No.7 お嬢様にしては品がない
僕は依頼される仕事はあまり好きじゃない。
食事処の横で診療所してるのも僕が望んでしてる訳じゃない。
でもこういう仕事よりかは擦り傷で来る患者の相手してる方がマシかな……
「殺し屋に狙われてるレーベンの名家のご令嬢の護衛……」
ハクを腕に抱えて歩きながらため息混じりに依頼内容を呟く。
フォミに行けって言われたならまだ諦めがつくけど、指名されたのがまた気に入らない。
「お前こういう系の仕事多いよな」
ソルの横を歩いているキルが不思議そうな顔をしている。
「お医者さんだから人気あるのかな」
2人の一歩後ろを歩いているミルがソルの代わりに答える。
「やめてよ、面倒くさい」
眉間にシワを寄せ、再びため息を吐く。
ソルは自分の事を役職で判断する人はあまり好かない。
大体僕はこんな事のために医者になったんじゃないし。
「だからお前はなんでいつもそう……」
ソルの無愛想な態度にキルが少し強めの口調で注意しようとした時、目的地の方向から誰かが走ってきた。
「ソル様! ソル様ーーーー!!!」
「うげ」
そして大声でソルの名前を呼びながらソルの懐に飛びつく。
ハクは咄嗟にキルの方に飛び移ったが、ソルはバランスを崩しそのまま飛びついてきた女の子の下敷きになる。
「私、ディビ・ディアールの娘、メニィ・ディアールと申します。この度は依頼を受けてくださりありがとうございます!」
ソルを押し倒した形のまま自己紹介をするのはロングの金髪をハーフアップにしてリボンをつけた女の子。
服は絵に描いたようなお嬢様。
「そんな事はいいから早く退いて――」
「あれ、お前大分前に事故に遭ってた奴か? 通りすがりにソルが治してた」
ああ、そういえばそんな事あったような気がする。
ソルは鮮明に覚えていなかったものの数ヶ月前にあった車の衝突事故のことを思い出す。
キルと一緒に通りかかったあれね。
キルが心配するから全員治して帰ったやつ。
……まあ酷い事故だったからどっちにしろ治して帰ったかもしれないけど。
そんな事よりキル。
人が下敷きになってるのにこのまま話続けるの?
そんな事絶対本人には言わないけど。
「はい! そうです! あの事故で助けていただいた時からソル様に心惹かれておりまして……もう一度お会いできる日を心からお待ちしておりました!」
身体の上に乗っているメニィを少し押しながら起き上がろうとするソルの動作が一時停止する。
まさか人助けしてこんな事になるなんて……
一度止まった体を再び動かし立ち上がるが眉間のシワは健在。
地面に座ったままのメニィはキルが手を差し伸べて立ち上がらせる。
先程から一言も喋らないミルの方を見ると身動きこそしていないものの辺りを伺っているようで目は鋭い。
「……うん、それじゃあミルはこの家の周りを一周してくるから2人とも家の中は頼んだよ。手筈通りね」
突然いつものにこやかな顔に戻り、ソル達に指示を出す。
そして3人に背を向け、4回手を振るとそのまま行ってしまった。
「もうこの塀はメニィの家だったんだな……この広さじゃ一緒に居ても効率悪いだろうから俺は家の中を見て周る。ソル、メニィの事ちゃんと守れよ」
「ちょっとキル――」
そういうとキルはハクを抱いたまま塀の上に飛び移りそのまま中へ入ってしまった。
優に5mを越える塀だがキルの身体能力なら飛び越えるのは容易い。
残されたのはソルと、目を輝かせて手を合わせているメニィだけだった。
嫌な予感しかしない……