番外編 やとわれーず
四章でパンドラに雇われていたリョウ、ルーク、レジ、シューの前日譚です。
――これは傍若無人なあいつと出会い、僕たちが変わってしまうまでの物語。
リョウ達は気の合う仲間と細々ながらも無難に仕事をしていた。
一番最初にこんな無謀な事を始めようと言い始めたのは自信家のルーク・ティンセル、それについてきたのが元からルークと知り合いだったらしいレジ・ノーザンハーク。
そして風来坊の様な生活をしていた時にたまたま知り合って流れでついてきたのがリョウ・ドイル、最後にレジがどこから連れてきたか餓死寸前だったシュー・バブル。
そんなこんなで寄り集まった四人はフリーランスで仕事をしたりしなかったりしながら、フラフラ街から街を転々としていた。
リョウがそんな昔話に思いを馳せている今も現在進行形で仕事中だった。
トートは十五才から成人扱いとはいえ、たかが十六才の餓鬼に「七才の子供が一人旅をするなんて危ないから養ってやる」と言われてその言葉に乗ったが最後、あーやめておけばよかった、と頭を抱えた事数知れず。
――てか、養ってくれるなんて嘘じゃん。僕もバリバリ働いてるんだけど?!
お世辞にも綺麗とは言えない場末の酒場、酒やら油やら何やらと汚い匂いが充満していてむせ返りそうになりながらもリョウは目の前でふんぞり返っている細身の男と平穏とは程遠い話をしている。
リョウ達の仕事はほとんどが運搬業で、もちろん中身はわからない上に奇襲される事もある面倒、もとい大変な仕事だ。
「――僕達にできる事は今お話しした通りですが取引は成立という事でよろしいでしょうか?」
こちらの手の内を薄らと明かし、可能な事と不可能な事を明確にしておく。
後々クレームを受けない様にする為の保険だが、意味を成さない事の方が多い苦肉の策だった。
明るい仕事ではないので、依頼主の頭も大抵おかしい。
人にケチをつける事しか考えていないのだろう。
「待て、俺達ならもっとできるだろ」
リョウの後方の壁にもたれかかっているように伝えていた筈のルークが、犬型特有のクルンと撒いた尻尾を揺らしながら近づいている。
自信満々な言動に依頼主よりリョウの方がギョッとした顔をして急いで席を立つ。
そして勢いそのままにルークの腕を掴み、元いた壁の方まで引っ張っていく。
「ちょっと! ルークはボスって事にしてるんだから黙って見てればいいんだってば!」
「しかしボスなら尚更意見を――」
子犬がクーンと鳴く様な顔でこちらを見られても困る。
ルークが取引に関わるとろくな事がない。
その自信満々な言動でハードルを上げに上げまくり難易度は異名保持者レベルまで引き上がり、結果四人とも死にかける。
「黙って、見てれば、いいの」
「む……」
言う事を聞いてくれないので、少し低い声で釘を刺す様な言い方をすると素直なルークはすぐに口をつぐむ。
獣耳を寝かせて大人しくなったのを確認すると、依頼主の元へとトボトボ戻る。
ルークと二人きりで商談なんて最悪だ。
この場にいる筈だった残りの二人の内の一人、シューが発作的に制御できなくなるケイル『飛』で飛んでいってしまった。
そしてシューを追いかける為にケイル『速』を浮かび上がらせ、猛スピードで走って行ったレジに早く帰ってきてくれと念を送る。
本来ならルークを大人しくさせておくのも、取引の交渉も全部レジの役割だというのに。
シューに手がかかるせいで、いつの間にかルークが暴走しない様に見張るのはリョウの役目になりつつあるのは気づいていないという事にしておこうと思う。
その後、ルークが大人しくしていてくれたおかげで取引は無事成立。
お前みたいな子供に仕事を任せるなんて余程金に困ってるんだな、とか何とか言われたけどその通りなのでぐうの音も出ない。
明日の宿どころか食事さえまともに取れるかどうか怪しい。
結局帰ってこなかった二人と合流する為に一度宿に帰り、ベッドに寝そべる。
気づけば窓からは夕陽が差し込んできていた。
――こんな心労絶えない仕事なんか辞めて元の生活に戻ろうかな。
子供の物乞いは大人の物乞いより割がいい。
簡単な仕事さえしていれば、少なくとも食べるに困る事はなかった。
でもきっと思うだけで行動には移さない、いつもの事だ。
「レジもいつもそうだか、お前も何でもっと依頼料を上げないんだ。あんなに安かったらいくら稼いでもずっと今の生活のままじゃないのか?」
「あれ以上あげると仕事の内容も変わってくるからだよ。子供の僕でも分かるのに何でルークは分からないのー」
「わ、わかってる! だが俺達ならやれる! そうだろ!?」
そんな自信がどこから湧いてくるのか不思議でならない。
「何を黙っている! 安心しろ、俺は天才だからな、何でもわかる」
「えーすごーい」
