んでくるのに今日はそれがない事に何故か心が騒ついた。

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