No.18 遊びに来たお客さん
レイはヨザクラの依頼からしばらくして一人での仕事を任されていた。
ヨザクラ、といえばエンはまた重症のまま動き回ったらしく一週間程休んでいた。
今日から復帰して食事処に出ている様だが一週間もの間フィーに看病されて羨ましいな、と思っていたら今日の仕事が舞い込んできた。
仕事内容は不良グループの生捕り、依頼主は手柄を上げたい警察。
この仕事って警察には秘密なんじゃ? と思ったが汚職警官は自分の手柄として上司に献上する為に桃源郷を利用する事はそう珍しい事ではないらしい。
この国大丈夫なんだろうか……
「ただいまぁー」
朝に出発して昼には帰って来れる楽な仕事。
就職した日にリルが言っていた通り、フォミが各々に適した仕事を充ててくれるというのは本当みたいだ。
「おかえりなさい。一人で出張に行くのは初めてだったけどどうだったかしら?」
「全然大丈夫だったよ! フォミちゃんの予想通りオレのケイルと相性バツグンだった!」
「ならよかったわ」
そう言いながら食事処の後片付けをしているフォミを不思議に思う。
「あれ、まだ営業時間だよね? 皆も集まってるけど何かあったの?」
営業中は診療所からほとんど出てくる事のないソルまでいる。
「あら、レイくんに伝えてなかったかしら? 今から特別なお客さんが来るの。だから今日は貸切よ」
そういえば昨日の会議の時に言っていた気がする。
会議みたいに座って意見を言い合うような行事は苦手で自分の仕事の事だけ聞いて後はあまり聞いてなかった。
でも誰が来るかまでは言ってなかったような……
「お客さんって誰――」
レイがそう言いかけた所で食事処の扉がコンコンと音を立てる。
「ちょうど今来たみたいよ」
相手を目で確認する事なく扉を開けて「どうぞ」と店内に招き入れる。
誰だろうと思いながら扉を方を見ていると、入ってきたのは見覚えのある制帽とポニーテールと鉢巻――
「邪魔するぞ」
「キルさん!」
シャークとヒガンが太々しい態度と友好的な態度という対照的な態度で姿を表す。
ヒガンは足早に名前を呼んだ人物の元へ駆けつける。
……こんな子だったっけ?
「ヒガン! 二ヶ月ぶりだな! 来客ってお前らの事だったのか」
そしてそれを何の抵抗もなく受け入れるヒガンから一番被害を受けてたキル。
キルのお人好し、もとい人たらしはきっと永遠にこのままなのだろうな、とレイは苦笑する。
「はい! 手続きに手間取ったので思ったより会うのが遅くなってしまいました」
「手続き? 僕達何も知らされてないんだけど」
冷たくあしらう様に言い放つソルの顔は時折自分に向けられる視線と同じ、あからさまに嫌な態度。
この二人は見ていて本当に飽きない。
ハクもソルの態度に合わせてヒガンの事を警戒している。
「言ってないのか、先週連絡しただろう」
「サプライズよ。とっても嬉しい事だもの」
振り返れば扉の鍵を閉めている最中のフォミの横でシャークが壁にもたれかかっていた。
フォミは稀に見る作り笑いじゃない嬉しそうな笑顔。
――どうしてこの人たちは一番酷い目に合わせた人の所にわざわざ行くんだろう。
腕の皮膚が剥がれて流血していたフォミを思い浮かべながら、さらに視線を移し少し離れた所でリルの後ろに隠れているミルの方もチラリと見る。
「久しぶりやね」
ミルに話しかけているのだろうが、ミルからの返事はない。
これもまた珍しい。
ミルは敵でさえなければ基本的に誰にでも友好的な態度で嫌な顔してるのは見た事ない。
キルの次くらいにお人好し。
そのミルが隠れて返事しないなんて、何したらそんなに嫌がられるんだろう。
「うちの従業員あんまりいじめないでよ礫君」
「誤解やで、いじめてへんし」
それぞれがそれぞれで話し始めてしまい結局何しにきたんだろうかと思っていると――
「……結局何の用なんだ? 遊びに来たのか?」
機嫌の悪いエンが全部言ってくれた。
ヤクザはやっぱり警察と仲悪いんだろうな、きっと。
エンは足を組み頬杖をついて礫を睨み付ける。
「それもありますけど、やる事もちゃんとありますよ。仕事なんですから」
エンは礫に問いかけたつもりだろうが一番近場にいたヒガンがそれに答える。
キルに向けていた年相応の笑顔から初めて会った時と同じ冷たい顔になる。
「少なからず遊びには来たんだね」
思わず心の声が漏れてしまった。
ヒガンはこちらを一瞬だけ見てキルの方へ視線を戻す。
え、あ、無視?