心労の原因の一つ、ルークの天才論。
何をどういう育ち方したらトートがそこまで自分に自信を持って生きられるんだ。
両親はルークが呼吸をする度に褒めていたりしたのだろうか。
棒読みで返そうが肯定されたとしか思っていないルークは鼻を鳴らして尻尾を振っている。
天井を見つめながら、はぁーっと大きくため息を吐くとほぼ同時に腹の虫もぐぅーっと音を立てる。
「食事にしよう、何がいい?」
「んー、ルークにおまかせでっ!」
調子のいい時だけ子供に戻る。
面倒臭い事は全部誰かにやってもらうのが一番、だってか弱い子供なんだから。
ルークはトレンチコートを脱ぎ、宿に備え付けてある台所に立つ。
その姿を横目で見るといつも思う。
――やっぱりルークは専業主夫が世界一似合うなぁ。
手際よく作られていく手料理は少ない食材でも豪勢に見えるよう工夫されており、金銭に余裕のある生活をしているのでは無いかと錯覚させられる程。
「るーくってほんとう、てんさい」
見た目良し、匂い良し、味最高の料理を頬張りながら目を輝かせる。
ルークの天才論、一つだけ間違っていない事がある。
家事に関して言えば本当にルークは天才なのだ、それ以外はポンコツだけど。
「当たり前だろ、俺は生まれながらの天才だからな」
鼻を高くしたルークも食卓につき、行儀良く食事を始めた――かと思うと扉がギィーッと音を立てながらゆっくり開く。
「……それ、俺達のもある?」
寝息を立てているシューを背中におぶったレジが肩で息をしながら帰ってきた。
ガスマスクから苦しそうな呼吸音が聞こえてくる。
「二人とも無事で何よりだ、まあお前の事だから心配はしてなかったが」
「でも正直危なかった……シューの忌力が切れるのがもう少し遅かったら大気圏まで飛んでってた」
「えぇ……そんな状態からどうやって生きたまま連れて帰ったの?」
レジは経緯を説明する気力はない様で、起きる気配のないシューの長い髪を解くとベッドに寝かせる。
ケイルで飛んでいる時の風除けの為のサングラスも外してあげると、レジも砂埃まみれの服を着替え始める。
よく見ると所々が小さく破れている。
そんなにボロボロになるなんて一体どれ程のスピードで追いかけていたのだろうか。
砂埃予防用のガスマスクを外して深呼吸をすると倒れ込む様に食卓につく、そしてタイミングよく現れる出来立ての食事。
「ケイルずっと使ってたのは大前提で……俺の固有武器……ブーツの底に刃出してスパイクみたいにして……垂直の崖みたいなの登った……ケイルのせいですごいスピード、こわ……それで、空中で、キャッチ……着地も垂直の、崖、こわ……しんど……」
「かわいそ」
やっとの思いで数刻前の質問の答えを口にする瀕死の仲間を尻目に、冷たい返事だけ投げつけて食事を続ける。
「こら、帰ってきた仲間をもっと労われ。初めて会った頃はもっと人懐こかっただろ」
ルークは口を動かしながらも、レジが投げ捨てた服やらガスマスクやらを手際よく片付ける。
毎度の事ながらあのボロボロの作業服も明日には綺麗になっているだろう。
「あのねお母さん、僕にもオンとオフがあるの。二十四時間ずっとお兄さん! お姉さん! って媚びてたら疲れるの」
「どこにお母さんがいるんだ」
「目の前」
キョトン顔のルークを放っておいて食事を続ける。
ルーク達に媚びていた時の事を思い出すと吐き気がしそうだ。
媚びて得をするならいくらでも媚びるが、この一文無し共に媚びた所で出てくるのは美味しい食事だけ、しかも媚びなくても出てくる。
なら面倒な事は全部取っ払って最低限の活動しかしない。
「この状態で明日仕事? 信じられない、あー……働きたくない」
「お兄さんが働かないとあっちの寝てるお兄さんも飢え死にしちゃうよ? 最年長でしょ頑張って!」
語尾を上げて、にこーっと部外者に向ける笑顔でレジを見ても何の反応もなくやはり何の得もない。
――弱冠二十才で最年長扱いなんて可哀想だなぁ、シューは十七才らしいけど中身は子供だし最年少は十六才のルーク、一応全員成人だけどよく全滅しないなこのチーム。
そんな事をしているうちにもルークは、洗濯してくる、と言って部屋を後にする。
バタンと扉が完全閉まった音がするとレジが突っ伏したまま視線をこちらに向ける。
「それで取引はどうだったの? 俺がいなくてもちゃんと決まり守った?」
「生き残る為の決まりでしょー僕だって命は惜しいんだからちゃんと守るよ……ちょっと危なかったけど」
決まり、と言うのは元々レジの中の自分ルールだったが、途中からリョウと共有して生き残る為の大切なルールとなった。
そうは言っても簡単な内容で三つだけ。
――レーベンとは取引しない。
――何事も独断で決めない。
――ルークを単独で行動させない。
これらさえ守っていれば一先ずは安心できる。
シューに伝えないのは理解できないからで、ルークに伝えていないのはもちろん三つ目のルールが原因だ。
そんな事本人に伝えたら傷つくだろうというレジの計らいだった。
きっとこういう事の積み重ねで今のルークの性格が出来上がったのだろう。
周りに恵まれて羨ましい事で。
「……れじぃ……おなかいたぃ」
翌日の仕事内容を共有しようとしていた矢先、ベッドに寝かされていた長い白髪がモゾモゾと動き出す。
「きもちわるい……」
「それお腹空いてるんだよ、昼から何も食べてないから」
ゔー、と呻き声だけあげて起き上がる気配のないシューを嫌な顔一つせずにベッドまで迎えに行く。
そんなレジは世話焼きで損な性格だと思う。
「どしたんレジ、調子悪そう。元気ない?」
お前のせいだよ、と声を大にして言いたいがレジはそれを絶対に認めない。
「大丈夫だよ、寝れば治るから」
――やっぱりね。
シューの前では弱音の吐けないレジの代わりにリョウが大きなため息を吐く。
それにしてもレジはシューを甘やかし過ぎる。
弟か、下手したら自分の子供の様な扱いに頬を膨らませる。
本来、甘やかされるのはリョウの役割と相場は決まっているのだ。
ご飯を少し譲ってくれたり、仕事を肩代わりしてくれたり、お小遣いくれたり、今この場で子供を甘やかす方法なんていくらでもある。
「こらレジー、シューばっかりじゃなくて僕の事も甘やかしてよーこっちは七才なんですけどー」
手足をバタバタさせて子供らしさをアピールするも、あろうことか返ってきたのはため息。
「リョウは世話焼かれなくても生きていけるでしょ。俺無しでも仕事の話つけれるくらいだし」
「……はくじょーものーッ! 世話焼かれないと生きていけないと思われてる事ルークにチクってやるーッ! うわーん!」
これ以上何か言えば、言われたくない事を言われそうなので意地の悪い事を吐き、泣き真似をしながら机に突っ伏す。
はいはい、と生返事をするレジと空腹のせいでずっと上の空のシューを突っ伏したまま腕の隙間から覗く。
こんな会話が少しだけ、少しだけ楽しいと思ってるなんて絶対に認めな――
「なあ、昼間話した依頼主とそこで会ったんだが」
「えッ?!」
「えッ?!」
リョウとレジの声が重なる。
レジが驚いて思わず手を離してしまったせいで、シューが再びベッドに仰向けに倒れる。
痛くはない筈なのに、いてっ、と声を出している。
「な、ななな、何で?! 何でこの宿に僕達が泊まってる事知られてるの?!」
いじけてるフリしていたのも忘れてルークに詰め寄る。
宿の場所は絶対に教えていない。
依頼主は獣人ではなかった――もしかして尾けられていたのか、しかし何のために。
「何か言われた?」
レジがシューの髪を結びながら簡潔に情報を整理しようとしている。
服もいつの間にか部屋着から予備の作業服に着替えていて、サングラスやガスマスクも装着している。
明らかに逃走の準備だ。
「年齢とか出身地とか聞かれたから答えておいたぞ。あっあと、あながある? だったか、同点賞状? だったか、まあとにかくよくわからない事も聞かれたが、知らないから聞いてくると言ったらついてきた。だから今部屋の外で待たせて――」
「ッぅぎゃぁあああッ!」
思わず断末魔の様な悲鳴をあげてしまった。
――奴隷狩り。
箱入りのルークには理解できなかった単語が頭の中でスラスラと解読されていく。
ルークが理解できていたら部屋の前で待たせるなんて事しなかっただろう。
ルークを一人で部屋から出してしまった――つまり三つ目のルールを破ってしまっていた事がこの窮地の原因の一つ。
ほんの数分も目を離したらダメなのか。
レジも焦り出したようで窓から外を確認し、未だ上の空のシューを手招きで呼び寄せる。
「……シュー飛べる?」
「んー……ゆっくりなら。ずっとは無理だけど」
「ならゆっくりでいいから出来るだけ高く飛んで、それなら消費忌力増えないでしょ」
シューのケイルは高度は全く関係なく、飛ぶスピードで消費忌力が決まる。
確かに高く飛べば誰かに捕まる心配はない――じゃなくて。
「こらぁあ! シューだけ逃がそうとしないでよ!」
「え?」
シュー以外を見捨てるつもりなのか、このガスマスク男は。
冗談にしては状況が悪過ぎる。
「狙われてるの多分僕とルーク! レジ達は昼間会ってないんだから! でも何でトートが奴隷狩りなんて――」
「何言ってるんだ? 今回の依頼主はレーベンだろ?」
「へ?!」
レジとリョウの周りの空気だけが凍りつく。
――一番大切な一つ目のルールをまさか自分が破ってしまっていたとは。
レジからの視線が痛い。
「リョウ……」
「ち、違うよ! 見た目は完全にトートの通常型だった」