キルちゃんどうやってこの子を口説き落としたのか教えてほしい……
「わいが言うから遊んでてええよー」
「はーい!」
「遊びに来たのはお前だけだろ」
嬉しそうに手をあげて返事をするヒガンにシャークはため息を吐きながら目を瞑る。
「えっと、それで何ですか? 礫……さん?」
なかなか話が進まずイライラしているのが目に見えてわかるようになってきたエンの変わりにフィーが拙い敬語でしどろもどろしながら再び礫に問いかける。
「気ぃ使わんでもええし呼び捨てでもええで。今日は異名の申請が通った事を知らせにきてん」
どよめく店内。
この事を知っていた人達はサプライズが成功して意地の悪そうな顔で微笑んでいる。
シャーク以外。
――異名って最初にリルが言ってた何かちょっと偉くなれるやつだよね?
「この前ヒガンとシャークと戦っとんのを見てあんたらに異名を持つ資格があるって思うたから申請したら通ってん。って事で――」
制服の内ポケットから無駄に高そうな紙を取り出し、中央の机に広げ、読み上げる。
「フォミ・アディクト、異名『記憶の支配者』
フィー・ディフィシット、異名『不完全な獣』
レイ・アパシー・サクセサー、異名『色狂い』
キル・パリサイド、異名『汚れなき拳』
ソル・アネーライト、異名『目に見える奇跡』
エン・プラグアグリー、異名『アングラの狂猫』
すぐり……ミル・キラー、異名『死にたがりの死神』」
――わお、オレの異名超失礼。
紙を覗き込み、書き文字を見ればその言葉しか出てこない。
このネーミングセンスは一体誰なんだ。
まさか厨二大好き王様が自分で考えてるんじゃないよね、まさかね。
「エンとミルはこれまで通りやで。まあミルは迂闊に異名名乗れへんやろうけど、これでリル以外は異名保持者やね。ほんで、これからは桃源郷に就職したトートは一定期間模範的に働いた後に予選免除で城での公式戦に出られるようにしたから、それで勝ったら異名を与えられるからねー」
「ねぇ、オレ多分戸籍ないんだけどいいの?」
「魔界の戸籍で大丈夫だよ。でも不便だろうから今度戸籍作っておくね」
――戸籍作っておくね。
とんでもないことをさらっと言うリルは一体どうなってるんだ。
「ちなみに僕はこの前戦ってなかったから申請通らなかったみたい」
「え、じゃあもしかしてオレリルより偉くなっちゃ――」
フォミから痛い視線をひしひしと感じ口をつぐむ。
そして近づいてくる気配がしたのでスーッとエンの方に逃げて行く。
フォミはレイを追う事なくリルの横に立つと咳払いをして話を続ける。
「皆よかったわね、これで卑下される事も少なくなると思うわ。それと礫さん」
「何?」
「うちの従業員達はラストネームにいい思い出が無い子がいるから出来るだけ使わないで貰えると助かるわ」
「せやな、配慮が足りのうてすまんな」
警察の一番偉い人にも物怖じせず意見を言うフォミ。
フォミに怖いものはあるのだろうか。