「美形のレーベンはトートに変装する事あるんよね」
稀に発動するシューの冷静な分析も相まって、ろくに確認もしなかった過去の自分に腹を立てる。
まあこの顔だったらトートだろう、と相手を舐めていた。
「だぁああ! わかってるよ! ルークも何で教えてくれないの! 獣人なのルークだけなのに!」
帽子越しに髪をぐしゃぐしゃに掻き乱しながら、怒りの方向を同じ場にいたルークに向ける。
「リョウが話を進めていたから今回はレーベンが相手なんだと、しか、思わなかった」
いつもと違い、歯切れの悪い話し方をするルークの俯いた顔で我に返る。
そもそもルークはルールを知らない、それにリョウもルークにレーベンかどうかの確認はしなかった。
「ッ悪いのは騙そうとしてきたレーベン! はい話し終わり!」
「部屋の外で待たれてるんでしょ、窓から逃げるよ」
いつの間にか飛んでいっていなくなっていたシューに、窓際でケイルを浮かび上がらせているレジ。
――このままじゃ置いていかれる。
「ッ早く! レジに置いていかれるよ!」
「レジが俺達の事を置いていく訳ないだろ」
窓に足をかけたままのレジを追い越してルークを引っ張って窓から出て行く。
「はぁ……はぁ……ここまで来れば大丈夫でしょ」
「なあリョウ」
奴隷狩りが外で待ち伏せていると予想していたが、不幸中の幸いにも向こうもこちらを舐めていたようで誰にも見つかる事なく宿を離れることが出来た。
ルークが何か言いたげだが、別の声に遮られる。
「リョウ」
ケイルを使わずに普通に走って追いかけてきたレジに呼び止められ、肩を掴まれる。
さっさとケイル使って愛しのシューを回収しに行けばいいのに。
「何? ヘマした僕を捨てるなら今って事? ついてくるなって言うならそうするけど」
「いや、普通に心配――」
「なあレジ」
「レジー」
また間の悪い事で、ルークが口を開いた途端シューがフラフラと空から落ちる様にゆっくりとこちらに向かってきている。
「俺何で一人で飛んでるんだっけ? 忘れたんだけど」
「奴隷狩りから逃げてるんだよ、誰にも会わなかった?」
「奴隷狩りって……それ?」
レジの頭の上に腕を置くシューの指差す先には――十数人の顔面凶器軍団、先頭には一人だけトート並みの美形の男。
「なあ俺はずっと――」
「もしかしてルークがさっきから何か言いかけてたのって……」
ルークの方を見れば頷く動作をする。
どうでもいい事の主張は激しいのに大切な事は控えめってどうなっているんだ。
「ん? 殺すの?」
「シュー、これは忘れちゃダメだよ。レーベン殺したら死刑。わかった?」
「あーそっか。て事は――」
シューがレジの頭を離れ、リョウに近づいてくる。
赤い四白眼がサングラス越しにこちらを見つめる。
機嫌が悪いのかいつも噛んでいる風船ガムを膨らませて割る。
「ルークよりリョウの方が軽いよね。重いけど」
それにリョウが返事をする間もなく背後に回られ、脇に手を入れられる。
そして、ふわっとした浮遊感が体を襲う。
どんな絶叫マシーンよりも怖い感覚に背筋が凍る。
敵から逃げるには一番安全な逃走手段であり、命が一番危険に晒される移動手段だ。
「しゅ、シュー……? 飛びながら寝ないでよ……? 落とさないでよ……?」
「リョウビクビクしてて子供みたい」
「僕子供なんだけどぉ……」
恐る恐る下を見れば、土煙が上がっているのが見える。
レジがルークを抱えてケイルで猛ダッシュしているのだろう。
目的地わかってる? とシューに問えば、レジのいる所、と返ってくる――不安しかない。
結局シューの忌力が持たず、たどり着いたのは隣町。
レジはそれを見越していたのか連絡するまでもなく合流できた。
そして見つけた宿は安宿で三部屋確保、部屋割りは自然とレジとシューが同部屋となった。
リョウは一人、部屋のベッドに横たわる。
天井を見つめ、今日の失態を悔やむ。
――三つしかないルールを一日に二つも破るなんて。というか口調が乱れ気味だったなぁ。気をつけよ。
何て考えていると、コンコンとノックの音が部屋に響く。
奴隷狩りが追ってきたのかと、恐る恐るドアスコープを覗けば獣耳をしゅんと寝かせて尻尾も下がり気味のルークがいた。
浅くため息を吐き、扉を開けるとおずおずと部屋に入ってくる。
「どうしたの? 今日はもう暗くなるからもう休もうって――」
「その……今回の事は俺のせいなんだろ……天才なんだから言われなくてもわかる」
流石の自信家も責任を感じているようでわざわざ謝罪に来たようだった。
いつもは眉も口角も上がっている顔が今は正反対で、高い背も何だか小さく見える。
そんな態度を取られたら流石のリョウもいたたまれない。
本来ならビシッと言ってやるのが大人という物だろうが、ルークは子犬の様で庇護対象にしか見えない。
こういう時だけレジの気持ちがよくわかる。
リョウは徐にルークの俯いた顔を覗き込む。
「変なお兄さん、ルークはいつも通りだったでしょ。レジがいなくて適当な仕事したのは僕、悪いのは奴隷狩り。オッケー?」
「む……養ってやるって言ったのにいつも悪いな。代わりに抱っこしてやろうか……?」
そう言いながら勝手にベッドに座り、両手を広げるルーク。
子供扱い、ひいては衣食住の確保やこの身に降りかかる面倒事を引き受けて欲しいだけであって、こんな事をされては反応に困る。
――ルークに抱っこされるなんて冗談じゃない。
「あ、そういえば小さい依頼受けたんだよね。病人だからタバコ吸いたくても買いに行けないんだって。僕が買いに行ってもいいけど面倒だから代わりに買ってきてよ。苦いやつ。依頼料はルークの総取りでいいから」
「だがトートに年齢規制はない。リョウが買いに行くことは別に変では――」
「通常型だからレーベンの未成年じゃないか確認されるの。ね、面倒でしょ?」
半ば強引に依頼料を手渡して、部屋から押し出す。
扉の外では、場所がわからない、やら、報酬はいらない、やら聞こえてくるが全部無視する。
少ししてやっと静かになったと思ったら、別の声が扉越しにリョウを呼ぶ。
相手が相手なだけに開けない訳にいかず、いい加減休みたい身体を動かしてゆっくり扉を開ける。
またフラフラとどこかに飛んで行かれてはリョウの責任になりかねない。
「どうしたの? シュー」
「レジがルークと出かけるからリョウと一緒にいろって」
休めない理由が自分だったとは。
今日はリョウが原因の出来事が多くて嫌になりそうだ。
ルークが宿を出ようとすればレジが着いていく事は安易に予想ができた。
そして一人になったシューがリョウの元に来るように言われる事も。
笑顔のまま後悔していると、シューがケイルを浮かび上がらせて飛びながら部屋に入っていく。
シューはケイルが制御できない時があるのに総忌力量が無駄に多いから困る。
「ねぇシュー、飛ぶのって楽? 抱えられて飛ぶのは落ちそうで怖いけど自分で飛べたら動かなくていいから楽かなぁ、なんて――」
単なる談笑、シューとはあまり二人きりで話す事が無いので適当に話していた。
ボーッとしているシューの事だから、らく〜、とでも返事が返ってくると思っていた。
「楽じゃないよ」
その声色から感じられる感情は拒絶。
リョウに対してではない。
ケイルに対してか、それとも自分自身に対してか。
「こんなケイル、無い方がよかった。リョウ、シャボン玉って歌知ってる?」
「え、ヒッポ大陸の童謡でしょ。知ってるけど何で?」
無重力空間の様に、宙に浮いたまま膝を抱えてくるくる回るシューの顔は見えない。
「あの歌知った日、歌ってた。俺みたいって思って。そしたら飛んでたんよ、ふわーって。地面がどんどん遠くなっていってどこまでもどこまでも飛んでって、これ死ぬなでもまあいっかって。そしたら――レジが来た」
シューは葉っぱが地面に落ちる様にゆっくりリョウの頭の上に舞い降りてくる。
いつもレジにしているようにリョウの頭の上に腕を置く。
「このケイル。皆に迷惑かけてばっかりだから楽じゃない。リョウにあげる」
「も、もらえないよー。ケイルの移植なんて聞いた事ないしぃ……」
「いしょく?」
――話が重い! 無理!
見え透いた作り笑いをするリョウにシューは、いしょくって何? ともう一度問いかける。
二人きりだから楽しくお喋りしてようと思っただけのに何でこんな気持ちにならないといけないんだ。
「んーわからん……リョウは子供なのに物知り。俺とは大違い。俺は一人じゃ何も決められないし言われた事しかできない。覚えるのも下手だからよく無くし物してこのサングラスも何個目だかわからんし、お腹の傷の事もレジに拾われる前の事もまだ思い出せない」
シューは自身の腹部にある二つの手術痕のような物を服の上から撫でる。
リョウは見るからに項垂れるシューを瞳だけ動かして見つめる。
シューは『無』なんだ。
何もない、何もできない、だからレジはシューから離れないのだろう。
これ以上話していると、リョウもレジの二の舞になりかねない。
リョウの本能が距離を取れと警告を鳴らす。
いつまでも一緒にいられる訳ではない、だから誰かに執着してはいけない――
「だから俺の頭の中にいるのレジとルークとリョウだけ。俺もリョウみたいになれるように頑張る」
子供の様な無邪気な笑顔でリョウの顔を上から覗き込む。
本能からの警告が最大限に鳴りだし、胸が締め付けられる様な感覚に襲われる。
「ぐぅぅ……っ」
――あの庇護対象ホイホイ! 保護者気質! よくこんなとんでもない子連れてきたな!
ほぼ無意識的にシューの頭を撫でる。
撫でられたりするのは自分の役割、と心の声が身体の内側で木霊するが、頭の上にいる精神年齢五才くらいの成人男性に勝てる気がしない。
なんて思いながらシューと戯れていると、扉をノックする音がした。
シューを頭に乗せたまま扉を開けるとレジとリョウが立っていたので、シューは何も言わずレジの頭上に移動して行く。
「苦いタバコってだけじゃ銘柄わからなかったから一番苦いのにしたけどよかったの?」
「あーうんいいよ、多分それだから」
レジからタバコを手渡され、銘柄を確認するとお目当ての物だった。
久しぶりに手にしたタバコに思わず笑みが溢れそうになる。
「……俺はもう一回出てくるぞ」
何を思ったのか突然そう言い放ち、来た道を戻ろうとするルークをレジが慌てて呼び止める。
「待ってルーク、シューが今日一日何も食べてないから何か作ってあげて」
「そういえばお腹痛い」
するとルークが分かりやすく考える素振りをした後、踵を返してレジとシューの部屋に向かって歩き出す。
「待ってルークお腹空いた」
それにふよふよと飛びながらついて行くシュー、レジもきっとついて行くだろう。
これでやっと休息が取れる。
「ちょっと入るよ」
「ええ……」
何なんだ今日は、個人面談の日かなにかなのか。
レジは扉を閉めて内側から鍵を閉める。
ちょっと入るよ、の言葉の軽さで部屋に入った人の行いじゃないだろう、それは。
これから何が行われるのか、いつもはこんな事をしないレジの予測不可能な行動に恐怖を感じてしまい、リョウの借りている部屋の筈なのに廊下へと繋がる扉の前から動けないままでいた。
「おいで」
不意にそう言われて振り返ると、ガスマスクを外したレジがベッドに座って自分の横をポンポンと叩いていた。
ますます不思議で理解ができない。
言われるがままに隣に座ったが、何が始まるのだろうか。
先程シューを頭の上に乗せていたから怒ったのか。
はたまた昼間のヘマで怒っているのか。
「置いて行く訳ないでしょ」
「へ?」
レジの口から出た思いがけない言葉に思わず間抜けな声が出る。
レジはこちらを向かず、正面を向いたまま話を続ける。
「置いて行く訳ないでしょって言ったの。さっき逃げる時そう言ってたのが気になったから」
――ッ早く! レジに置いていかれるよ!
――ヘマした僕を捨てるなら今って事?
そんな些細な事を気にして今この時間を設けたというのか。
呆気に取られて目を丸くする。
「俺のケイルは自分の足で踏ん張らないといけない。だから飛んでるシューには意味ないから先に逃がそうとしただけ。リョウとルークの事は抱えて逃げようとしたの。わかる? だから卑屈にならないでよ」
嘘、ではないのだと思う。
ただ、そんな忌力も体力も残ってなかっただろう。
先程逃げ切れたのは抱えていたのがルーク一人だけだったからだ。
リョウまで抱えていたら今頃どうなっていたか――まあ、たった今置いて行かないと啖呵を切った男の事だ、目に見えてる。
それこそルークがレジを見捨てる訳がないのだから、結局全滅していた事には変わりないというのに。
「ちょっとちょっと、誰が卑屈なの? 僕とは正反対の言葉じゃん。さっきも流れでそう言っただけだもん! こんないたいけな子供を置いていける人なんている訳ない――」
「リョウって捨てられるとか置いていかれるとかよく言うよね、案外ネガティブ」
全て無視された上、ネガティブとまで言われてしまった。
こんな天真爛漫我儘クソガキのどこにネガティブさを見出しているのか。
難しい顔でレジの方を見ていると、突然こちらを向かれて目が合う。
レジの耳が少し赤い気がする。
「子供だってちゃんとわかってるから。いつも我慢ばかりで世話焼けなくてごめんね。俺の手が空いてる時は子供らしくしてていいよ」
――なんだ。照れてるからこっち向かなかっただけか。案外可愛い所もあるじゃん。
確かにこんな話はルークやシューとはしないだろう、ずっと一緒にいられると信じて疑っていないのだから。
思わず「言葉にしないとわからないような卑屈な子供は初めてですかー?」と揶揄いたくなる。
しかしそういう訳にもいかないので、ニヨーっと微笑んで口を開く。
「お父さんの手はいつ空くのかな? 成人済みの子供が二人もいるのに」
「子供って……」
呆れたように苦笑いするレジはもういつも通り。
――ああ、よかった。これで話が終わる。
「子供、うん子供ね……ねぇリョウ」
「何?」
否定しないのかい、とツッコミしたいところをグッと抑えて普通に返事する。
そんな物憂げな表情されたらどうにもできない。
もうリョウの目の前でいつもと違う感じ出すの禁止にしてほしい、今日だけで何回目だ。
「ルークが自分の事天才天才って言うの許してあげて」
何を言い出すのかと思えば、もうそれはリョウにとっては呼吸してくださいと言われたような物で、今更頼まれるような事ではない。
「もう今更過ぎるよーでもレジは昔からルークの友達なんでしょ。ルークがああいう性格って事はよっぽどいい所で育ったんだね。もしかして花園?」
嫌味のつもりで言ったのだがスルーされ、珍しくレジの眉間に少しだけ皺が入った。
何か地雷を踏んでしまったのだろうか、とオロオロしているとレジが口を開く。
「全然いい所じゃなかったよ、ルークは家にほぼ軟禁状態だったから隣に住んでた俺と自分の親くらいしか喋った事なかったし」
「え?!」
今日は重い話ばかりだ。
あのルークが軟禁されていた、と聞こえた。
確かに世間知らずだとは思っていたがまさかそんな目に遭っていたなんて、普段の様子から見当がつくわけがない。
「ルークの親、頭おかしかったんだよ。ルークの事天才って初めに言ったのあいつの親だよ。天から送られた才能じゃなくて、天からの災害、天災って」
一言話す毎に言葉は吐き捨てるように放たれ、レジの手にも力が入っていくのを感じる。
話を聞く限り暴力は振っていないにせよ、余程酷い親だったのだろう。
「天災って自然災害の事じゃん」
「ルークが生まれたのを自然災害と同じように思ってるんだよ、おかしい人たちだから。だからルークが天才っていうの否定しないであげて。天才って言われた本当の理由知ったら、親にそんな風に思われてるって知ったら、あいつおかしくなる」
何でもかんでも隠すのは正しいとは思えない。
本人にだって知る権利はある。
ただ、俺は天才だから、と常日頃から自己に自信を持っている彼がその根拠を否定されたらどうなるかは、出会って日の浅いリョウにだって想像ができる。
「それはいいけど……そんな状態からよく家出れたね」
軟禁の理由までは聞いていないが、そんなにあっさり解放してもらえる物なのだろうか。
「もう帰ってこないって言ったらすぐに出してくれたって言ってたけど」
「それで心配だからレジもついてきたって事?」
そういう事、と軽い返事で帰ってきたが、ただの隣に住んでる友達の為に一生実家に帰らない程の覚悟を持てるレジもどうかと思う。
深夜になり、皆寝静まったであろう時間にリョウは起き、レジとルークに買ってきてもらったタバコの封を開ける。
何を隠そう依頼主はリョウなのだから何ら問題はない。
隠し持っていたライターで火をつけ、深呼吸でもするようにタバコを蒸す。
「あー……生き返るわー」
いつものまん丸な目は半開きのジト目で表情もどこか気怠げ。
一本目を大切に吸い、二本目に突入しようとした時に今日の出来事が走馬灯のように脳内を駆け巡る。
「……皆大変だねー僕の話しないといけなくなったらどうしようかと思ったけど、まあ聞かれなくてよかったわ……病気の話なんて誰も聞きたくないだろうし」
そう言い、二本目のタバコに火をつける。
リョウは中度の幼体成熟症候群だった。
七才の時に突然身体の成長が止まり、医者にこれ以上身体が成長する事はないと言われた。
その時は絶望――する事はなく、他の人より少し早く成長止まっただけだしまあいいか、と思っていたが世間はそうはいかなかった。
月日の流れと共に成長していく同世代の子供から心無い言葉を投げつけられ、物理的にも色々投げつけられた。
最初こそ我慢していたが、堪忍袋の尾が切れた時にケイルが発現し今まで馬鹿にしてきた奴らを半殺しにしてその日の内に一人で村を出た。
それから今日に至るまで、ずっと七才のフリをしている。
病気だと気づかれないように、長くても一年しか同じ街にはいられない。
「ついこの間まで物理的箱入りだった坊ちゃんに、中身赤ちゃんの純粋無垢の化身、その二人を心配する保護者気質の子供、そこに病気を利用して守ってもらおうとしてる大人の僕って……どうなってんだこのチーム。あはっ傑作、あははっ」
腹を抱えて笑いながらベッドに仰向けになる。
そしてひとしきり笑った後にため息を吐き、片腕を顔の上に乗せる。
「確かに僕は非力よ。だってこれ以上身体が大きくなる事ないし。でもいつまで経っても守ってほしい守ってほしいじゃ駄目でしょ。僕にだって最年長の――二十四才のプライドがあるんだよ。たかが餓鬼の三人くらいお守りしてみせるわ。あーッ! ずっと一人だったらこんな事思わなくて済んだのになぁーッ!」
おそらく防音ではない宿で大声を出してしまって思わず口を手で塞ぐ。
ルーク達がリョウに何かあったと思って駆けつけてきたらマズい。
久しぶりのタバコでハイになってました、では済まされない、全てが台無しになる。
そもそも七才のリョウはタバコを吸ってる時点でアウトだ。
「……あの子らと会って三ヶ月くらいか。これ以上成長できないこの身体でいつまで一緒にいられるんだか。まあレジは別にしてもルークとシューは目を離したら死にそうだしな……僕も特別強い訳じゃないけど。あ、ほら人手が多いほうが生存率上がりそう……こんな子供いない方が生存率あがるって」
――ああ嫌だな、一緒にいる理由を見つけないと一緒にいられないなんて。
「って、誰がそんな事思うか! 明日にでも一人ぼっちの風来坊に戻ってやる! 病気の事知ったらルーク達だってきっとバカに、するも……ん、ね……」
思わず子供口調になってしまった上に、尻すぼみになる声。
僕ってこんなに臆病だったか? などと考えながら次のタバコを紙箱から出す。
病気の事を打ち明ければ、気づかれる前に離れようなどと考えなくていい。
でもそれだけはどうしても言える気がしなかった。
辺りは真っ暗、部屋の電気は全て消えていた。
そして少し離れた所から苦いタバコの匂いがして、絶対に誰にも気づかれないと確信したルークは意気揚々と宿を飛び出していた。
暗い夜道、只でさえ一人で外出する事のほとんどないルークは嬉しそうに尻尾を振りながら目的の店から出てきた。
「リョウもまだまだ子供だな。俺が犬型だということをたまに忘れている時がある。変な嘘をつかなくてもお前がタバコを吸っている事くらい匂いでわかる。隠さなくてもいいのにな。あんなに嬉しそうな顔をしているのは中々見ない……」
レジと一緒にタバコを持っていた時の、あの嬉しいのを隠そうとしている顔を思い出し微笑む。
いつも迷惑をかけてしまっている分、そして働かせてしまっている分、その他諸々のお礼としてリョウの好きなタバコを何個かプレゼントしようと思う。
もちろんプレゼントだとバレないように。
さっきの依頼の時に買いすぎたとでも言っておこう。
「まあ身体には良くないだろうがたまになら……子供の世話は大変だな。それにしてもこんな苦い匂いの物をよく吸えるな……」
宿から出るの時に匂った匂いといい、今抱いている紙袋の中から匂う匂いといい、ルークにはあまり良い匂いには思えない。
「おーガキがいいもん持ってんじゃん。あ? 大人か?」
突然声をかけられ、身体をビクつかせる。
昼間の奴隷狩り――と一瞬焦ったがこの匂いは知らない匂いの上にトートの猫型の匂いだ。
――ああよかった、トート仲間か。
そう胸を撫で下ろし、安心していつもの調子で返事をする。
「失礼な、俺は大人だ。それにこれは仲間の物だから渡さないぞ」
声のする方を向けばやはり猫型で、紫色の髪をしている男だった。
タバコ狙いだろうと見越しての返答をしたが、どうやら違ったようで、その猫型は袋の方は一切見ずにルークの顔を凝視している。
「いいぜぇ別に。自分で買える金あるし。ただ……仲間ってのは何人だ? 俺の仲間この間皆死んじまって困ってんだよ。お前、オイシイ仕事に興味ねぇか?」
――リョウ、今日の失敗取り戻せるかもしれないぞ。
二つ目のルール、独断で決めないが破られた時だった。
そしてルールは三つでは足りなかった事も後に判明した。
――四つ目のルール、異名保持者には関わらない。
これがあるべきだった、そしてやはりルールは共有しておくべきだった。
ルークが自信満々に連れてきた男、ギニアは異名保持者で迂闊に逆らえなかった。
それから仕事を取ってくるのはギニアとなり、内容も戦闘する事が前提の物ばかり。
ギニアは後衛からリョウ達を駒のように扱う。
しかし元々争い事に慣れていない為、叱責される事も多い。
怒られ慣れていないルークは自信を喪失していった。
逃げようと諭すもギニアの口車に乗せられ気づけば尊敬する様になっていて、持ち前の純粋さも少しずつ陰っていった。
そしていつの間にか今まで使う事を知らなかった敬語も覚えていた。
レジは最初こそ抵抗の意思を持っていたが、その過保護さを逆手に取られてしまい人質を取られているも同然の状態。
しばらく経って、ルークの事は任せたよ、とリョウに言ったっきりあまり話す事はなくなり、シューと今まで以上に行動を共にする様になった。
そのシューは案外いつも通り。
リョウはといえば――
「隊長ー! 僕の作戦採用してくれるか考えてくれましたー?」
パタパタと小走りで近寄り、後ろに手を組んで笑顔でギニアの顔を覗き込む。
昨日ギニアが提示した作戦は、ルークとリョウが前衛を切り開き、シューとレジが別々の場所で敵を各個撃破するというもので、それに物申したのがリョウだった。
「あ? お前が特攻でレジとシューが撹乱と遠距離攻撃でルークが後方支援のやつだろ」
「そうですよ! それに僕たちが参戦するのは中盤、できれば終盤です。敵方の大半は疲弊してる所に途中参加したら僕のケイルで無双できると思うんですよね」
ギニアは尻尾を振り回して面倒くさそうに返事をするも、話はきちんと聞いてくれていたようなので、さらに押してみる。
「敵の戦力舐めてると痛い目見るぜ? お前みたいな子供一人じゃどうにもなんねぇ。そんなのよりルークを前に出してお前と連携して戦わせろ――」
――なんでこの人いつもルークを前に出したがるかなぁッ!
「無理ですよ! ルークはちょっと、いやかなり頭が弱いじゃないですか。足手纏いーって奴です、連携なんてしてられませんよ」
「元から仲間なのに薄情なガキだなぁ。もう面倒くさいから全員前衛、細かい事は前衛の中でやりくりしやがれ。責任はお前が取れよ」
「じゃあ四人共同じ場所に配置って事ですね! りょーかいでーす! でも僕一人で皆倒しちゃうかもしれないですけどね!」
リョウはそう言い放つと足早にその場を後にする。
長居して意見をかけられてはたまった物ではない。
――誰一人死なせてやるもんか。もう僕にオフは必要ない。ルークを戦いの場で一人になんかしたらすぐに殺される。卑怯でもなんでも戦果を出せばギニアは僕をよく使うようになるかもしれない。それにうまく言って毎回シューと組ませてあげるからちゃんと守りなよレジ。
――僕が君たちから離れる日までに、君たちが安心して暮らせる場所を見つけてあげる。だって僕が最年長なんだから。




